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第2章 第4話 どうやら不協和の呼応が鍵になるらしい

- ????? -


暗闇の中で静かに佇む影。

その影はすこぶる機嫌が悪かった。


自分の傑作が消えた。

それも2つ。


その1つは、幸せが舞い込む弓である。

その弓は魔力を矢とする特殊な武器であった。


その弓を使う者は、その代償として“幸せ”を差し出すことになる。

その代償となった幸せは、自分に幸福感をもたらせてくれるものであった。


それを誰に授けたのかは覚えていない。


それが、結構な量の幸福感をもたらせてくれたと思ったら・・・・・消えた。


もう1つは、隔離の欠片だ。

それは、使用者の“死”を引換えにして、対象者を隔離することができる。

隔離された相手は眠りにつく。

そして、永遠と“夢”を吸われ続けることになる。

それが代償であり、吸われた夢は自分に愉悦感をもたらせてくれるというものであった。


それを誰に授けたのかは覚えていない。


その隔離の欠片は使用された感覚があった。

何者かを隔離したのだ。

しかし、1つも夢を吸い取る気配はなかった。

そして、そのまま1つも夢を吸い取ることなく・・・・・消えた。


「・・・何とも腹立たしい。」


その影は長い腕を組んだ。


「これが、また面倒な“叛逆の兆し”でなければ良いのですがね。」


その影は、背の高い帽子ハットを被っている。

その帽子ハットには、なぜか怪しい目が光っていたのであった。


**************


- 魔素の世界 -

《ポルファス王国 南部に向かう援軍》


時は少し戻る。


シーラオスはすこぶる機嫌が悪かった。

回復薬で傷は塞がっている。

しかし、失った右手首から先には、痛みの感覚が残っている。


自分は搾取する側だ。

これまで、それを疑ったことなど一度もない。


あの襲撃者・・・あの緑色の髪の男。

奴は、あろうことか、この我のことを見下した。


下賤な者の分際で。

至高なる我を見下したのだ。


シーラオスは、片手で不器用に首元を探った。

その首元には、歪な形をしたネックレスがある。


それを強く握った。


「失礼致します。」


陣幕テントの外で声がした。


「閣下、そろそろ前進のご命令を。」


シーラオスは、今更ながらに南部の援軍に向かっていたことを思い出した。

王国騎士軍団副長のゴダイが、総指揮官である自分の命に従わず、勝手に進軍したことは聞いている。


シーラオスとしては、まだ襲撃者の捜索を続けたいところではある。

しかし、国王の命に背くわけにはいかない。


いまは、まだ。


シーラオスは悪態をついた。

襲撃者は必ず見つけ出す。

そして、自分の命に従わないゴダイには、必ずや後悔させてやることにしよう。


「全軍、南部の都市“クガンシュート”に向かうぞ。」

「はっ。すぐにでも出立できます。」


「それと、王宮のアルゴ殿下に伝言を向かわせろ。」

「はっ? 殿下に・・・でございますか?」


「そうだ。ゴダイに謀反の兆しありとな。」

「え? それは・・・・・かしこまりました。」


シーラオスは不敵に笑った。

そして、歪な形をしたネックレスを胸の中にしまうと、左手で不器用に襟元を整えたのであった。


**************


《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》


王国軍とイバラン軍。

その両軍は、シキニ山の中腹にある丘で見合った状態になっていた。


一時休戦である。


両軍ともに、総大将が捕らわれてしまった。

しかし、それが原因で休戦となったわけではない。


山下の平原に新たな大軍が出現した。

これが、両軍にとって、一時休戦の大きな理由となっていた。


見合う両軍の間には、王国軍が急設した陣幕テントが張られている。


まず、王国軍陣営より代表する2人が前に出た。

王国騎士軍団常駐隊長のサコン、それと私兵騎士隊長である。


その後に、捕らわれたイバラン軍の将軍カトールが続く。

3人は陣幕テントの中に入った。


次に、イバラン軍より代表する2人が前に出た。

若き将校のラタ、それと青い髪の将校である。


その後に、捕らわれたポルファス王国南部領主のカモットが続く。

その3人も陣幕テントの中に入っていった。


その様子は、特殊な状況である。

戦場において、普通であれば両軍がいがみ合う最中で、人質交換をすることはあり得ない。


それは、不測の事態を招く恐れが大きいからである。

戦場から離れた場所で、平和裏に行われるのが一般的となる。


両軍は、この特殊な状況を静かに見守っていた。


陣幕テントの中に入った両者の代表は、無言のまま互いに一礼をした。

そして、捕らわれの身であったカモットとカトールが、ゆっくりと互いにその場所を入れ替わる。


陣幕テントの中には、椅子だけが置かれている。

6人は、無言のまま席に着いた。


気まずい雰囲気が流れる。


【陣幕テント】


□□□□□□□□□□□□□□□□

         王国軍


  ―――――――――――――――

    私隊長 カモット サコン 

     〇   〇   〇   

入―

口―

     ●   ●   ●

    ラタ  カトール 将校

  ―――――――――――――――


        イバラン軍

   ■■■■■■■■■■■■■■■■



カモットは、一度咳払いをして、重い口を開いた。


「改めて、ポルファス王国クガンシュート領主 カモットと申す。」


そして、王国騎士常駐隊長のサコンと、私兵騎士隊長をそれぞれ紹介する。


「改めまして、イバラン国中将 カトールと申します。」


そして、横に座る青い髪の将校とラタをそれぞれ紹介した。


また無言の間ができる。


カモットが、再び切りだした。


此度こたびの策略を考えられたのは、一体どなたかな?」


カトールがそれに答える。


「このラタです。軍略家として名高いカモット殿にも引けを取らぬ才能を持っていますよ。」


それを聞いたカモットは、ラタを睨みつけた。

ラタの頬に、大粒の嫌な汗が伝う。


「まさにしてやられた。素直に敗北を認めようぞ。」


カモットは、ニヤリと笑った。


「恐縮です。ですが、やはりあと一歩及びませんでした。正直、少し悔しいです。」


6人が声を殺して静かに笑う。


カトールが口を開いた。


「すまんなラタよ。私が身の丈に合わずサコン殿に挑まねば、こちらが勝利できていたものを。」

「いえ、こちらの右翼は壊滅した状態でした。あのまま戦が続いておれば、結果的に我々は敗北していたでしょう。」


そのラタの発言は真実であった。

王国軍の強さは、ラタの予測を遥かに超えていたのである。


自軍の右翼が壊滅した後、そのまま王国軍は右側面から攻め込んできたはずである。

イバラン軍は、全軍退却を余儀なくされたことに間違いはない。


カモットは尋ねた。


「しかし、この私を捕らえることこそ、貴殿の策略であったのであろう?」


ラタは頷いた。


「はい。その通りです。」


この戦いの勝敗は、人によって捉え方が違ってくるであろう。

両軍ともに勝利の確信も、敗北の確証もなかった。


カモットは本題に入った。


「さて、奴らが攻めて寄せてきたからには、ここであまり長々と話をするわけにはいかない。」

「確かに。その通りですな。」


「単刀直入にお聞きする。なぜ貴国は、ポルファス王国に攻め入って来られたのか?」


カトールはラタを見た。

それに対して、ラタは同意して頷いた。


「正直に申し上げましょう。我が国は、偽情報に踊らされたようです。」


カトールは、その偽情報の内容を説明した。


「なるほどの。」

「このラタは、我が国が大きな過ちを犯している可能性に気づきました。」


「ほう。」

「それで、貴国との交渉を行う為には、カモット殿を捕らえる必要があると判断したまでです。」


サコンが口を開いた。


「あっぱれ。ラタ殿、この戦いは貴殿の勝利である。」


カモットは、サコンの言に深く頷いた。

そして、意を決したように話しはじめた。


「相分かった。そちらが正直に述べてくれた以上、こちらも正直に申そう。」


イバラン軍の3人が、緊張した面持ちでカモットを見る。


「不条理に攻め込まれたからには、ポルファス王国としては報復の決断が下されるところである。」


無言の間があった。


「しかし、実を言うと、まだ王宮には詳細の報告を入れていないのだ。」


「詳細の報告と言いますと?」

「うむ。敵が攻め込んできたという一報は、昨日のうちに王宮に飛ばしている。」


それは、使い鳩で知らせた第一報である。


「その敵が、イバラン国とマイラン国の連合軍だということは、まだ報告を入れておらんのだよ。」


それを聞いたイバランの3人は、すぐにカモットの意図を理解した。

連合軍が不条理に攻め込んできた事実を、カモットは伏せてくれるということである。


カトールは、深々と頭を下げた。


「感謝の言葉もありません。」


カモットは、椅子から立ち上がった。

そして、頭を下げるカトールに歩み寄る。


「あの“邪教国”が、ついに攻め入って来よった。王宮からの援軍到着は、あと数日要するものと思われる。」

「邪教国は、もはや人類共通の敵です。当然のこと我々も戦いますぞ。」


山下の平原に現れた新たな大軍。

それは、“ジャファール聖教国”の軍勢であった。


聖教国を名乗っているものの、その実情は邪教徒の集団である。

世にも残酷で、残虐な思想を持った国であった。


自分たちが信じる“教え”を信じない者には死を。

自分たちが信じる“教え”を信じない国には滅びを。


それが、東の海を渡って来たのであった。


「王宮には、敵は邪教国であると知らせを入れる。それで良いな?」


カモットは、サコンと私兵騎士隊長に向かって尋ねた。


「異論ございませぬ。」

「同様にございまする。」


カモットとラタ。

今ここに、2人の才能ある軍略家が手を組むこととなった。


しかし、両軍は熾烈に戦ったことで、多数の死傷者が出ている。


昨日の敵は今日の友。

そんな簡単なものではない。


その為、今すぐに両軍が連携するということは、状況的に不可能であった。


不協和の中での呼応。

それを実現させる為には、2人の才能が頼りとなる。


「私に考えがあります。」


ラタが発言した。


山下の平原では、邪教国の大軍が陣形を整えていく。

海を渡って上陸し、ここに到着するまで間、幾つかの町や村を蹂躙してきている。


邪教国の大軍の中には、無残にもはりつけにされた者の姿が幾つも混じっている。

はりつけにされた者は、全身から大量の血を流しており、今にも事切れそうな様子であった。


その中には、領内東方の牽制に向かった騎士たちの姿がある。

そして、カモットの息子の姿もあった。

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