第1章 第25話 どうやら葉っぱが乗り物らしい
- 秘宝の世界 -
僕は、この世界で目にする全てが新鮮で感動していた。
そして今は、快適なドライブを満喫している。
乗り物は“魔法の絨毯”ならぬ“魔法の葉っぱ”だ。
僕ら4人が乗ってもスペースが余っているこの大きな葉っぱは、転移した廃屋から外に出たところに生えていた巨大な花の葉っぱである。
ミアに言われて、僕とゼフェルが短い剣を使って、必死に切り取ったのだった。
「なかなか、運転うまいじゃん!」
ミアが僕の頭の上で言った。
「角を曲がる時がちょっと難しいかな。でも、そんなにスピードが速くないから簡単。」
魔法の葉っぱは、ちょっとだけ宙に浮いた状態で走っている。
その早さは、僕が走るのと同じか少し早いくらいだ。
僕らと同じように、魔法の葉っぱに乗った若い男女とすれ違った。
町のあちこちからは、JAZZに似たような曲が聞こえてくる。
この“古き良きアメ●カ”のような雰囲気の中をドライブするのは最高の気分だ。
「そういえば。これ、運転免許とかいらないの?」
「ただの葉っぱに乗るのに運転免許なんてあるわけないじゃん。」
「葉っぱだから、枯れたら動かなくなるでやんス。」
「何でこの葉っぱは、浮くし走るのかな?」
「浮くし。走るからよ。」
ミアに聞いた僕が馬鹿だった。
魔法の葉っぱに乗った人の姿が、あちらこちらで見られるようになってきた。
小さな子供だけで乗っている姿も見られる。
人や建物が徐々に増えてきている。
どうやらこの町の中心部にある“導きの迷宮”に近づいているらしい。
「ミライとぜー坊の仕事は、迷宮の1層にある灯石を探すことよね。」
「そうだね。それぞれ5個以上は持って帰らないと。」
「まあ。迷宮の1層だったら、MAPを見ながら“ちょちょいのちょい”よ。」
「モンスターが近づいて来ても、MAPで確認しておけばOKでやんス。」
「それで、そのモンスターは強くはないんだよね?」
「1層ならほとんどモンスターは出ないし、すごく弱いでやんス。」
僕はちょっと安心した。
「今回は2層に上がることはないでやんスが、上に登るほど強くなっていくでやんス。」
「MAPって、2階以上を見ることできたっけ?」
「“フロア切り替え”があるでしょ。」
僕はMAPを確認した。
これか。
確かに階層の切り替えが出来るようだ。
「でも、MAPは、地下の様子を見ることはできないわ。」
「うん。そうみたいだね。」
仮免堕ちに襲われた昨日の夜、ミアとポランを救護室に連れて行ったことを思い出した。
あの時、地下にあるエレンの部屋はMAPには表示されていなかったのである。
「導きの迷宮は、云わばダンジョンでもあるのよ。だから、地下も当然あるわ。」
「地下に入ったら、自分でマッピングをしないといけないでやんス。」
「じゃあ、地下にいたら、モンスターが襲ってくることも察知できないってこと?」
「そうよ。」
「じゃあ。地下で迷子になったら危険だね。」
「そうよ。だから、2人とも1層で灯石を見つけたら、すぐに帰るわよ。OK?」
「はいはい。」「はいはい。」
僕とゼフェルは、同じタイミングで同じ返事の仕方をしたので、顔を見合わせた。
ゼフェルに少し笑顔が見えた。
そして、ついに導きの迷宮の入口前に到着した。
快適なドライブが終わってしまうのは、少し寂しい感じがする。
僕らが魔法の葉っぱから降りると、3人の若者男子が僕らに近づいてきた。
「君たち、これ、もう乗らない?」
「はい。」
「おっ!これ、新緑じゃん!ラッキー!」
そう喜んだ若者男子たちは、僕らが乗ってきた魔法の葉っぱに乗って行ってしまった。
どうやら魔法の葉っぱは、乗り捨てで誰がどれを乗っても良いようだ。
僕は、なんか自分の愛車が盗まれた気分になった。
「諦めなさい。所詮は“ただの葉っぱ”よ。」
ミアが頭の上で、僕を宥めてくれた。
「あれ? そういえば、何で僕、いま普通にあの人たちと会話できたのかな?」
「は? 今頃気がついたの?」
「もちろん、創造神さまの恩恵でやんス。」
「だって、僕が見習いになって恩恵を受ける前から、ミアとポランとも会話出来てたし。」
「それは、私とポランが先に恩恵を与えられてるからよ。」
なるほど。
そりゃそうか。
僕の横では、僕らの会話を聞いていたゼフェルが、また少し笑っていた。
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その頃。
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション》
空は夕暮れが訪れようとしていた。
ポルファス王国西部の都市ヤークションでは、死を纏う者に関する報告を聞いた領主のフクダン伯爵が、執務室で各方面に忙しく必要な指示を出している真っ最中である。
【ヤークション領兵力】
■私兵騎士隊3500、王国騎士軍団常駐隊1000
【指示内容】
■先遣隊として、マリブ村に向かったミズナの下に400騎の私兵騎士隊を増援で向かわせる。
その増援はミズナと合流した後、隣国調査から領内西方の巡回及び警護に切り替える。
■ワクニ村の生存者の護送に常駐隊長のマトバン率いる王国騎士常駐隊500騎を向かわせる。
■私兵騎士隊1500騎を各500騎ずつ、東南北に分けて領内各地の巡回に向かわせる。
■私兵騎士隊1500騎を3交代制で城壁警護の任に配置する。
■王国騎士常駐隊500騎をヤークション内の巡回及び警護として配置する。
■ヤークション内に難民の一時保護用キャンプを設立する。
■ヤークション内の夜間外出は禁止とする。
ふぅと、溜息をつくフクダン。
このような時に限って、副官のマルカーは体調不良が理由で自分の屋敷に戻っていった。
マルカーは騎士との折り合いが良くない。
中央には、副官を代えてもらうように願い出たいと常々思ってはいる。
しかし、そのマルカーは、中央で権力を持つ“シーラオス侯爵”の実弟である。
「嘆いてもしかたない・・・か。」
また溜息をつくフクダン。
そこに元気な男の子の声が聞こえてきた。
執務室に入ってきたのは、伯爵夫人と息子である。
その息子がフクダンに駆け寄ってきた。
「パパ。お仕事たいへんなの?」
フクダンの息子は、遅くに授かったことでまだ幼い。
目に入れても痛くないほどの可愛がりようで、たくさんの愛情を注いでいる。
「貴方、何やら物々しいような感じですが。」
「うむ。どうも危険な輩が領内にいるようでな。ワクニ村が襲われた。」
「村人は無事だったのですか?」
「相当な被害が出ている。いま、ここに王国騎士が保護した村人が向かってきておる。」
「保護キャンプは、もう設置できたのですか?」
「いま指示を出したところだ。」
「それでは、私はその炊き出しの準備を手伝いに行って参りますわ。」
「すまんな。ありがとう。」
「あら?貴方が御礼を言うなんて、まあ珍しい。」
伯爵夫人はそう言ってほほ笑むと、まだフクダンと一緒におりたがる息子を連れて、執務室を後にして行った。
その姿を見送ったフクダンが気合を入れ直す。
副官が無能であっても、民には何ら関係のないことである。
すぐに使用人を呼ぶと、炊き出しの準備を進めるよう指示を出すのであった。
しかし。
フクダンは、あまりの忙しさに大事なことを1つ失念していた。
死を纏う者の出現とワクニ村が襲われたことについて、王宮に使い鳩を飛ばして報告すことを失念していたのであった。
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一方、その頃。
ミズナと私兵騎士隊100名は、マリブ村に到着した。
私兵騎士隊が、村のすぐ近くで野営地を整えるべくキャンプを張る準備を進めていく。
ミズナは数人の私兵騎士共に村に入り、マリブ村の村長と会っていた。
「お会いするのは、ほんにお久しぶりですのぅ。」
「村長もお元気そうで。どう?村で困っていることはない?」
「お陰様で。伯爵様とミズナ様のお助けにより、水害も心配がなくなりましたわぃ。」
数年前に大雨が続いた年があった。
このマリブ村の近にある川が氾濫を起して、村が水没したことがあったのである。
その時、村人の救助と治水工事を指揮したのが、このミズナであった。
「しばらくの間、村の外を野営地にさせてもらっても良いかしら?」
「どうぞどうぞ。後で、村から差入れをさせてもらいますぞ。」
「ありがとう。しばらく私たちはここで待機となるから、何か村のお手伝いをさせてもらうわ。」
「そりゃ助かりますわぃ。」
ミズナの後ろでは、私兵騎士たちがマッスルポーズを取っている。
村長の視線が自分の後ろにあることに気付いたミズナは、後ろを振り向いた。
そして、“それ”を見ると呆れ顔で笑った。
「はいはい。頼りにしてるわよ。」
「イエッサー!」
私兵騎士たちは嬉しそうだ。
その時。
外から敵襲を知らせる“半鐘”の音が聞こえた。
それを聞いたミズナは、慌てて村長の家から外に飛び出す。
どうやら野営地が、何らかの襲撃を受けているようだ。
マリブ村に到着した際、真っ先に周辺に異常がないかは調べている。
当然のこと、近くに敵となる勢力など見当たらなかった。
「村長!村の皆を避難させてっ!」
ミズナはそう叫ぶと野営地に向かって走った。




