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第1章 第28話 どうやらあの時見た虹が最後らしい

ミズナは薄れゆく意識を途切れさせまいとしていた。

片手で回復薬を必死に探りだすと、それを一気に飲む。


しかし、回復薬は多少の傷を癒す程度の代物でしかない。


左腕はデススペクターに切り落とされた。

鎌で刺された身体の傷も深い。


しかし、ミズナは歯を食いしばると立ち上がった。


自身が率いてきた私兵騎士隊は、全滅してしまった。

死の軍団はマリブ村になだれ込み、村人を惨殺して暴れ回っている。


ミズナは、一歩、また一歩とよろめきながら村に向かって歩く。

そこに生き残っていた私兵騎士が、ミズナの下に近寄ってきた。


「ミズナ様、どうか、どうかお逃げ下さい。」

「馬鹿を言うな!私は、この惨劇を前に逃げることなどできない!」

「しかし、その御身体では・・・。」


もう自分が、ろくな戦力にはならないということは、ミズナも理解している。

ミズナは、近寄ってきた私兵騎士に最後の回復薬を渡すと言った。


「貴殿に最後の頼みがある。」

「何なりと。」


私兵騎士は、その回復薬を使うことなくミズナに返した。

それを返されたミズナは、その意味を悟って寂しげな笑顔をつくる。


「私を馬に乗せて、村まで走ってはくれぬか。私は最後まで戦いたい。」

「仰せのままに。」


私兵騎士は、近くに逃げていた馬を“口笛”を吹いて呼んだ。

その騎士の背中には大きな切り傷があり、そこから大量の血が流れだしている。


よもや、こうして話ができていることが不思議なくらいだ。

そこまでに傷は深い。


馬にミズナを乗せると、私兵騎士はミズナの後ろに跨った。

そして、馬の横っ腹を足で叩く。


馬はマリブ村に向かって走り出した。


「すまんな。このまま突入してくれ。」

「イエッサ・・・・。」


私兵騎士は笑顔で答えた。

その言葉を最後に、私兵騎士は“事切れた”のであった。


しかし、手綱は堅く握られたまま、決して手放していない。

その私兵騎士は、この場所に来る途中で、空に虹がかかっているのをミズナに教えてくれた騎士であった。


ミズナの頬に涙が伝う。

そして、その残る1本の腕に力を込めて剣を振りかぶると、死の軍団の群れの中に突入していった。


すぐに馬は引き倒されて、ミズナが転げ落ちる。

そして、死の騎士デスナイトがミズナを襲った。


ミズナは、敵が斬りつけてきた剣を弾くと前蹴りを繰り出した。

そして、その横にいた死の騎士デスナイトを斬り伏せて、“デススペクター”を探した。


しかし、奴の姿は見当たらない。


村長はすでに亡き者となっていた。

その周りにも見知った顔の村人の亡骸があちらこちらにある。


どうやら村人は、私兵騎士と共に戦おうとしてくれたようだ。

その手には、武器と呼ぶにはお粗末なものが握られている。


ミズナは心の中で村人に謝りながら、必死に剣を振るい続けた。

もう身体は石のように重い。


もはや自分もここまでか。


その時。

夕暮れの空に“眩い光”が走った。


死の軍団が一斉にその光に向きを変える。

そして、その光にまるで誘われるかのように動き出した。



光源ライトソース!」


大きく揺れながら走る馬車の上に立つジーニャは、上空に眩い光を打ち放った。

この光を見た闇属性の敵は、これを無視することができないはずである。


「このまま突っ込むぞい!」


ウォルスが叫んだ。


「あちきが雑魚どもを蹴散らすから、エレンはすぐに“黄色印”を助けるさね!」

「わかったわ!」


馬車がそのまま村に突入する。

ジーニャは素早く馬車の上から飛び降りると、杖を天にかざした。


「浄化のピュリフィケーション!」


四方八方に光が解き放たれ、その光が死の騎士デスナイトを穿つ。


エレンは、すぐさまその場に倒れている村人に駆け寄った。

しかし、首を横に振る。

すんでのところで間に合わなかった。


MAPマップで“黄色印”の場所を確認する。

その数は僅か。

それでも、幾つか表示されている。


「おいおい、何かが来よったぞい!」


ウォルスは、エレンの横に立って大きな盾を前に構えた。


ドゴォッン!!


ウォルスが構えた盾に闇属性の魔法攻撃が激しくぶつかった。

しかし、それを防いだウォルスとエレンは無傷である。


「ギュエヲォォォォォォ!」


とち狂ったような低い声の絶叫が響いた。

デススペクターの“麻痺の叫び”である。


「デススペクターか!?」


ウォルスが叫んだ。


ウォルス、ジーニャ、エレンの3人は“麻痺耐性”を持っている。

その為、デススペクターの麻痺の叫びで硬直することはない。


「ちっ!オリオンじゃなかったようさね。」

「ちと大物じゃの。どうする?」


「こいつは、あちきが仕留めるさね。2人には雑魚処理と“黄色印”の回復を任せるさね。」

「わかった!」

「わかったわ!」


2人はMAPマップを確認すると、ウォルスは“赤印”、エレンは“黄色印”にそれぞれ走っていった。


「オマエハ、ポルファスカ?」


デススペクターが、不気味な低い声で言葉を発した。

その声を聞いたジーニャは、不機嫌そうに銀色に輝く髪を手でかき上げた。


「気持ち悪い声で、あちきに声を掛けんといてくれんさね。」


「ポルファスカ?チガウノカ?」


「だ・か・ら、うっせえって、言ってんだよっ!!」


ジーニャが杖の先から光魔法を飛ばす。

しかし、デススペクターは闇魔法でそれを相殺して霧散させた。


****************


《ポルファス王国 西部 ヤークション》


その頃。

ポルファス王国の西部にある城郭都市ヤークションでは、慌ただしく人々が動いていた。


領主であるフクダン伯爵は、屋敷から外に出て忙しく指示を出している。

ワクニ村からこちら向かっている生存者を一時保護する為、キャンプの設置を直接指示していたのであった。


そして伯爵夫人は、屋敷の使用人たちと共に炊き出しに取り掛かっている。


誰も人がいなくなったフクダン伯爵の屋敷では、複数の影が隠れるようにひっそりと動いていた。

それは、副官マルカーの子飼いの部下と他数名である。


子飼いの部下は箱を持っており、こっそりと慎重に執務室に入ると、書棚の奥にそれを隠した。

その箱の中にある物。

それは、元勇者シモンの頭蓋骨である。


「全く、あのクソ男爵には困ったもんだ。」


子飼いの部下は呟いた。

いつも尻ぬぐいの役目は自分である。


あの無能な“嘘つきマルカー”が、中央で権力を持つシーラオス侯爵の実弟でなければ、とうの前に見捨てていたであろう。


「もう、用は済んだ。行くぞ。」


一仕事終えて気が緩んだ子飼いの部下たちは、この場をさっさと立ち去ろうとした。


その時。

男の子に声を掛けられた。


「おじさん達は、働かなくて良いの? みんな忙しそうだよ?」


それは、フクダンの息子である。

執務室の扉を開けっ放しにしていたことに、子飼いの部下たちは今更ながらに気付いた。


「みんな忙しそうだよ?」

「おやおや、これはこれは。当然、我々も忙しく働いておりまするぞ。」


子飼いの部下は、何とかこの場を誤魔化そうとする。


「そこに隠したのは何?」

「ちっ。」


子飼いの部下は舌打ちをした。

そして、扉を閉めておかなかったことを悔やむ。


「何を隠したの?」


そう言って、フクダンの息子は執務室に入ってきた。

すぐさま、子飼いの部下はフクダンの息子を容赦なく蹴り飛ばした。


蹴り飛ばされたフクダンの息子は、壁に強く頭を打って気絶した。


「大きな布を探せ。それに包んでとにかく攫う!」


子飼いの部下と他数名は、執務室の中にあった大きな布でフクダンの息子の身体を包み込む。

そして、慌てて屋敷を出ていったのであった。


屋敷の中には誰もいない。

その一団が屋敷から出ていった姿を見かけたのは、誰一人いなかった。


****************


《ポルファス王国 西部 ヤークション領 マリブ村》


マリブ村に展開は戻る。


静かに対峙するジーニャとデススペクターであったが、双方が同時に動き出した。


デススペクターが大きな鎌を揺らす。

ジーニャは杖に魔力を込めた。


「ギュエヲォォォォォォ!」


デススペクターの麻痺の叫びが響き渡る。


「だから、うっせえんだよ!」


ジーニャは杖を天にかざした。


放射光弾ラディエーション!」


ジーニャの杖からは、光が放射線状に放たれた。


その光をデススペクターが鎌で切り裂こうとする。

しかし、その鎌は光の威力に負けて砕け散り、デススペクターの胴体は真っ二つとなった。


デススペクターが、歪んで幾重にも重なって見える身体を苦しそうによじる。

すると、真っ二つに分かれた身体は、“2体のデススペクター”へと姿を変えていった。


「ちっ。ほんと、キモイさね。」


2体のデススペクターが闇属性の魔法を同時に放つ。

それを躱したジーニャ。


「シモンサマニ、イケニエヲ。シモンサマニ、イケニエヲ。」

「シモンサマニ、イケニエヲ。シモンサマニ、イケニエヲ。」


2体となったデススペクターが、ぶつぶつと低く言葉を発している。


「シモン?それは誰さね。」


一方のウォルスは、敵の死の騎士デスナイトを片っ端から片付けていた。


ウォルスには、ジーニャのように一撃で敵を粉砕できるような力はない。

しかし、タンクとして防御に特化したステータスであるとはいえ、死の騎士デスナイト如きは彼の敵ではなかった。


エレンは、MAPマップで確認した“黄色印”に走りまわり、息のある村人に回復魔法をかけて助けていた。


生存者は僅かであり、亡骸となった村人の方があちらこちらに転がっている。

しかし、エレンには死者を蘇生する力などない。


そもそも“死者を生き返らせる”という方法はないのだ。

あるとすれば、オリオンのように“死者に力を与えて使役する”ことくらいである。


しかし、それは“亡者”であり、“蘇生”ではない。


エレンは、今にも倒れ込みそうな“赤く長い髪の女性”を見つけた。

急いで駆け付ける。


左腕は斬られて失っているようだ。

その左腕だけなく、身体のあちらこちらにも深手を負っている。

そして出血があまりに酷い。


「あ・・・貴女は・・・?」


赤く長い髪の女性は、今にも事切れそうな、とてもか細い声で聞いてきた。


「いまは喋らないで。」


エレンはそう言うと、すぐに“回復”と“状態欠損蘇生”を施した。

危ないところではあったが、何とか間に合った。


「む、村の・・みんなを・・・村を・・・。」

「大丈夫、任せて。」


エレンのその言葉を聞くと、赤く長い髪の女性は意識を失った。


その目元からは涙が流れ落ちており、頬を伝って赤く長い髪を濡らす。

エレンはその涙を指で拭ってあげると立ち上がり、また別の“黄色印”に向かって走りだした。


「シモンサマニ、イケニエヲ。シモンサマニ、イケニエヲ。」

「シモンサマニ、イケニエヲ。シモンサマニ、イケニエヲ。」


2体のデススペクターは、まだぶつぶつと低く言葉を発している。


「もういいさね!これで終わりよっ!!」


ジーニャはその目を大きく見開くと、渾身の魔力を杖に込めた。


「大地を穿つセレスティアルレイ!!」


2体のデススペクターの頭上に“大きな光の環”が出現する。

デススペクターがそれを見上げたその時、その大きな光の環から大量の光が降り注いだ。


「キョエワォォォォォォ!」」

「キョエワォォォォォォ!」」


2体のデススペクターは、その逃げ場のない幾本もの光にその身を打たれた。

そして、断末魔の声を上げる。


「うっさい。」


ジーニャは左手の甲でヒラヒラと振り払った。


「オォォォゥ・・・・」

「オォォォゥ・・・・」


しばらく抵抗した2体のデススペクターであったが、その断末魔の声が途切れると同時に霧散していった。

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