第1章 第33話 どうやらただの木じゃなかったらしい
- 秘宝の世界 -
《導きの迷宮 地下》
僕とゼフェルは、迷宮1層の崩落に巻き込まれてしまった。
地面に発生した亀裂から落下したのである。
その後、すぐにミアとポランが、決死の覚悟で飛び降りてきてくれた。
2人には本当に感謝しかない。
僕とゼフェルは、落下した時の怪我で動けなかった。
いまは、ミアが回復してくれている。
「地下だからMAPが見れないでやんス。」
「さらに地下は、“帰還の印綬”が使えないからやっかいね。」
「とにかく・・・何とか1層に戻る道を探すしかないでやんス。」
「ポランは、地下と1層が繋がっている階段を見たことある?」
「オイラは記憶にないでやんス。ミアはどうでやんスか?」
「私もないわ。」
真剣な表情で相談するミアとポランであるが、どうすれば良いか見当がつかない。
その2人を見て、ゼフェルが言った。
「あの・・・MAPで、1層を見ながら動くのはどうですか?」
「ぜー坊、それナイスアイデアね! 」
「確かに! MAPのフロア切り替えは可能でやんス!」
もし、1層に階段らしきものがあれば、その方向に向かって進んでいくことが得策であろう。
しかし、4人ともレベルが低い。
4人が見れるMAPの範囲は狭く、いまのところは階段らしきものは見当たらなかった。
「喉が渇いたな。そういえば、この“実”って食べれるのかな?」
僕は、リュックの中身を漁った。
そして、木のゴーレムに貰った“何かの実”を取り出す。
その実は皮が硬いものの、短い剣で切ることができそうだ。
「私とポランは、少しこの周辺を見てくるわ。」
「2人はここで少し休んでおくでやんス。」
「わかった。」
「はい。」
ゼフェルはランドセルのようなリュックから、灯石を取り出した。
ミアという“明かり”がなくなると暗闇となったが、その灯石が照らしてくれる。
「よし。じゃあ、この実を切ってみるね。」
「はい。」
僕は腰に下げた鞘から、短い剣を抜いた。
そして、何かの実を切ってみる。
サクッ。
すんなり切れた。
どうやら瑞々しくて、美味しそうな感じがする。
「これ、食べようと思うけど、ぜー君はどうする?」
「いただきます。」
「もし、毒があったらゴメンね。」
「でも、喉カラカラです。」
ゼフェルは困り顔をしながら笑った。
2つに切り分けた実の半分をゼフェルに手渡すと、2人でむしゃぶりついた。
「意外に甘いね。うまい。」
「うまい。」
木のゴーレムに貰った何かの実は、水分を多く含んでいて甘く、とても美味しかった。
「ふう。生き返った。」
「死んだのですか?」
いや、そうじゃなくてね。
まあいいや。
そこにミアとポランが周辺探索から戻ってきた。
「すぐ近くに階段はないわね・・・・って。」
「マッピングしながら先に進むしかないでやんス・・・って。」
ミアとポランが、僕とゼフェルの姿を見て“唖然”としている。
「あんた達、何で光ってるの?」
「へ?うわっ!何これ?」
僕はミアに言われて気付いた。
僕とゼフェルの身体がなぜか輝いている。
その輝きは徐々に薄まり、そして元の身体に戻った。
「何?あんた達、何をしたの?」
「いや、木のゴーレムに貰った“あの実”を食べてみたんだけど・・・。」
そう答えた僕は、自分の身体の中に“何か不思議な力”が沸き起こった感覚がした。
どうやらゼフェルも同じらしい。
僕は自分のステータスを確認した。
《ミライ》
■系統種族:ヒト系-コモン ■年齢:17 ■レベル:1
■経験値:150/2000
■HP:40/40 ■MP:25/25
■攻撃力:4(+5) ■防御力:1(+3) ■魔力:5
■ちから:4
■みのまもり:1
■すばやさ:2
■きようさ:5
■かしこさ:4
【スキル】なし
【ジョブ】なし
【称号】異世界免許教習所に雇われし者・見習い
プラモデルをつくりし者
「えっ!?何で!? 僕にMPと魔力があるんだ!?」
「!?」
ゼフェルのステータスも同様である。
「まさか、それ・・・もしかして、“魔力の実”だったのかも・・・。」
「激レアでやんス。“命の大樹”に千年に1度生るっていう奇跡の実でやんス。」
「え・・まじ?」
「命の大樹は、どこにあるのか定かでないわ。」
「8つの世界のどこに存在しているのか、誰も知らない樹でやんス!」
唖然として開いた口が塞がらない。
おいおい。
あの木のゴーレムって、“命の大樹”で作られていたのだろうか???
「はぁ。昔のミライって、やっぱりクレイジーよね。」
ミアがポツっと言った。
****************
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション》
その頃。
ポルファス王国西部の都市ヤークションでは、“嘘つきマルカー”の屋敷にて不穏な話し合いが行われていた。
「殺すしかないな。」
「いまであれば、誰も気づきますまい。」
「剣はダメだ。床に血が残る。首を絞めろ。」
「仕方がないですな。」
フクダン伯爵の息子は、外から鍵をかけた部屋に閉じ込めている。
その息子をどうするか話し合っていたのであった。
その部屋の外では、小さな影が聞き耳をたてていた。
その小さな影は、その話を聞くなり急いでその場を去っていく。
一方、気絶していたフクダン伯爵の息子は、うっすらと目を覚ました。
「ここは・・・どこ?」
後頭部とお腹が痛い。
自分が蹴られたことを思い出した。
自分を蹴った男には見覚えがある。
確か父上の副官と、いつも一緒にいる人だ。
父上の副官のことは大嫌いである。
細身で、神経質で、いつも不敵な笑みを浮かべたその眼鏡の奥が怖かった。
フクダンの息子は聡く、自分は攫われたのだと確信した。
急いで部屋の扉を開けて逃げようと思ったが、外から施錠されているようでビクともしない。
その時。
ふと後ろでガサッと音がしたと同時に声がした。
「君が“ヒーロ”か?」
そこにいたのは、自分よりちょっと年上らしき男の子であった。
なぜか顔も全身も真っ黒に汚れている。
「そうだよ。君は?」
「僕は“ケイル”、君を助けに来た。」
フクダンの息子は、その名を“ヒーロ”と言う。
正式には、ヒーロスト・フォン・フクダンである。
ヒーロは、その“ケイル”と名乗った子に質問した。
「僕を助けるの?」
「そうだよ。ヒーロ、僕の父上は怖い人だ。」
「ケイル、君の父上は誰?」
「僕は男爵家、マルカーの息子さ。でも、僕は父上のようには絶対ならない。」
ヒーロは、ケイルがマルカーの息子と聞いて身構えた。
「安心して。君は僕が助ける。」
「どうやって?」
「ここから逃げ出すのさ。」
そう言うと、ケイルは暖炉のレンガの一つを強く押した。
すると、暖炉の中で何かが動いた音がする。
そこには大人ひとりが這って入れそうな穴が現れた。
「とにかく急ごう。さっき、君を殺すと父上が決めた。」
「え!?殺す?」
「そう。すぐにここに来る。だから逃げるんだ。」
「う、うん。」
この時、ヒーロが監禁されていた部屋の前には、マルカーと子飼いの部下、それに供が2人立っていた。
子飼いの部下は心の中で思っていた。
子どもを手に掛けるのは、さすがに気分が良くない。
マルカーの表情をチラッと見ると、少し楽し気で興奮しているように見える。
この男はどこまで人間が腐っているのだろうか。
供の者が、扉の鍵を開けた。
「やれっ!」
即座にマルカーが命令を下す。
扉を乱暴に開けて、子飼いの部下と供の2人は部屋に飛び込んだ。
しかし、フクダンの息子が見当たらない。
部屋の中を探す。
この部屋には窓がない。
その為、この扉から出入りしない限り部屋の中にいるはずである。
「?」「??」
「おりません。」
「どこかに隠れておるな。探せ。」
ケイルとヒーロは、暖炉の中の穴からこっそりと抜け出していた。
抜け穴は、屋敷の地下を通って地上へと繋がっている。
「僕、殺されるの?」
「そうさ。父上なら絶対にやる。でも、僕がそれをさせない。」
「ケイル、僕を助けたら君は怒られるよ。」
「へっ。君を助けたら、父上は捕まるさ。そして僕も・・・。」
「何?」
「いや、何でもない。これは僕の正義さ。」
ケイルはヒーロに笑顔を向けた。
その2人の顔と身体は、煤で汚れて真っ黒になっていた。




