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第1章 第44話 どうやらここが始まりらしい

- 魔素の世界 -

《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》


カモット辺境伯率いる王国軍は、静かに、そして迅速に動いた。

マイラン兵の野営地に夜襲を仕掛けると、それを見事に成功させる。


それにより、油断していた連合軍のマイラン兵は、散り散りになって潰走していった。


王国軍は、マイラン兵が残していった馬と武器を奪うと、他には火を放った。

そして、即座に自軍の拠点へと戻る。


しかし、連合軍のもう一方、イバラン兵の動きには変化が起こっていた。

イバラン兵は、火の手が上がった場所がマイランの野営地であることに気付いていた。


それは、王国軍に夜襲を仕掛けられた為ではないかと、正確な判断をしていたのである。


いま、王国軍の拠点は手薄になっている可能性が高い。

そこで、急遽、王国軍の背面に回る動きを変更して、手薄の王国軍拠点を“側面”から攻める形に切り替えたのである。


王国軍の斥候は、僅かな数でそのイバラン兵の動きを見張っていた。

そして、イバラン兵が動きを変えたことを悟るや、決死で足止めを図る。


圧倒的な兵数の違いで、全く相手にならないことは承知している。

それでも、1分1秒であっても、敵の動きを遅らせなければならない。


斥候は次々と倒れていった。


その斥候の命を賭した足止めは、大きな成果を生み出した。

王国軍は、全軍でマイラン兵の野営地に突撃していた。

拠点はもぬけの殻だったのである。


しかし、その約半数が、イバラン兵よりも早く、自軍拠点に戻ることができたのであった。


【戦況】


            王国軍

        斥候   

    ■■■■□   □

山   ■■■→    □

    イバラン兵    □

    9千5百    

            ↑↑

            □

            □□


――――――――――――――――――

平原       

         マイラン兵=潰走



自軍の拠点に戻った王国軍は、各々が阿吽の呼吸で“長槍パイク”を手に持つ者と“大盾シールド”を手に持つ者に分かれた。


すぐさま、長槍パイクを持った騎士と大盾シールドを持った騎士が交互に並び立つ。

そして、横に広がると防御態勢を整えていった。


それに対して、王国軍の斥候を排除したイバラン兵は、次々と王国軍の拠点がある丘に辿りついていた。


王国軍が長槍パイクを構えた防御陣形を敷いていることを確認すると、すぐに自軍も長槍パイク大盾シールドを構えて攻撃態勢を整える。


【戦況】

 

 山  少しひらけた丘(王国軍拠点)

   |

 ■■|■→  ←□

 ■■|■→  ←□

 ■■|■→  ←□

   |

 イバラン兵  王国軍約半数

 9千5百   3千強


両軍は激しく衝突した。

両軍共に長槍パイクを武器とした衝突である。


すると、すぐにイバラン兵側に困惑の色が出はじめる。

両軍の衝突で倒れていくのは、イバラン兵の方が明らかに多い。

数が少ないはずの王国軍が、なぜか優勢となっているのであった。


「どうした!? 押すんだっ!」


イバラン兵の若き将校が、必死に檄を飛ばす。


それでも圧されているのは、圧倒的に数が多いはずのイバラン兵側であった。

イバラン兵は、一歩、また一歩と後退させられていく。


その隙に、王国軍は全軍が拠点に戻ってくることができていた。


長槍パイクが横に並ぶ陣形は、その数が大きな脅威であって力となる。

通常であれば、圧倒的多数のイバラン兵が有利であることに間違いはない。

しかし、この両軍には、軍としての統制の違いがここにあった。


長槍パイクは、その長さ故に“重量”がある。

単純に重いのだ。

その為、イバラン兵は、兵が勝手に長槍パイクの持ち手を切って、その長さを縮めてしまっていた。


長さが“まちまち”となったイバラン兵の長槍パイクと、統率が取れた王国軍の長槍パイクの衝突では、自ずと大きな差が生じることになる。


カモットは、命懸けで足止めを実行してくれた斥候たちに、心の中で感謝を伝えていた。


【戦況】

 

 山   少しひらけた丘(王国軍拠点)


   | ←□□騎馬兵

   | ■■□

   |■■■□

   | ■■□

   | ■■□


カモットは、次の指示を出した。


すぐさま、王国軍の騎馬兵が、敵の側面に回って突撃を開始する。

それに対するイバラン兵は、王国軍を包囲しようと陣形を広げようとしていた。


【戦況】

 

 山   少しひらけた丘(王国軍拠点)


     騎馬兵

   | □□

   | ■■□

   |  ■□

   |  ■□

   |  ■□

      ■■■■


イバラン兵の動きを見た王国軍は、一糸乱れずに陣形を動かしていく。

防御陣形を斜めに展開していくのであった。


【戦況】

 

 山   少しひらけた丘(王国軍拠点)


     騎馬兵

   | □□

   | ■■□

   |  ■ □

   |  ■■ □

   |   ■■ □

        ■■


陣形を斜めに動かすということは、決して容易ではない。

統率がとれた王国軍の動きに対して、イバラン兵は徐々に足並みの乱れが目立ちはじめる。


形勢不利と判断したイバラン兵は、退却の陣鐘じんがねを鳴らした。


その退却するイバラン兵に対して、王国軍には追撃を行う余裕などない。

王国軍にも甚大な被害が生じているからである。 


即座に撤退したイバラン兵であったが、実はそこには考えがあった。

闇夜に紛れて、僅かな兵を隠した上で退却したのである。


それを指示したのは、イバランの若き将校であった。


この若き将校は、この戦いが初陣であり、まだ経験に乏しい。

しかし、百年に1人の逸材と言われるほどの人物である。


その名を“ラタ”という。


マイランの野営地が襲撃されたと見るや、側面からの攻撃に切り替えるように進言したのは彼である。

もし、彼がもっと戦場で経験を積んでいたとすれば、戦況は違っていたのかもしれない。


再度説明する。


ラタは極めて優秀な人物である。


彼は、勝利に必要な敗北として、この場から即座に兵を引くように進言した。

イバラン兵を指揮する将軍は、その彼の進言に聞く耳を持つ人物である。


敵が僅かな兵を隠して退却したということについて、カモットはそれに気付いていない。

そして、ここから新たな局面が始まることとなる。


第二章へと続く。


****************


《ポルファス王国 近郊 平原》


その頃。


ポルファス王国の王都より少し西にある平原では、ついに両軍が相まみえていた。


一方は、オルタス王国騎士軍団長を総指揮官とする王国騎士軍団2万、それに王宮魔導士のマゴット率いる魔導士200。


そしてもう一方は、アイラ率いる死の軍団5千である。


「王宮魔導士殿、よくこの場所に敵が現れることが、お分かりになられましたな。」


オルタスがマゴットに言った。


「敵が本当にシモンであるならば、きっとこの場所に来ると分かっておった。」


マゴットは、オルタスの耳に顔を近づけた。

そして、オルタスだけに聞こえる小声で話を続けた。


「オルタスよ。お主を信用して、我の過去を少しだけ話すとしよう。」


王宮魔導士のマゴットは、その本当の名をヒサシンと言う。


彼は、かつての勇者シモンと共に魔王を討伐したマジックキャスターであった。

そのことを知るのは、今や国王しか存在していない。


その彼にとっては、勇者シモンの“始まりの地”であるこの平原に、敵が現れることを予測することは容易かった。


この平原は、勇者シモン、ヒサシン、アイラの3人が、初めて魔族を討伐した場所である。

ここで魔族を討伐したこと功績が認められて、彼らは当時のポルファス王から勇者に任命されることとなった。


彼らの魔王討伐の旅は、ここから始まったのである。


「そうでしたか・・・・。」


王宮魔導士のマゴットが伝説のマジックキャスターであることを聞いて、オルタスは驚きはしたがすんなりと腑に落ちた。


「して、あの死を纏う者は、やはりかつての勇者に相違ありませんか?」

「この場所に来たということが、その確かな証拠となろう・・・。」


ヒサシンこと王宮魔導士のマゴットとオルタスは、敵の軍勢を見渡した。


死の軍団は無秩序に襲い掛かってくるかに思えた。

しかし、敵は微動だにせず動きを止めており、目の前には真っ黒な静けさだけがある。


アイラは、平原に寝転がった姿で、機嫌良く鼻歌を歌っていた。

どこからか、愛するシモンを奏でる曲が聞こえてくるような気がする。


とても気分が良い。


この場所は、アイラにとっては思い出深い場所である。


かつて、ここでアイラは、シモンとヒサシンの3人で魔族を討伐した。


その当時のアイラは、シモンを異性として意識したことなど、一度もなかった。

しかし、ここで魔族と戦った時にアイラはミスをしてしまい、大怪我を負ってしまう。


そのアイラを庇って魔族を仕留めたシモンは、その後もつきっきりで優しく介抱してくれた。

そう、この場所が、アイラの恋の始まりである。


そして、悲劇の始まりの地でもあった。


「クフフフ。」


アイラは、全身を覆った濃い緑色のマントの中に手を忍ばせた。

そして、その腰にある真っ赤な弓を撫でながら上機嫌に笑う。


シモンと育んだ愛を思い出すと幸せな気分になる。

そして、その“つつましい幸せ”を踏みにじった敵が、いま目の前にいるのだ。


時は来た。

きっとシモンは、この様子をどこかで見守ってくれているだろう。


アイラは立ち上がった。

異形の仮面の奥の目を赤く光らせる。


全てを蹂躙しつくす。


アイラは静かに手を上げた。

死の軍団は、一斉に恐ろしい叫び声を上げたのであった。

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