第1章 第39話 どうやら迷っている場合じゃないらしい
- 秘宝の世界 -
《導きの迷宮 地下》
時は少し戻る。
僕らは、ドロシャッパが逃げ出したことに安堵していた。
しかし、それは束の間であった。
すぐに新手の強力なモンスターが出現したのである。
それは異常に手足が長い“巨大化け蟹”であった。
《カルキノス》
■系統種族:魔物系-カルキノス ■年齢:60 ■レベル:10
■経験値:10200/12000
■HP:250/250 ■MP:0/0
■攻撃力:50 ■防御力:50 ■魔力:0
■ちから:50
■みのまもり:50
■すばやさ:10
■きようさ:1
■かしこさ:1
【スキル】触覚
跳躍
水属性耐性
麻痺耐性
【ジョブ】なし
【称号】なし
「何で・・・こんな大物が・・・。」
「たぶん、近くに水辺があるでやんス。」
腰が引ける僕らに対して、カルキノスがゆっくりと前進してくる。
長い手足で、器用に前進してくるその姿は、蟹というよりも巨大な蜘蛛のような動きだ。
「どうする?」
「これは絶対に勝てないでやんス。」
「逃げる?」
「それしかないわね。」
「目が1つしかないようだけど、目を狙ってみたらどうかな?」
「無理よ。甲殻の魔物系は目も特殊で硬いわ。」
カルキノスが少しずつ近づいてくる。
その姿は、どこか違和感があった。
そして僕は気づいた。
「あいつ、ミアの“光”を狙ってないかな。」
「!?」「!?」
僕は、リュックサックから灯石を取り出した。
そして、それを試しにカルキノスの真横に向かって投げてみた。
カルキノスは、すぐさま反応した。
その巨大な鋏で灯石を掴むと立ち止まる。
そして、それを粉々に砕いた。
その姿を見た僕は確信した。
「あいつ、たぶん目はあまり良くないよ。」
「何で?」
「何ででやんス?」
「いま投げた灯石に反応した時、目よりも先に触覚の方が動いてた。」
「確かに。」
「なるほどでやんス。」
「あともう1つ、あいつ鋏で何かを掴んだ時、足を止めるみたいだ。」
「ミライ、やるわね。」
「ナイスでやんス。」
僕たち4人は顔を見合わせて頷いた。
「準備はOK?」
ミアが尋ねる。
「OK」
「OKでやんス。」
「OKです。」
ミアは僕の頭にしがみついて、自分の光を消した。
すぐさま、僕とゼフェルが灯石をカルキノスの横に投げる。
それにカルキノスは反応した。
その横を僕らは走り抜けた。
カルキノスは、いとも簡単に灯石を鋏で砕いている。
それを砕き終わると、すぐに僕らを追いかけてきた。
僕とゼフェルが、また1つずつ灯石を投げた。
それをまた砕いたカルキノスが、僕らを追いかけてくる。
そのスピードは、僕らが走る速度よりも速い。
まずい!追いつかれる!
また僕とゼフェルは、灯石を投げた。
僕らは必死で走った。
T字路に分かれた道に出る。
僕は迷わず左側の道を選択した。
そして反対の道に向かって、灯石を力一杯に投げ込んだ。
カルキノスは、灯石を狙って右に曲がっている。
その隙に何とか僕らは逃げ出せたのであった。
僕らはまだ走り続ける。
少しでもカルキノスの脅威から遠ざからないといけない。
すると、徐々に奥から明かりが漏れてきた。
そこに辿り着くと、それは虹色の洞窟であった。
壁が虹色に光り輝いている。
目の前には地底湖があり、水面にはその光が反射していた。
「まずい。行き止まりだ。」
ここから先の道が、どこにも見当たらない。
しかし、引き返すとなれば、あのカルキノスがいる。
「あそこ、行けるかもしれません。」
ゼフェルが指をさした。
地底湖の先にある壁に穴らしきものが見える。
「潜るしかないわ。」
ミアが覚悟を決めた顔をした。
「でも、水中には魔物がいるんじゃない?それにそんな長い間は息が続かないよ。」
「とりあえず、オイラが様子を見てくるでやんス。」
ポランはそう言うと、灯石を1つ持って地底湖に飛び込んだ。
そして水中に潜る。
カツカツカツッという足音が聞こえてきた。
間違いない。
この足音はカルキノスだ。
僕は最後の灯石を遠くに放り投げた。
「迷ってる場合じゃない!行くわよっ!」
「うん!」
「はい!」
そして、僕とミア、ゼフェルの3人も地底湖に飛び込んで水中に潜ったのであった。
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- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション内》
ケイルとヒーロは、身を隠しながら街中を移動していた。
マルカーの手下たちがあちらこちらでうろついており、自分たちを探しているようである。
なぜか、その他には人の姿が見当たらない。
「おかしい。何で誰もいないんだろう。」
「夜だからかな?」
「いや、まだこの時間なら、たくさんの人が外にいるはずさ。」
ヤークションでは、夜間外出禁止令が出されていた。
そのことを2人は知らない。
ケイルとヒーロが進みたいと思う道には、嘘つきマルカーの手下がいる。
そして、剣を携えているのであった。
「あいつ。本気で僕らを殺す気だ。」
「え? 殺されるのは僕だけじゃないの?」
「たぶん僕がヒーロを助けたことはバレてる。あいつは息子の僕さえ平気で殺す奴さ。」
「そんな・・・。」
「ヒーロが気にすることはないさ。」
ケイルは、道の反対側に小石を放り投げた。
その音に反応したマルカーの手下が動く。
その隙に2人は走り抜けた。
すると、遠くから喇叭の音が聞こえてきた。
「何?」
「何だろう・・・。」
その音が聞こえたと思ったら、忙しく走る騎士の姿が見えた。
ケイルとヒーロは、物陰に素早く身を隠して息を潜める。
それは、街中の巡回警護をしていた王国騎士軍団の常駐隊である。
保護されることはあれ、隠れる必要は全くなかったのだが、2人はそれを知る由もない。
騎士の姿を見たケイルとヒーロは、完全に誤解していた。
自分たちを捕まえる為、ついにマルカーが騎士をも動かしたのだと。
「ヒーロ。これは思っていたよりも大変だ。」
「うん。」
「絶対に誰にも見つかっちゃダメだ。隠れながら行くよ。」
「うん。分かった。でも、どっちに行ったら良いのかな?」
「とにかく動こう!行くよ!」
「うん!」
ヒーロこと、ヒーロスト・フォン・フクダンの屋敷までは、子どもの足で辿り着くには距離がある。
ましてや、2人ともその道のりを知らなかった。




