第1章 第34話 どうやら何かが守ったらしい
- 魔素の世界 -
ミックは、敵の“かぎ爪野郎”の中で最も強者だと感じた相手に対して、剛腕を振るった強烈な一撃を繰り出した。
敵はそれをかろうじて躱すと、慌ててミックとの間に距離を取る。
かぎ爪野郎の顔を覆っていた黒い布が破れ落ち、ワードッグ《犬人間》の顔が露わとなった。
「くっ! こやつ、強いぞ!」
ワードッグが驚いた顔で叫ぶ。
そして、自身の身体にスキル“体術強化”を使った。
その様子を見ていたミックは気付いた。
どうやら、体術強化が使えるのは、こいつ1人だけのようだ。
3体のワードッグ《犬人間》は互いに呼吸を合わすべく目配せをすると、3方向から一斉にミックに襲い掛かった。
敵1体は大きく跳躍してミックの後背の頭上から、別の1体は横から足元を狙ってくる。
そしてもう1体は、その“気配”を消した。
ミックは足元を狙ってきた敵の攻撃を避けると、その敵の身体を踏み台にして華麗に宙返りをした。
そのまま空中で、後背の頭上から襲ってきた敵を両手の斧で斬り裂く。
「うぐぁっ!」
敵にダメージは負わせたものの、まだ致命傷には至っていない。
ミックはさらなる追撃を試みたが、目の前に気配を消していた敵が急に現れる。
その敵による攻撃は何とか凌いだものの、ミックは顔にかすり傷を負ってしまう。
それを見た3体のワードッグ《犬人間》は、勝利を確信したかのようにニヤッと笑った。
ミックは頬に受けた傷を腕で拭った。
「だから、その“麻痺毒”は効かないって言ったよな。」
麻痺毒を受けても平然としているミックの姿を見て、3体のワードッグ《犬人間》に動揺が走る。
その隙をミックは見逃さなかった。
スキル“すてみ”を使用し、相手を上回るすばやさで敵の1体に近づく。
そして、敵が防御の構えをするよりも早く、両手の斧で6度の怒涛の如き斬撃を繰り出した。
「・・・・・。」
その攻撃を受けた敵は、言葉を発する間もなく崩れ落ちた。
ミックは、スキルの筋力強化とすてみの効果により、攻撃力が倍増となっている。
さらに、すばやさも格段に上がっていることから、ワードッグ《犬人間》の動きを捉えることができていた。
しかし、すてみの反作用によって、みのまもりは大きく下がっている。
敵にそれを悟られるわけにはいかない。
先手必勝。
ミックは、大きくジャンプをして敵に飛び込むと、地面に2本の斧を激しく打ちつけた。
ドッガーン!!!
その攻撃を2体のワードッグ《犬人間》は、左右にすばやく散って避けた。
ミックの攻撃は止まらない。
敵の1体に狙いを定めると“技”を繰り出した。
「疾風怒濤!!」
2本の斧から放たれた“×字”の斬撃は、敵1体の首と両腕を斬り落とした。
しかし、敵の死角からの斬撃をまともに受けてしまう。
「ぐっ!」
みのまもりが大きく下がっているとはいえ、ミックの防具は敵の攻撃力よりも性能が高い。
ミックが受けた攻撃は、最後に1体残っている体術強化を使用した敵のリーダー格のものであった。
ミックは、再び気配を消した敵のリーダー格の姿を探る。
敵のスキル“隠遁”は、その気配を消して死角に姿をくらませることができるようだ。
また死角から敵の攻撃が繰り出された。
ミックは躱すことができない。
また一撃、また一撃と敵の攻撃をくらう。
敵は、少しずつダメージを与える長期戦の戦法に切り替えたようだ。
しかし、敵の攻撃を受けながらも、ミックは確信を持っていた。
あの時、手も足も出なかった“かぎ爪野郎”は、もう俺の敵ではない。
ミックは、斧を持った両手に力を込めて両足を前後に広げると、少し沈むように腰を落とした。
その瞬間、またも死角から敵の攻撃が繰り出されてきた。
その攻撃を、ミックは身体を捻って見事躱した。
そして、そのまま右手の斧で敵を斬りつける。
「うぐっ!」
敵の動きが僅かに止まった。
「終わりだ。」
バシュッ!!
ミックは、最後の敵の首を斬り飛ばした。
因縁の敵との戦闘を終えたミックは、“あいつの拳銃”を持った貴族の姿を探す。
ドォン!
その時、ミックの左肩が打ち抜かれた。
地面に尻もちをついた姿で、貴族がこちらに拳銃を向けている。
その拳銃の銃口からは、硝煙が小さく流れていた。
ミックは、静かにその貴族を見下ろした。
銃で撃たれたダメージはさすがに重い。
ワードッグ《犬人間》との戦闘で受けたダメージも軽いものではなかった。
「わ、我を、だ、誰だと思うておる!シーラオスであるぞっ!」
その貴族は、手に持つ拳銃をガタガタ震わせながら叫んだ。
ミックは、貴族の言葉を無視して、周囲の様子を確認した。
発砲の音に気付いた騎士たちが、こちらに向かって駆けつけてきている。
「それを渡せ。」
「く、来るな!」
その貴族が、もう一度引き金を引こうと構える。
ミックは、打たれることを覚悟して歯を食いしばった。
その時。
一縷の風が2人の間に流れた。
ドォン!
それは、ミックを打つことはなかった。
拳銃は弾を飛ばすことなく“暴発”した。
貴族の手首から先が、暴発によって吹き飛ばされている。
「ひっ!?ひぇっ!?ひぇぁぁぁっ!」
貴族が、驚きと痛みに地面をのたうち回る。
ミックは、その貴族に近づいて蹴飛ばした。
そして、バラバラになった拳銃を拾う。
大賢者コマゾーの弟子コマゾは、ミックの戦いを上空で静かに見守っていた。
全てが終わったことを確認したコマゾが、ミックのそばに瞬間移動する。
「かなり、肝を冷やしたぞ。」
「心配かけたな。」
ミックは、腰のポシェットから回復薬を取り出して、それを飲んだ。
そして、バラバラになった拳銃を見る。
「これ、まさか壊れたから、仕事失敗とかにならないよな?」
「ハハハッ。どうだかな。」
「まいったな。」
ミックは右手で頭を掻いた。
「さて、このままだと騎士どもに囲まれるから場所を移すぞ。」
「あぁ。悪いな。」
ミックは“リアンの拳銃”をもう一度見た。
それは、バラバラに壊れている。
しかし、リアンのモノである証となる“兎が人参を加えたマーク”の部分だけは、無傷の状態で綺麗に残っていた。
「今度、“料飲の世界”に行って、手に入れてきてやるか。」
ミックは呟いた。
そして、その場から2人は姿を消したのであった。




