第1章 第46話 どうやら素敵な夜らしい
- 秘宝の世界 -
《導きの迷宮》
僕らは、迷宮の地下から1層に戻ることができた。
この迷宮には、地下と地上が繋がっている道はないらしい。
大賢者コマゾーに救い出されていなかったとしたら、永遠と地下を彷徨うはめになっていたのかもしれない。
良かった。
コマゾーは、ゴラン所長にキントンの無事を報告するとのことで、先に異世界免許教習所に帰っていった。
僕とミア、ポラン、ゼフェル、それにキントンの5人は、出口を目指してのんびり歩いていた。
MAPを見る限りでは、最初に入った時と比べて1層の形は変化している。
でも、全く苦にはならない。
迷宮の1層は、とても平和である。
出口に辿り着いた。
「やっと出た!なんか長かったな~。」
僕は大きな伸びをした。
考えてみれば、異世界免許教習所に雇われし者となって、まだ2日目である。
1日1日がとても濃い。
ふと見ると、見覚えのある4人の子どもが座っていた。
灯石を一緒に掘った子供たちだ。
その子どもたちも、僕らが出てきたことに気づいたようだ。
「兄ちゃん!」
子供たちが駆け寄ってくる。
「兄ちゃんたち!無事だったんだ!」
「良かった!俺たち、どうしようかと思って。」
「大人たちに探してもらったけど、兄ちゃんたちは見つからないって言われてさ。」
どうやら、みんな心配してくれていたらしい。
地面の崩落から救った女の子が、俯いた姿で一番後ろに立っている。
「あの、あのね。ぐすっ。私のせいで、ぐすっ。」
僕はしゃがんで、女の子の頭に手を置いた。
「ただいま。」
「うえーん!おかえりなさい。」
女の子が僕に抱き着いてきた。
「そうだ!」
僕は、ふと思いついてゼフェルを見た。
ゼフェルも同じ気持ちのようで、何も言わずに頷いてくれる。
僕は、リュックサックの中から灯石を取り出した。
「これ、大量に手に入ったから、みんなにあげるよ。」
「え?」
「そんな!」
「遠慮しなくていいさ。大量に手に入ったからね。」
黒い犬もどきに姿を変えているポランの頭の上で、姿を消しているミアの声がした。
「ほんと、お人好しよね。」
でも、その声は優しい。
「本当に色々ありがとう!」
「また会えるよね?」
「そうだね。また会おう。」
「うん!」
「絶対だよ!」
「待ってる!」
僕らは再会の約束をして別れた。
キントンは、千年以上ぶりとなる外の世界を見て驚いている。
そして感動していた。
街は、夜の街に様変わりしていた。
そして、JAZZに似た曲が流れてくるのであった。
素敵な夜だ。
さあ、異世界免許教習所に帰ろうか。
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- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 王都近郊 平原》
その頃。
死の軍団は、一斉に恐ろしい叫び声を上げた。
この世のものとは思えない絶叫が平原に響く。
それは恐ろしく、悍ましく、狂いそうな声である。
オルタスは、即座に合図を送った。
その合図を受けて、王国騎士軍団が戦意を鼓舞する太鼓の音を響かせる。
その音に合わせて、2万の騎士たちは一斉にその場で足踏みをはじめた。
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
騎士たちの鼓動が高まる。
音が止んだ。
戦場は静寂に包まれた。
「突撃!!」
オルタスが、咆哮のような号令を放つ。
ついに戦いの火蓋は切られた。
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《ポルファス王国 西部 ヤークション》
一方、その頃。
スケルトンは、獣人の女の子を殴り飛ばした。
「大丈夫!?」
「大丈夫かっ!?」
ヒーロとケイルは、獣人の女の子に駆け寄った。
殴られた衝撃で口の中が切れており、口から少し血が流れている。
意識は朦朧としているようだ。
「ケイル!あれは何!?」
「知らない!でも逃げるんだ!」
ヒーロとケイルは、獣人の女の子を肩に担いで逃げようとした。
しかし、スケルトンの集団に囲まれてしまう。
そして、恐ろしいほどの殺気を放っていたのであった。
「ダメだ・・・。」
ケイルは逃げ道がないことを悟った。
スケルトンの集団が、じりじりと間を詰めてくる。
ヒーロは絶望を感じた。
足が震えて動けない。
怖い。
助けて。
スケルトンが、その手に持った棍棒を振りかぶっった。
しして、ヒーロを襲う。
ドガッ!
その棍棒の重い一撃をくらったのは、ヒーロではなくケイルであった。
ケイルが身を挺してヒーロを庇ったのである。
ケイルの横腹には、スケルトンの棍棒がめり込んでいる。
「オェッ・・・。」
ケイルが嘔吐した。
そして、そのまま前に倒れ込んでしまう。
「ケイル!」
返事がない。
ケイルは意識を失ったようだ。
スケルトンは、また棍棒を振りかぶった。
ヒーロは咄嗟に手で頭を防ごうとする。
すると。
どこからともなく蝙蝠が飛んできて、スケルトンの顔にへばりついた。
バランスを崩したスケルトンは、狙いを外して棍棒を地面に激しく打ち付ける。
怖い。怖い。怖い。
今度は別の2体のスケルトンが、棍棒を振りかぶってきた。
その標的は、ケイルと獣人の女の子である。
怖い。怖い。怖い。
でも。
2人が殺される方がもっと怖い。
ヒーロは無意識に立ち上がった。
その目が赤く光る。
そして、全身から溢れ出すような金切り声を発した。
それを聞いたスケルトン2体の動きが止まる。
その手に持つ棍棒を地面に落とした。
そして、その骨だけの身体は、バラバラと崩れていったのであった。
金切り声を発したヒーロが、意識を失ってその場に倒れる。
その身体は抱きとめられた。
愛しの我が子を、伯爵夫人が優しく抱きとめたのであった。
「まさか。こんなに早く、我が子の“覚醒”が見られるなんて。」
伯爵夫人は、ヒーロの前髪を優しく撫でた。
ヒーロは人間とヴァンパイアのハーフ、“ダンピール”である。
その秘められた力が、いま覚醒を見せていた。
伯爵夫人を標的にして、スケルトン集団が一斉に襲いかかる。
我が子を愛おしそうに抱きしめると、伯爵夫人はスケルトンに目を向けることなく手をかざした。
次の瞬間。
その場にいた全てのスケルトンは、ボロボロと崩れ落ちていった。
「あ・・・あなたは?」
意識が朦朧としている獣人の女の子が、か細い声で伯爵夫人に問いかけた。
「安心なさい、私は“ヴィラロア”。この子の母親です。もう大丈夫よ。」
それを聞いた女の子は、小さく頷くとそのまま意識を失った。
どこからともなく、大量の蝙蝠が集まってくる。
そして、ケイルと獣人の女の子を包み込んだ。
「今日はなんて素敵な夜かしら。」
伯爵夫人こと、ヴィラロアは機嫌よく呟いた。
そして、その場から蝙蝠ともども消えたのであった。
第二章に続く。




