第2章 第9話 どうやら不可解なことらしい
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 王宮》
王は、静かに耳を傾けていた。
死を纏う者が率いた敵との戦に、王国軍は見事勝利した。
その戦いについて、詳しい内容の報告を聞いている最中である。
その報告には、不可解な点が幾つかある。
特に王国軍に加担したという3人の強者の存在。
それが何者なのか、素性が分からぬという。
いま、この場に貴族の姿はない。
貴族たちには、この戦の詳細を知らせることはない。
部外者の助力を得て勝利したなど、王の権威を示す為には漏らすわけにいかないのであった。
王は、一息ついて椅子にもたれかかった。
そして、この場にいる面々を見渡す。
王宮魔導士のマゴット。
王国騎士軍団長のオルタス。
そして、第1王子のアルゴの3人。
王には7人の息子がいる。
その中で、アルゴは王位継承者の第1順位となっている。
第2王子のセキア、第3王子のカインは、昨夜の戦で殉職した騎士の葬儀に係る準備を進めている。
その為、この場には同席していない。
そのセキア、カインは、両者共に見目麗しくスタイルがとても良い。
それもあって、貴族だけでなく民からも高い評判を得ている。
それに対して、王太子のアルゴは太った体型をしている。
ぼーっとしながらずっと茶菓子をつまんでいた。
話を聞いているのかいないのか。
その様子からは判断するのが難しい。
いつものことである。
王は、マゴットとオルタスに尋ねた。
「その強者の助力がなかった場合、戦況はどうなっていたと其方らは思うのだ?」
マゴットとオルタスは答えることが出来なかった。
無言のまま目を伏せる。
それは、王国軍が敗北していたことを意味する答えと同義である。
王は、質問を変えた。
「そうか・・・それでは、我が王国軍には何が足りなかったのだ?」
「それは・・・。」
マゴットとオルタスは言葉が出なかった。
場が静まり返る。
すると、茶菓子をつまんでいたアルゴは手を止めた。
そして、口を開いた。
「一つで全てを補うことを考えるから、何事も無理なんじゃないかな。」
アルゴは、派手やかな布を取り出すと、茶菓子でグチョグチョに汚れた指を拭いた。
口の周りは汚れたままである。
「まず、そろそろ王国も、“獣人”の力を活用すべきだと思いますよ。」
ポルファス王国は、獣人の扱いが良いとは言えない。
歴史ある王国としての威厳は、“人の世で作られるものである”という風習が、昔から貴族を中心に根強くあるのだ。
アルゴは、王に進言した。
「陛下、やるべきことは色々とありますが、まずは獣人を育成する学校を設立すべきです。」
アルゴの突拍子もない提案に、マゴットとオルタスは驚いていた。
そして王は、言葉を失っていたのであった。
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- 万物の世界 -
数多の鳥が、逃げ出すように空を舞う。
その空は分厚い雲に覆われると、稲光が走った。
世界中の生物が息を潜める。
空は反転して、蒼紫色に変化した。
竜獣系の咆哮が響き渡る。
それは至る所から聞こえはじめる。
厄災が訪れた。
「ちょっ!あちこちで竜獣系が吠えてるんですけど!」
ミアは怯えながら、ミックの頭にしがみついた。
6人は、巨大な岩の陰に隠れている。
顔を少しだけ出して、辺りの様子をそっと窺てみた。
どこを見ても竜、竜、竜。
「なんて数なんだ・・・。」
「ひぇぇぇ・・・。」
ライカンスロープのウルは目を丸くした。
カッパのカッパは腰を抜かしてへたり込む。
空を舞うドラゴンは、猛烈な勢いで地面に頭から落下する。
地を這うドラゴンは、凄烈な勢いで岩石に頭から追突する。
全ての竜獣系がとち狂っていた。
それは、竜獣系の上位種であっても例外ではない。
3本の巨大な角をもったトライホーン。
6本の足と甲羅をもったタラスクス。
3つの頭と6つの目をもったアジ・ダハーカ。
9つの頭をもったヒュドラ。
それが業火を吐く。
爆発を引き起こす。
旋風を巻き起こす。
稲妻を撒き散らす。
「無茶苦茶でやんス・・・。」
ポランは、あまりの荒唐無稽な状況に息を飲んだ。
ニャンモクのライが叫んだ。
「俺たちの周りに“認識阻害”を掛けた! お前らここから動くなよっ!」
ライの赤い一つ目は血走っている。
6人が身を隠す岩の横を、もっと巨大な岩が転がっていった。
別の方向からも巨大な岩が転がってくる。
その巨大な岩と岩は、激しく衝突した。
それは、両方ともとち狂ったロックドラゴンであった。
「おいおい。ここまで狂ってんのか・・・この世界は。」
ミックは、両手に持つ斧を握りしめた。
あのロックドラゴンが襲ってきたら、どう足掻いてもミックが敵う相手ではない。
ポランが気付いた。
「MAPの表示が・・・・全部“黄色”でやんス。」
MAPの表示には決まりがある。
“青”は異世界免許教習所に雇われし者。
“黄”敵意のない存在。
“赤”は敵である。
いま、とち狂っている竜獣系が“黄”の表示ということは、敵意なくとち狂っている状態を示しているということになる。
竜獣系の狂乱は止まる所を知らない。
6人は、静かにこの厄災が収まるのを待つしかなかった。
数多のロックドラゴンが、無規則に転がりながらあちらこちらで激突する。
空からはワイバーンなどの翼竜が、自ら地面に向かって頭から突撃していく。
上位種であるヒュドラが、辺り一面に強烈な稲妻を放った。
それは運悪く、6人が身を隠していた岩を粉砕してしまう。
「うおぁっ!」
「ぐおっ!」
「ひっ!」
衝撃で吹き飛ぶ6人。
「ちっ! マズイっ!」
ライが、再び認識阻害を使用した。
しかし、状況はすこぶる良くない。
とち狂って転がる数多のロックドラゴンに、6人は四方八方を囲まれていた。
いち早く、ミックが態勢を整え直した。
両手に持つ2本の斧を構える。
その後ろでウルが周囲を確認する。
しかし、逃げ場は全く見当たらない。
「ミック、まずいぞ! 逃げ場がないっ!」
6人がいる場所に向かって、ロックドラゴンが一斉に転がってくる。
迫り来る巨大な岩の塊に対して、逃げ場がどこにもない。
潰される!
その時。
ズガン!
ズガン!
ズガガァーン!!
空から何本もの“赤い閃光”が降り注いできた。
それは、激烈な勢いでロックドラゴンの身体を穿つ。
砂煙がもうもうと立ち込めた。
「な~んか、ちゃちな阻害を掛けてるみたいだけど、そこに誰かいるんでしょ?」
砂煙の中から、女性の声が聞こえてきた。
「早く逃げちゃいな。死にたくなかったらね。」
その声の主は、空から突撃してくる翼竜を鞭で薙ぎ払った。
「きーっ! 毎回毎回、数が多くて面倒よね!」
砂煙によって、その声の主の姿は見えない。
次の瞬間。
その声の主は、凄まじく早いスピードで去っていった。
その去り際、ついでにとヒュドラを蹴飛ばした。
激しく蹴飛ばされたヒュドラの巨体は、空高く吹き飛んでいった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「おいっ!とにかくこの場から逃げるぞっ!」
ミックが全員に言った。
呆気にとられていた他の5人は、我に返るとすぐさま行動することにした。
6人は走った。
とにかく身を隠せる場所へ。
「ミッチー、さっきの・・表示が“緑”だったんだけど・・・。」
「は? 何がだ?」
「あのね。MAPの表示が“緑”だったの。」
「よく分かんねえが、とりあえず後だ。」
MAPの表示には決まりがある。
“青”は異世界免許教習所に雇われし者。
“黄”敵意のない存在。
“赤”は敵である。
それは、不可解なことであった。




