第2章 第6話 どうやら人の道を外れた悪魔であるらしい
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》
山下の平原に新たに現れた大軍は、ジャファール聖教国の軍であった。
自分たちが信じる“教え”を信じない者には死を。
自分たちが信じる“教え”を信じない国には滅びを。
その実情は邪教徒の集団であり、世にも残酷で残虐な思想を持った国である。
邪教国の大軍が、独特の異様なリズムの“楽曲”をかき鳴らしだした。
そして、独特の異様な匂いの“香”を焚き始める。
邪教国の兵は、その出で立ちに特徴がある。
一言で言えば、“見た目が魚”のようなのだ。
それは、ジャファール聖教国で採掘される“鱗石”を主原料として製鐵された“鱗鋼”が、防具の素材に使われているからである。
鱗鋼には、鱗模様がはっきりと浮き出て見えることが起因していた。
その強度は鉄鋼よりも脆い。
しかし、軽さの点で大きなメリットがある。
それに対する王国軍とイバラン軍。
一時休戦した両軍は、シキニ山の中腹にある丘で見合っている状態が続いていた。
両軍ともに、邪教国は共通の敵という認識は一致している。
しかし、今この時まで戦っていた両軍が手を組むことは、もはや不可能であった。
中央にある陣幕テントの中で、両軍の代表が話し合いを行っている。
ただの“人質交換”だけで終わるはずはない。
あの中では、邪教国との戦いに向けた話し合いが行われているはずだ。
両軍全ての騎士・兵士は、その様子を静かに見守っていた。
陣幕テントから両軍の代表が外に出てきた。
そして、足早に各陣営に戻っていく。
すぐさま、両軍の中では指示が伝達されていった。
それを聞いた両軍の騎士・兵士が首を傾げる。
それは、なぜか“地の利を捨てる”というものであった。
王国軍3千5百。
イバラン軍5千。
対する邪教国の兵は2万。
圧倒的な数的不利の状況である。
それでもカモットとラタは、防戦ではなく撃破することを選択した。
王国軍の陣営から、ポルファス王国の王都に向けて、使い鳩が飛び立っていった。
2人の才能ある軍略家が手を組んだ戦い。
後に“シキニ山地の戦い”と呼ばれる戦が、いよいよ始まろうとしていた。
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- 万物の世界 -
乾燥してひび割れた地面。
回転草が、風の吹くまま転がる一面に広がる荒野。
そこに、審査を受ける6人の姿が揃った。
■ミック=系統種族:ヒト系-オウガブラッド、レベル:11、ジョブ:ウォーリア
■ミア=系統種族:妖精系-光ピクシー、レベル:5、ジョブ:ヒーラー
■ポラン=系統種族:元素系-ブラックタール、レベル:5、ジョブ:モンク
■ウル=系統種族:ヒト系-ライカンスローブ、レベル:8、ジョブ:カバート(隠密)
→人狼(獣人)、格好は忍者風。
■カッパ=系統種族:妖怪系-カッパ、レベル8、ジョブ:パペットマスター(操作)
→河童、なぜか甲羅は背負っていない。
■ライ=系統種族:妖精系-ニャンモク、レベル:15、ジョブ:オブスタクル(阻害)
→赤い一つ目の黒猫、全身にローブを羽織っている。
6人の前に立つ2体の分離ゴラン。
ゴランは、その6名を見渡すと言った。
「それでは、審査を始めるとしようか。」
ミアとポランは、ぼそぼそと会話をしていた。
「ちょっと、見たことない奴がいるんですけど。」
「確かにでヤンス。あのニャンモク、オイラも初めて見たでやんス。」
ぼそぼそ話す2人に対して、ゴランが鋭い視線が突き刺さる。
その視線を察知したミアとポランは、直立不動で背筋を伸ばして起立した。
「全員、仕事の内容は、承知しているな?」
6人が頷く。
【仕事内容】
“厄災”の影響を受けない竜獣系の存在が確認された。
その理由を突き止めよ。
又、場合によってはその存在を保護すること。
この万物の世界では、11時間ごとに1時間の厄災が訪れる。
必ずその時間になると空は反転して“蒼紫色”に変わる。
そして、その空の色が合図であるかのように、全ての“竜獣系”が暴れ狂うのである。
その厄災がなぜ発生するのか、その原因は定かになっていなかった。
まだレベルが低い6人には、無理難題となる仕事が与えられたのであった。
「制限時間は24時間後だ。仕事が未達成でも、必ず異世界免許教習所に帰還するように。」
ゴランの言葉に違和感を感じた6人は、首を傾げていた。
ミアが代表して、ゴランに質問をする。
「所長は?」
「私は今から帰る。」
「は?」
「へ?」
「おいおい。所長が帰ったら、誰が審査をするんだ?」
「お前たちが帰還したとき、正当に評価するから安心しろ。」
6人は、疑惑の目でゴランを見ていた。
仕事の結果だけで判断するものなら、もっと現実的に達成できるものにしろや!と全員が心の中で思う。
ポランが、重要なことに気づいた。
「所長が帰るということは・・・まさか、オイラ達だけで厄災を生き残れということでやんスか?」
「もちろん。そうだ。」
鬼っ!
悪魔っ!
殺す気かっ!
と、全員が心の中で思う。
「「では、私は先に帰る。力を合わせて頑張れよ。」」
2体の分離ゴランは、口を揃えて言うと“帰還の印綬”を使用して消えた。
呆然と立ち尽くす6人。
風が吹いて、また回転草がコロコロと転がっていた。
異世界免許教習所に雇われし者。
新米が一人前と認められる為に受ける審査。
実は、仕事を達成することが重要ではない。
その審査基準は2つ。
もちろん6人は、それを知る由もなかったのであった。
早くも空は反転する兆しが出ている。
これから空が蒼紫色に変わると、いよいよ厄災が起こる。
6人は空を見上げると、とりあえず場所を移動することに決めたのであった。
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- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》
王国軍は邪教国に対して伝言を送った。
“戦いの場は平原にて”と。
それを受け取った邪教国軍では、あざ笑う声が上がっていた。
地の利を自ら捨てるとは、ポルファス王国は馬鹿どもの集まりだ。
王国軍とイバラン軍は、慎重に山を下りると陣形を整えた。
イバラン軍は自国の国旗を掲げずにいる。
敵はこちらの事情を把握していないはずである。
その為、敵にわざわざこちらの情報を与える必要がないからであった。
【状況】
□=王国軍、〇=イバラン軍
■=邪教国軍
山
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平原
□□ □□□ 〇〇〇 〇〇
□□ 〇〇〇〇 〇〇
□□□□□□□〇〇〇〇〇〇〇〇〇
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両軍の陣形は整った。
すると、邪教国軍側に動きがある。
軍の中から、ぶつぶつと悍ましい教を唱える声が聞こえ始める。
邪教国軍の陣形中央より、火がつけられた幾つもの手押し運搬車が前に出された。
それには、磔にされた者たちが、生きたまま火あぶりにされている。
王国軍は、それを見てすぐに気がついた。
火あぶりにされているのは、クガンシュート領内東方の牽制に向かった王国軍の騎士たちである。
そして、領主カモットの息子も、そこに姿があった。
王国軍に動揺が走る。
救出に向かうことはできない。
いま、ここで陣形を乱すことの危険性は全員が承知している。
王国軍の騎士全員が、拳を握り歯を食いしばっていた。
生きたまま火あぶりにされていく王国騎士たち。
その顔は全員が涙で濡れている。
しかし、誰一人として、泣き叫んで助けを求める者はいない。
火は勢いを増していく。
当然のこと、カモットの目にも映っていた。
自分の息子が、目の前で火あぶりにされている姿である。
自分の息子。
自分についてきてくれた私兵騎士たち。
その頬に血の涙がつたう。
全身を火に焼かれながら、目を見開いたカモットの息子が叫んだ。
「我らは先に逝く!我らのこの悔しさは皆に託す!ポルファス王国に栄光を!」
「栄光を!」「栄光を!」「栄光を!」「栄光を!」「栄光を!」「栄光を!」
火は勢いを増して巻き上がり、磔にされた者たちを焼き尽くした。
王国軍は、その姿を全軍が瞬き一つせずに見送っている。
ラタは、右翼から“気焔”が立ち昇るのを感じた。
王国軍の怒りである。
それは、ラタにとって、初めて肌で感じた感覚であった。
邪教国軍から聞こえていた悍ましい教を唱える声が止まった。
一瞬の静けさが戦場に訪れる。
両軍は武器を構えた。
「突撃!」
「殲滅!」




