第1章 第47話 どうやら新たな強敵らしい
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション城壁》
マトバンと黒幽騎士の力は拮抗していた。
剣と剣の強烈な攻撃による応酬が繰り返される。
競り合う剣の音が、熾烈に迸っていた。
マトバンは、少しだけ間合いを取って息を整えた。
顎から長く伸びた白髪交じりの髭を擦りながら、敵の様子を見る。
黒幽騎士には、疲労の色など全く見られない。
「これは、戦い方を変えんといかんのぅ。」
この一騎打ちが長引けば、自分が不利である。
かといって、安易に大技を繰り出そうとすれば、どうしても隙を作ってしまう。
その隙が命取りになるのだ。
マトバンは、腰の鞘からもう1本の剣を抜いた。
そして、自身に“加速”のスキルをかける。
力押しで敵を崩せないとあらば、双剣の“速さ”と“剣技”で敵を圧倒する。
戦い方を変えることにした。
ふっ!
マトバンは小さく息を吐くと素早く動き、左手の剣で突きを繰り出す。
黒幽騎士は、その突きを剣で往なした。
マトバンの攻撃は続く。
すぐさま右手の剣を振り下ろして、黒幽騎士の身体を斬り裂いた。
そのまま身体を捻って横回転すると、さらに左、右と双剣の連撃を加えていく。
黒幽騎士がよろめいた。
それを見たマトバンが、勝機を見出す。
「終わりだ!音速斬!」
マトバンは双剣を×字に構えると、電光石火の如く直線状に動き、すれ違いざまに敵を斬り裂いた。
攻撃はまだ続く。
マトバンは、そこから左、右、縦、横と4連撃の連携技を繰り出していく。
そして、最後の反転斬りが止めとなった。
周りの騎士たちから歓声が沸き起こる。
「さすが!マトバン殿!」
「お見事っ!」
黒幽騎士は、その場に崩れ落ちた。
一騎打ちは、マトバンの勝利で終わった。
かに思われた。
その時、首から上が紫色の煙に覆われた黒馬が突進してきて、マトバンの身体を吹き飛ばした。
吹き飛んだマトバンは、受け身を取ると体勢を立て直す。
その黒馬は、黒幽騎士に歩み寄った。
黒馬が纏う紫色の煙が、黒幽騎士の身体を包み込む。
すると、黒幽騎士は、何事もなかったかのように立ち上がった。
「なっ!?」
マトバンは目を疑った。
「グフォォォォー!」
再び立ち上がった黒幽騎士が、威嚇するかの如く咆哮を浴びせてきた。
その咆哮は、紫色の煙とともにマトバンの身体に纏わりついていく。
「しもうた!」
マトバンは、自分に纏わりついた紫色の煙を必死に振り払おうとした。
おかしい。
自身の身体に何か異変がある。
マトバンの視界は、徐々に真っ暗な闇へと変化していった。
「マトバン殿!」
周りの騎士が、その異変に気付いて近寄ろうとする。
それをマトバンは制止した。
「誰も儂に近づくでないっ!」
マトバンが叫ぶ。
「どうやら目をやられたようじゃ! 儂の間合いに近づく者は巻き添えとなるぞぃ!」
「しかし!それではっ!」
「儂の心配はいらぬ!それよりも皆であの黒馬を仕留めよっ!」
「はっ!」
「はっ!」
ふぅ。
マトバンは静かに息を吐いた。
目が見えない。
しかし、黒幽騎士の気配を感じ取ることはできる。
視界を遮られた緊張感の中、マトバンは不思議とミズナの幼少期を思い出した。
若き女性騎士であるミズナが、幼き頃から剣の指導をつけたはマトバンである。
王国騎士軍団長であるオルタスとはまた違い、ミズナは流れるような剣の素質を持っていた。
幼少期のミズナに対して、目に頼り過ぎた動きを再三注意したことがある。
目に頼り過ぎるが上、戦いの感覚がどこか鈍っており、技の上達にも支障が見られたからである。
そこで、ミズナに目隠しをつけて指導したことがあった。
小さな女の子には“酷”なことではある。
しかし、彼女の向上心はとても高く、それを乗り越える気力が備わっていた。
あれから、もう10年以上は経っている。
ミズナは、今では私兵騎士隊の隊長代理にまで成長した。
オルタスといい、ミズナといい、自分にとっては自慢の弟子だ。
「さて。儂が手本を見せんとのぅ。」
マトバンは、双剣を構え直した。
敵の姿は見えない。
しかし、すでに剣を交えたことで、敵の剣筋は感覚で掴んでいる。
「是非もなし。」
マトバンは小さく呟いた。
黒幽騎士が剣を振り下ろした。
マトバンは、それを左手に持った剣で往なす。
黒幽騎士が攻撃が繰り返される。
その攻撃を、マトバンは見事に防いでいくのであった。
「マトバン様っ!黒馬を仕留めましたぞ!」
部下の声が聞こえた。
「承知!」
それをマトバンは待っていた。
流れるような動きで、黒幽騎士の剣を躱す。
そして、マトバンは攻勢に出た。
上、下、斜め、横と怒涛の乱舞を繰り出すと、回転斬りで黒幽騎士に止めを刺した。
双剣を携えて凛々しく立つ。
黒幽騎士は崩れ倒れた。
その黒幽騎士の兜が怪しげに光る。
それは、最後の一撃をマトバンに仕掛けようとしていた。
その時、どこからともなく飛んできた蝙蝠が兜にへばりついた。
黒幽騎士の兜は、まるで力を吸い取られたかのように霧散していった。
黒幽騎士を打ち倒したマトバンだが、周りの様子が何か変だと気付いた。
明らかに騎士たちが動揺している。
「どうしたっ!?」
マトバンの視界はまだ戻っていない。
騎士たちの目の前には、奇異なる姿をした敵が姿を現していた。
それは、宙を漂っている。
その身体は歪んで幾重にも重なって見え、手には大きな鎌を携えているのであった。
騎士の1人が叫んだ。
「デススペクターだっ!」
その騎士の叫び声に呼応するかのように、デススペクターが絶叫の声を出した。
「ギュエヲォォォォォォ!」
次の瞬間、マトバンの耳に聞こえてきたのは、騎士たちの悲鳴であった。
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《ポルファス王国 王都近郊 平原》
その頃。
死を纏う者との決戦に挑む王国軍。
「突撃!!」
オルタスが咆哮のような号令を放った。
王国騎士軍団の騎馬兵が、敵に突撃を開始する。
【戦況】
▽=騎馬兵、〇=魔導士
王国騎士軍団
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↓ ↓ ↓ ↓
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死の軍団
怒涛の如き突撃は、次々と死の軍団を薙ぎ倒していく。
その突撃は敵の左翼と右翼をポイントで狙ったものであった。
敵の中央部分に対しては、魔導士が火属性の魔法で集中砲火を浴びせていく。
「クフフフ。」
死を纏う者であるアイラは、不敵に笑うと寝そべっていた地面に手を置いた。
異形の仮面の奥の目が赤く光る。
ゴゴゴゴォ。
激しく地面が揺れて、ところどころに地割れが起きはじめた。
騎馬兵は、地割れに驚いて暴れる馬を御する為、その突撃の手を緩めざるをえなかった。
その地割れからは、闇が這い出てきていた。
巨大な触手が、何本も地上に姿を見せる。
そして、それはゆっくりと這い上がってきた。
闇は、黒く不気味な羽を大きく広げると、少しだけ宙に浮かぶ。
その姿は悍ましく、真っ黒な球状の身体には大きな一つ目があり、何本もある触手の先にも怪しく光る邪眼がついている。
「王宮魔導士殿!あれは!?」
オルタスが王宮魔導士のマゴットに問う。
「邪眼の悪魔だ。それも、恐らくはアンデットであろう。」
邪眼の悪魔は、勇者シモンとアイラの3人で、初めて討伐した魔族である。
「ゲヒャゲヒャゲヒャ。」
邪眼の悪魔が不気味に笑う。
それに対して、王国騎士軍団は一斉に弓矢を放った。
無数の数の矢が、邪眼の悪魔に降り注ぐ。
しかし、敵の身体を打ち抜くことなく、全ての矢は力無く地面に落ちてしまった。
「ゲヒャヒャヒャヒャ。」
邪眼の悪魔が笑う。
何本もある触手をゆるりと持ち上げると、その先にある邪眼から闇属性の魔法を周囲に放った。
ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!ドガァン!
混乱する王国騎士軍団の騎馬兵たち。
それに乗じて、一斉に動き出した死の軍団がその場を埋め尽くしていく。
騎馬兵は次々と倒れていった。
そして、アンデットと化して立ち上がり、新たな敵へと変わる。
死の軍団は、その数を無数に増やしていくのであった。
戦場は一気にかき乱れた。
「邪眼の悪魔には、聖属性の攻撃しか通じんぞ。」
マゴットがオルタスに言った。
それを聞いたオルタスは、背中に担ぐ大剣を抜いた。
ポルファス王国の国宝“ミスリルの大剣”である。
「奴は私が討ちましょう。王宮魔導士殿には、死を纏う者をお願い致す!」
「うむ。」
オルタスは、邪眼の悪魔に向かって馬を走らせた。
マゴットは、敵の動きを慎重に見定めた。
そして、見つけた。
死を纏う者の姿である。




