第1章 第40話 どうやらまたもクレージーらしい
- 秘宝の世界 -
《導きの迷宮 地下》
僕とミア、ゼフェルの3人は、急いで地底湖に飛び込むと、そのまま水中に潜った。
水はかなり冷たい。
ミアは泳げないらしく、僕の髪の毛に必死でしがみついている。
先に地底湖に飛び込んだポランの姿は、どこにも見当たらなかった。
地底湖の中は真っ暗である。
僕とゼフェルは、水面の明かりを頼りに泳いだ。
モンスターが襲ってくるかもしれない緊張感があるので、想像していた以上に水中での息が続かない。
僕らは、ゼフェルが見つけた壁の穴に入った。
そこで1度水面に顔を出して呼吸をする。
「びゃひゃー。ダメ、死ぬ死ぬ。」
ミアが僕の頭の上でジタバタする。
ゼフェルは平気なようだ。
全く苦しそうにしていない。
「頑張れミアっ!行くよ!」
僕らは、もう1度水中に潜った。
「びゃぶぶぶぅぅぅ。」
すぐ先に明かりが見えた。
僕は必死に泳いでその明かりまで辿り着くと、すぐに水上に顔を出した。
「ぶはーっ!」
「あびゃひゃひゃひゃー!」
何とか地上に上がると、僕とミアは地面に仰向けに寝ころんだ。
やはりゼフェルは平然としている。
「ぶはー。ぶはー。ぜー君はすごいね。苦しくないの?」
「何か苦しいのですか?」
ゼフェルは首を傾げた。
ペタッペタッペタッ。
ポランの足音が聞こえる。
先に地底湖に飛び込んだポランが、僕らに駆け寄ってきた。
「妖精系は呼吸の必要がないでやんス。もちろん、元素系のオイラも必要ないでやんス。」
「え?じゃあ、何でミアは溺れてるのかな?」
僕はミアを見た。
目から鼻から口から、色々なものが出ている。
「びゃひゃー。ダメ、死ぬる死ぬる。」
ミアは、可哀そうなほど悲惨な姿になっている。
それを見た僕は、追求するのを止めた。
そして辺りを見回す。
「ここって・・・。」
僕は息を飲んだ。
そこは、明らかに人工的に手が加えられた造りになっている。
それも“和風”な雰囲気が漂っているのであった。
虹色に輝く壁は、掘って作られた和風建築物のようになっており、それは瓦まで一つ一つ彫刻されている。
ツカン。ツカン。ツカン。ツカン。
奥から、何かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
僕らはすぐに我に返る。
そう、僕らはまだ迷宮の地下にいるのだ。
この足音は、新手のモンスターである可能性が高い。
ツカン。ツカン。ツカン。ツカン。
それは、だんだんと近づいてくる。
僕らが見るMAPに印が表示された。
「・・・黄色だ。」
どうやらモンスターではないらしい。
僕は脱力して、全身から力が抜けたように座り込んだ。
「おや?これは珍しいでござるな。」
黄色印が、こちらに向かって歩いて来る。
「こないな場所に人が来ようとは、何か御用でござるかな?」
ツカン。ツカン。ツカン。
「そないにずぶ濡れになって、寒うはござらんのか?」
それは、子供くらいの背丈の“小さな武士”であった。
しかし、人ではない。
全身がほぼ黄色で何か違う。
「へっぶしゅっ!」
ミアがくしゃみをした。
確かに寒い。
すぐに温まらないと、低体温症になりかねない。
「拙者の名は“キントン”と申す。」
小さな武士が名乗ってきた。
「あ、僕はミ・・・。」
その時。
バッシャーン!
地底湖から何かが飛び出した。
「ビュルィギャーーッ!!」
MAPの表示は赤印、モンスターである。
「カルキノスが追いかけてきたでやんスっ!」
ポランが叫んだ。
僕とゼフェルは、慌てて短い剣を構える。
ポランが、手に持つ最後の灯石を放り投げようとした。
「お主ら、ちょっと下がっておくが良い。」
キントンと名乗った小さな武士は、灯石を投げようとしたポランを制止して前に出た。
ツカン。ツカン。ツカン。
そのまま、カルキノスに向かって歩いていく。
「今宵は“蟹鍋”でござるな。」
キントンはそう呟くと、腰の鞘から“日本刀”を抜いた。
シャキーンッ!
それは一瞬であった。
日本刀を“一閃”したかと思ったら、次の瞬間にはカルキノスが縦に真っ二つに割れていたのである。
そして、何事もなかったかのように、キントンがこちらを振り返った。
「客人。宜しければ蟹鍋を馳走しよう。拙者について参れ。」
キントンはそう言うと、真っ二つに割れたカルキノスを左右の手で半分ずつ軽々と持ち上げた。
僕らは、ウンウンと無言で頷く。
カルキノスを持ったキントンが、僕の横を通り過ぎようとして立ち止まった。
「ほう、これはこれは。」
キントンは、何かに納得しているようだ。
僕は、キントンのステータスを見てみた。
《キントン》
■系統種族:物質系-オリハルコンゴーレム ■年齢:1214 ■レベル:70
■経験値:1311000/1398000
■HP:1100/1100 ■MP:500/500
■攻撃力:300(+500) ■防御力:550 ■魔力:500
■ちから:300
■みのまもり:450
■すばやさ:70
■きようさ:20
■かしこさ:40
【スキル】集中
刮目
不屈
物理攻撃耐性
全属性耐性
全状態異常耐性
【ジョブ】侍
【称号】生まれ変わりし物
「なっ!? オリハルコン!?」
「あれ、所長クラスのクレージーゴーレムじゃない!」
「たぶん、またあのパターンでやんス・・・・。」
希少どころか伝説級の素材で作られているゴーレム。
僕らは、何となくあのパターンを確信しながら、キントンの後をついていったのであった。
そう。
きっと、かつての僕が作り出したゴーレムだろうな。
****************
- 異世界免許教習所 -
その頃。
大賢者コマゾーは、自室にゴーレムが持ってきた夕食を平らげた後、ソファに横になっていた。
「ふむ。ちと遅すぎるようだにゃ。」
4人に指示を出した仕事は、初歩の初歩でとても簡単なものである。
とっくに帰ってきていてもおかしくない。
「ちと、様子を見に行ってやるかにゃ。」
コマゾーは軽やかに立ち上がると、転移の間に瞬間移動した。
****************
- 魔素の世界 -
マリブ村で生き残った村人たちを連れて、ミズナはヤークションを目指して進んでいた。
月明かりを頼りに村人を守りながら移動している。
非常に神経を使う状況であった。
モンスターはもちろんのこと、夜盗にでも遭遇したら元も子もない。
ふと、ミズナは気づいた。
こちら側に向かってくる灯が見える。
それは1つではない。
かなりの数だ。
夜盗か!?
ミズナは背中に汗がつたうのを感じた。
村人たちが手に持つ“松明”の火を消すように指示を出す。
ミズナは村人たちに伝えた。
「みんな。最初に言った通りよ。」
それは、もし夜盗やモンスターに狙われた場合、ミズナ1人が松明の火をつけたまま動いて戦う。
その隙に村人たちは、暗闇に紛れて逃げるようにというものであった。
ミズナは、1人だけ煌々と火を灯した松明を手にして、村人たちとの距離をとっていった。
無数の数の灯は、ミズナが持つ松明を目掛けて近づいてくる。
ミズナは剣を抜いた。
無数の数の灯の動きは統率されている。
そして、ミズナを囲い込むような形に横に広がっていった。
まずい!
これでは、村人たちが暗闇に紛れて逃げるにも、その逃げ道がなくなってしまう。
焦るミズナに向かって、いくつか少数の灯だけが近づいてきた。
それを見たミズナに希望が湧いた。
恐らく、あれは斥候だ。
すると、ヤークション領の私兵騎士隊か王国騎士軍団常駐隊である可能性が高い。
「ミズナ様っ!ミズナ様ではありませんか!?」
近づいてきた相手は、ヤークションの私兵騎士であった。
ミズナは安堵した。
その灯は、ミズナの増援に向かっていた私兵騎士隊400騎である。
こうしてミズナは、無事に合流することができたのであった。
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- 秘宝の世界 -
《導きの迷宮 地下》
展開は、導きの迷宮 地下に戻る。
僕らは、壁をくり抜いて作られた部屋に上がらせてもらっていた。
そして、異世界免許教習所の自分の部屋にあったものと同じ、温風が出る細長い石のドライヤーで身体を乾かしていたのであった。
因みにドライヤーの必要がないポランは、ミアを乾かしている。
「乙女の羽は、もっと優しくしなさいよっ!」
ミアがポランに、逐一注文を出していた。
部屋の中は、全て迷宮の壁を繰り抜いて造られている為、全てが虹色の岩である。
床の見た目は畳の形に彫刻されているが、岩であるからには硬い。
「お待たせしもうた。」
キントンが巨大な鍋を持って部屋に入ってきた。
その中には、見事に赤く茹で上がったカルキノスがぶつ切りで入っている。
すごく良い香りが部屋中に広がった。
ぐ~。
ぎゅるる~。
僕ら4人のお腹が一斉に鳴った。
「いただきます!」
「いただくわ!」
「いただくでやんス!」
「いただきます。」
僕ら4人は、それをガッツいて食べた。
「うまい!」
カルキノス鍋は、極上のご馳走であった。
キントンを見ると、ゴーレムなのに普通に食事をしている。
「ゴーレムが食事するなんて、初めて見たわっ!」
ミアが無遠慮に語り掛けた。
「拙者には食事の必要はござらんが、これは風流というものでござる。」
キントンはそう言うと、カルキノスを殻ごとボリボリ食べている。
僕らは、あっさりと完食してしまった。
「生き返ったわ!」
「生き返ったでやんス。」
ミアとポランが、パンパンになったお腹をさすりながら横になった。
「死んだのですか?」
やはりゼフェルが、また同じ質問をした。
ポランが、生き返ったの意味を丁寧にゼフェルに教えている。
本当にポランは面倒見が良い。
「ねえ!キントン!ゴランって知ってる?」
それと対照的なミアは、またも不躾にキントンに質問していた。
「ゴラン? それはもしや、ミスリルのゴラン殿のことでござるか?」
「やっぱり!」
「懐かしい名を聞き申した。もう長いことお会いしておらなんだが、ゴラン殿はご健在か?」
「元気も元気、迫力あり過ぎて怖いわよ!」
「ハッハッハッ。ゴラン殿は大きいでござるからな。ミスリル兵団を率いたあの姿は、とても凛々しかったでござる。」
「ミスリル兵団?」
「そうでござる。先の大戦では、千を超えるミスリルゴーレム兵を率いて、ゴラン殿は敵を殲滅していったでござる。」
「千を超えるミスリル兵って・・・。」
僕は呆気にとられた。
「はぁ。ほんと昔のミライってクレイジーよね。」
ミアがボソッと言った。
「して、気にはなっておったのだが、お主からは拙者を作られた主の波動が感じられるでござる。」
「そうみたいですね。」
「すると、主はすでに身罷られたということでござるな・・・。」
「そうみたいです・・・。」
キントンは黙り込むと、過去を懐かしむかのように思いにふけったのであった。




