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第2章 第7話 どうやらその計画は遂行されるらしい

- 魔素の世界 -

《ポルファス王国 西部 ヤークション》


ポルファス王国の西部にある城郭都市ヤークション。

その街中を一人歩く者がいた。


ジーニャである。


特別な用事があったわけではない。

ただ様子を見に立ち寄っただけであった。


この街は、昨夜に死の軍団に襲撃されたはずである。

しかし、思っていたよりも被害は少ない。


城壁の一部が崩されたようで、その補修に忙しく働くヒト系-コモンの姿があった。

ただそれだけ。


ジーニャは不思議に思って首を傾げた。

この街もモルカット王国のような惨状になっているものと思っていた。

死の軍団に襲われた割には、あまりにも被害が少なすぎる。


街の人々が、街の中央に設けられた大きな道路に集まっていく。

ジーニャもその人々の波についていった。


どうやら、昨夜の戦いで殉職した騎士たちの葬儀が、これから執り行われるようだ。


程なくして、大きな道路を進む一行の姿が現れた。

先頭を歩いているのは、赤く長い髪を靡かせた若い女性騎士である。


あの女性騎士には見覚えがある。


昨日、敵に襲われていた村で助けた女性騎士に間違いない。

その証拠に、女性騎士が胸元で構えている剣には、ジーニャの光魔法が付与エンチャントされている。


女性騎士の後には、騎士に担がれた幾つもの棺が続いていた。

その数を見る限り、やはりここで激戦が繰り広げられたのだろう。


領主と思われるヒト系-コモンの男が歩いていく。

そして、悲しみにくれている人々の姿が続く。

殉職した騎士の遺族たちのようだ。


ジーニャは驚愕した。


「・・・・・・。」


息が詰まる。


異常な力。

それが、平然とヒト系-コモンと並んで一緒に歩いている。


ヴァンパイアだ。


その後ろにいる3人。

これも、やはり強力な力を持ったヴァンパイアであった。


「いやいやいや・・・それはあり得んさね。」


ジーニャは、我が目を疑った。


執事の恰好をしたヴァンパイアと目が合ってしまった。

相手もジーニャの存在に気が付いたようだ。


その一行は、城門を出て東南の方向に向かっていく。

ジーニャは、その後を追いかけることにしたのであった。


************


- 逸脱の世界 -


8つの世界オクタグラムの中でも、極めて特殊な文明が発達している世界。

それが“逸脱の世界”である。


今からおよそ3千年前までは、とても資源が豊富にある世界であった。

しかし、唐突に変化が訪れる。


一部の資源が、この世界から失われたのだ。

ひとくちに資源といっても、魔素、空気、水、森林、海洋、鉱物、食料など、その定義は様々である。


その中で、なぜか“食料資源”だけが消滅していった。


食料を必要とする生物にとっては、あまりにも深刻な問題である。

世界中の優秀な研究者たちが、その原因を必死で追った。


科学知識、魔法知識、自然知識、様々な分野のエキスパートたちが、総力をもって原因究明を急いだ。

しかし、成果は全く得られない。


そして、食料資源の消滅は恐ろしいスピードで加速していった。


食料を必要とする生物たちは絶望した。

生物の数が激減する。


やがて、ある一人の研究者が立ち上がった。

その研究者は“人”ではない。


精霊である。


その精霊は、合成研究の第一人者であった。

そして、この精霊の研究者によって、世界は一時的に救われることとなった。


そして、現在いま


食料資源は完全に消滅した。

いや、正確に表現するならば、食料にすると消滅してしまうのである。


だから、この世界には食料がない。


そして、現在いま生きるこの世界の生物は、食料を必要としていない。

そういう身体になっているからだ。


全ては合成の結果であった。


この世界の生物は、精霊と合成されている。

他工的に精霊と合成された生物は、“ヤドリガミ”となった。


精霊の合成研究者が開発した禁忌。

それは“生物宿神計画ヤドリガミプロジェクト”と名がつけられた。


その計画は、まだ途中段階である。


精霊は食事を必要としない。

食事をしようとすれば可能である。

しかし、食事から栄養を補給するという身体の構造ではない。


生物宿神計画ヤドリガミプロジェクトにより精霊と合成された生物は、ヤドリガミとなったことで食事を必要としない身体となった。


しかし、お腹が空くという感覚は常にある。

四六時中、空腹を感じるのである。


それが、この世界の日常となっている。


僕、コマゾー、キントン、それにカラス天狗のコ・マゾウ。

その僕ら4人が、瞬間移動で到着した場所は“水平”であった。


そして、僕らの視線の先には、巨大な樹木が見えていた。


“世界樹”である。


但し、その世界樹は、真逆にそびえ立っている。

僕からすると、あの場所の空は下に広がっているのだ。

その下に見える空に向かって、世界樹はそびえ立っている?下がっている?のであった。


本当に、この世界はややこしい。


逆さまの世界樹の周りには、数多くの人らしき姿が見られる。

もちろん、逆さま。


そして世界樹には、何やら特殊な模様が描かれていたのであった。


「ふむ。いよいよのようだにゃ。」


コマゾーが言った。


「あの人たち、何をしようとしてるのですか?」


僕は気になって、コマゾーに質問した。


「ふむ。あれは“ヒト”ではないにゃ。」

「??」


「あれは、他工的につくられたヤドリガミであるゾ。」


カラス天狗が、ヤドリガミについて説明してくれた。

精霊と生物が合成されているとは驚きである。


「それで、あのヤドリガミは、何をしようとしてるのですか?」

「世界樹を壊す気なのだゾ。」


「は? それって、大丈夫なのですか??」

「大丈夫ではないゾ。この世界には間違いなく動乱が訪れる。」


僕は呆気にとられた。


「止めなくて良いのですか?」

「それは駄目にゃ。」


コマゾーが、右足で耳元を掻いた。


「なぜなんです?」

「他工的に作られたヤドリガミであっても、その存在が創造神に認められているから生存しているにゃ。だから、その文明に対して無闇に手を出すことはできないにゃ。」


「でも、精霊は世界樹から生まれるんですよね?」

「そうだにゃ。」


「あの世界樹が壊されたら、この世界では精霊が生まれなくなりますよね?」

「ふむ。それが、あ奴らの目的だにゃ。」


生物宿神計画ヤドリガミプロジェクト

それは、精霊と生物を合成することだけの計画ではない。


************


《アダムの森》


世界樹から少し離れた場所にある森。

その森の中には、精霊の集団が息を潜めていた。


その集団の中にいる若い女性2人。

2人は精霊ではない。


人である。


「ふう。お腹空いたよ。」

「それ、いつもお腹空いてるよの間違いでしょ。」


その2人は見た目が同じであった。

双子である。

名を“ハルカ”と“アスカ”という。


双子は顔を見合わすと、残念そうに苦笑する。

叶うことのない望みは、思い浮かべるだけで切なくなる。


双子のもとに闇精霊が近づいてきた。


「無駄口を叩いている場合じゃないザマス。」

「はい。」

「はい。」


闇精霊は、その場の地面に世界樹の姿を投影した。

それを見る為、他の精霊たちが集まってくる。


「いよいよザマスね。」


闇精霊は呟いた。


「全員、分かっているザマスね?」


闇精霊の問いかけに対して、その場にいる全員が強く頷いた。

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