第2章 第5話 どうやら慣れるしかないらしい
- 万物の世界 -
分離型ゴラン、ミック、ミア、ポランの4人は“万物の世界”に転移した。
その場所は、一面に広がる荒野である。
地面は乾燥してひび割れており、回転草が風の吹くままコロコロと転がっている。
ケタケタケタ。
カクカクカク。
変な音が聞こえてくるのが気になって、ミックは後ろを振り返った。
ケタケタケタ。
カクカクカク。
ミアとポランが、白目をむいてカタカタ震えている。
その2人が奏でる変な音のハーモニーに呆れて、ミックはポリポリと頭を掻いた。
少し強めの風が吹いた。
回転草と一緒に、ミアとポランが転がっていく。
「やれやれだな。」
ミックは、コロコロと転がる2人をヒョイっとつまんだ。
合体完成形から分離しているゴランが空を見上げた。
それを見たミックも空を見上げる。
遥か上空に見えたのは、飛竜の姿であった。
竜獣系の中では比較的小型である。
しかし、その性格はとても獰猛であった。
飛竜は、眼下に“エサ”があると気づいた。
そして、すぐに急降下してくる。
「アバババババッ。」
「ウガガガガガッ。」
ミアとポランは、慌ててミックにしがみつく。
飛竜は、恐ろしく早いスピードで急降下してきた。
そして、口を大きく開けると、その牙でエサを捕らえようとした。
ドッゴォンッ!!
分離ゴランが、右腕を大きく振りかぶってぶん殴った。
地面にめり込んだ飛竜は、ピクリとも動かない。
ワンパンであった。
それを見たミアとポランは、白目をむいて泡を吹くと・・・コテンと倒れた。
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- 逸脱の世界 -
僕、コマゾー、キントン。
その僕ら3人は“逸脱の世界”に転移した。
その場所は、逆さまである。
足はちゃんと地面についている。
でも、逆さまだ。
あ・・・もうダメ、気分悪い。
僕は白目をむいて倒れそうになる。
「ふむ。仕方ないにゃ。」
大賢者コマゾーが、何らかの補助魔法をかけてくれた。
楽になった・・・気はする。
この世界は、その場所によって“回転”している。
それは、真逆、傾斜、垂直、水平、場所によって様々な角度に変わっているらしい。
ねじれているのだ。
そして今は、真逆にひっくり返った状態である。
なぜか重力は地面に向かって働いている。
その為、頭に血がのぼる?くだる?ことはない。
それでも、逆立ちをしてモノを見ているような、この真逆の視界には耐えられない。
「ここ、やっぱり僕には無理じゃないですかね?」
僕はコマゾーに懇願した。
真逆のコマゾーは、それを無視するように後ろ足で右耳の後ろを掻いた。
聞いちゃいない。
はあ。
これはもう、慣れるしかないのだろう。
真逆のキントンが、僕の下に歩み寄ってくる。
「ミライ殿、早くも音を上げては情けないでござるぞ?」
泣きたい気分なのは僕だけだ。
ゴーレムの視界って、一体どうなっているのだろう?
きっと、普通ではないのだろう。
僕らの後ろで、急に気配がした。
瞬間移動である。
「師よ。」
そこに現れたのは、真逆の“カラス天狗”であった。
カラス天狗は、コマゾーの下に羽ばたきながら近寄ってくる。
「ふむ。コ・マゾウ、例の“人材”はどんな状況かにゃ?」
「はい。すぐにでもスカウトされた方が良いかと。」
「ふむ。そんな危険な状況かにゃ?」
「はい。もうすぐ動乱が起こります。それまでに行くべきかと。」
僕とキントンは、その2人のやりとりを見ていた。
僕とキントンのMAPには、仕事進行中が表示されている。
その仕事は、異世界免許教習所の研究室に適する人材をスカウトすることである。
そして、この仕事には、かなりの危険が伴うと聞かされていた。
僕が連れて来られたのは、もちろん戦力としてではない。
そして、かなりの危険とは、モンスターに襲われることではないらしい。
何だろう。
僕がここに来る意味は、本当にあるのだろうか?
カラス天狗が僕を見た。
「師よ。この者は新米のようですが、本当に連れて良いので?」
「ふむ。(多分)大丈夫だにゃ。」
いま、小声で“多分”って言ったよね。
もう、本当に泣きたい。
キントンが、横でグッと親指を立てた。
にこやかな笑顔である。
君は良いよね。
チートなんだから。
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- 異世界免許教習所 -
異世界免許教習所内にある研究室。
ここは、いつも暇である。
それもそのはず。
常日頃から、研究室長が不在をしている。
自分が自分に命じた仕事に出たまま、いつまで経っても帰ってこないのだ。
それは、もう15年の年月が経過した。
その研究所の中にゼフェルはいた。
大人しく椅子に座っている。
研究室の管理下で育てられたゼフェルにとって、ここは生まれ育った場所である。
これまでのゼフェルは、この場所に思うことは何もなかった。
しかし、今は違う。
この場所が、何だか好ましいと思える感覚を持っていた。
なぜか落ち着く。
ゼフェルは首を傾げていた。
何でだろう。
大柄で白くモコモコとした生き物が、ゼフェルがいる部屋に入ってきた。
その手には、ポットから湯気の立つ飲み物とカップを2つ持っている。
その大柄で白くモコモコとした生き物は、雪男である。
この雪男は研究員であり、ゼフェルの育ての親でもあった。
雪男が、ゼフェルの前に置いたカップに飲み物を注ぐ。
「ありがとう。アズマン。」
ゼフェルは御礼を言った。
それを聞いた雪男のアズマンが目を丸くする。
ゼフェルが、こんなに素直に御礼を言ったことなど、今までにはなかったことである。
「ゼフェル。何か変わったね。」
「変?」
「いや。とても雰囲気が良くなった。」
アズマンは、ゼフェルをよく見た。
姿かたちに変化はない。
しかし、青と緑で色が異なるオッドアイの瞳には、明らかに感情が灯っていた。
「ゼフェル。君はまだ無茶をしたらダメだよ。」
「はいはい。」
ゼフェルはそう返事をすると、何かを思い出したかのようにフフッと笑った。
「レベルが3に上がったようだね。」
「うん。」
「因みに、ジョブを何にするのか決めたのかい?」
「決めたよ。」
そう答えたゼフェルは、アズマンに向かって微笑んだ。




