第1章 第24話 どうやらこれが秘宝の世界らしい
- 秘宝の世界 -
転移の間で巨大な八芒星に飲み込まれた僕ら4人は、一瞬のうちに“秘宝の世界”に転移していた。
どうやらここは、街外れにある廃屋の中のようである。
「2人に“帰還の印綬”について、説明をしておくわ。」
ミアが僕とゼフェルに言った。
「MAPの右上に八芒星のマークがあるのが分かる?」
「うん。」
「はい。」
「わたし達は、いま“光の糸”で繋がれているわ。」
「MAPの中にある“八芒星”と、4人を繋いでいる“光の糸”のことを“帰還の印綬”と呼ぶでやんス。」
「ふむふむ。」
「はい。」
「そのMAPの八芒星を選択したら、帰還の間に戻ることができるわ。」
「簡単に説明すると、こういうことでやんス。」
●MAPの八芒星 = 帰還する為の“印”
●光の糸 = 帰還の間に導かれる“綬”
「光の糸が無かったら、空虚の空間に転移してしまうでやんス。」
「僕が最初に空虚の空間に入ったのは、光の糸に繋がれて無かったからだね?」
「そうよ。あの時のように誰かを巻き込んだ場合は、すぐであれば助けだせるわ。」
「あんまり時間がかかると、空虚の空間との“縁”が切れてしまうでやんス。」
「??」
「・・・・・。」
「まあ、とにかく! 私たちは光の糸で繋がっているから“印”を使えば戻れるってこと!」
「この光の糸が切れることってあるの?」
「あるわ。“印”を使用したのに中途半端に中止したら、“綬”が切れちゃうから注意が必要よ!OK?」
「OK」
「はい。」
「さて、オイラはこの姿だと目立つから、ちょっと姿を変えるでやんス。」
ポランは黒くて真ん丸な水の塊に変化すると、その形を黒い犬に変化させた。
犬に形を変えても“大きな黒ぶちメガネ”はきっちりと着けるようだ。
「ミアは大丈夫なの?」
「わたしは大丈夫よ。“透過”すれば姿を消せるもん。」
「ミアの“透過”は、本来はそうやって使うものでやんス。壁抜け用ではないでやんス。」
「うるさいわね! 私はミライの頭の上にいるわ。それじゃあ行くわよっ!レッツゴー!」
僕たちは廃屋から外に出た。
そして、この秘宝の世界の様子を見て、僕は一目で感動してしまった。
“古き良きアメ●カ”といった雰囲気である。
建物はカラフルに塗られた木造建築で、建物は3階までの高さしかない。
看板のデザインはレトロであり、所々でJAZZに似た曲が流れている。
その町を囲むように巨大な樹木がそびえ立っている。
立ち並んでいるという表現が適しているだろうか。
そして、その樹木の向こうには・・・“巨人”の姿が見えた。
「でっか!」
巨人=巨漢系の大きさは、僕の想像以上であった。
もし、こっちに歩いてきたとしたら、この町は一瞬で踏みつぶされて壊滅するんじゃないかと思う。
僕は泡を食ってしまった。
「ちょっとミライ!急ぐわよっ!」
「夜ご飯までには戻りたいでやんス。」
僕の頭の上にいる“姿が見えないミア”が言い、僕の足元にいる“黒い犬もどき”が喋った。
「はいはい。ぜー君、行こっか。」
「はいはい。」
うん?僕の言い方を真似したのかな?
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その頃。
- 魔素の世界 -
ウォルス、ジーニャ、エレンの3人は、ポルファス王国の西部にある都市ヤークションに向かって、馬車に乗って移動していた。
その3人が乗る馬車の現在地は、まだ滅亡したモルカット王国の領地内である。
「もうお尻が痛いさね。」
「ふふっ。あと2時間くらいはかかるわね。」
ジーニャはティータイムにも飽きて、馬車の窓を開けて外を眺めた。
「ジーニャ。暇なら御者を代わってくれてもよいぞい。」
「お断りさね。」
雨はすでに止んでおり、遠くには虹が見えている。
その時、ウォルスが馬を御すと急に止まった。
その理由を言う必要もなく、すぐにジーニャとエレンも察知していた。
「“赤印”が急に湧くなんて、オリオンの仕業としか思えんさね。」
ジーニャはそう呟くと、ゆっくりと馬車の中から外に出た。
エレンがその後に続いて馬車を降りる。
ウォルスは背中に背負っていた大きな盾を構えた。
3人が乗った馬車は、“不死系”の敵モンスターに囲われていたのであった。
MAPには地下の情報は表示されない。
その為、この目の前の敵は、地面から這い出てきたことに間違いがなかった。
「まるで、ここを通ることを予測していたようね。」
敵モンスターを見回すと、エレンは言った。
「待ち伏せとして、地下に潜ませておくとはのう。」
「ふん。でも、死の騎士ばっかりの雑魚しかおらんさね。」
ジーニャは鼻で笑うと、杖を両手で持って天にかざす。
「時間の無駄さね。あちきが一瞬で終わらせるから、2人は馬車に戻るさね。」
ジーニャが天にかざした杖が輝きを増していく。
「浄化の矢!」
ジーニャはその輝く杖から、四方八方に光を解き放った。
その光は3人の回りを取り囲む死の騎士の身体を残らず穿つ。
「こりゃ、ワシらの出番はないのう。」
「ふふっ。さすがジーニャね。」
死の騎士は、1体残らず霧散していった。
ジーニャは銀髪を手でなびかせると馬車に戻り、再び退屈なティータイムを続けるのであった。
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《ポルファス王国 西部 ヤークション》
一方、その頃。
早馬で到着したルバーツは、常駐隊長のマトバンに案内されて、領主フクダン伯爵の屋敷に向かって馬で駆けていた。
「その死を纏う者が、モルカットを滅ぼしたことに間違いはないのか?」
マトバンがルバーツに尋ねた。
「はい。間違いございません。我らも多勢に無勢で劣勢であり、オルタス軍団長がおられたにも係らず、かなりの苦戦を強いられておりました。」
「むう。死人使いが存在するとは、想像以上に厄介じゃのう。」
フクダンの屋敷に到着する。
マトバンが、急ぎの要件であると門番に断りを入れ、馬に乗ったまま屋敷の庭を駆け抜けていった。
玄関の前には、屋敷の使用人が出迎えに出てきている姿が見えた。
「至急、伯爵を。事態は急を要する。」
マトバンからの言伝を受けた使用人は、急ぎ足で屋敷の中に戻っていった。
マトバンとルバーツ、それとルバーツの部下2人は客間に通される。
そこには先客があった。
副官のマルカーがソファに深々と座っていたのである。
その後ろには、マルカーの子飼いの部下が立っている。
「ちっ。」
マトバンは小さく舌打ちをした。
「これは常駐隊長殿、そんなに急がれて、一体どうなされたのかな?」
マルカーは足を組み直すと、鼻につく言い方でマトバンに言った。
「伯爵が来られてから、話をさせて頂くと致しまする。」
「ほう。それは、副官ごときには報告をするに値しないということですかな?」
“嘘つきマルカー”の嫌味に慣れているマトバンは、それを完全に無視していた。
そこにフクダン伯爵が客間に入ってくる。
フクダンは、マルカーとマトバンの間にあるいつも通りの壁を感じ取った。
心の内で呆れを感じながらソファに座ると、一行にも座るように促した。
「王国騎士殿、待たせて済まなかった。私が領主のフクダンである。」
ルバーツは、モルカットで見た小さな町の惨状とワクニ村で遭遇した死を纏う者について、端的に報告をした。
そして、別部隊がワクニ村の生存者を護送している最中であり、後にここに到着することを伝える。
「そうか。 まずは、ワクニ村の村人を保護してくれたこと、誠に感謝する。」
フクダンは礼を告げると、使用人を呼んで生存者の迎え入れを準備するよう指示した。
「それで、その死を纏う者なる死人使いは、“シモン”と名乗ったのだな?」
「左様にございます。」
シモン・・・その名前にフクダンは聞き覚えが無い。
ルバーツ曰く、かつての勇者の名で、後に反逆を企んで処刑された者の名であるとのことだ。
フクダンとマトバンは、大事なことに気付いた。
「ミズナをマリブ村に行かせておったな。供が100騎だけでは危険かもしれん。」
「もう恐らくは、マリブ村に着いた頃でしょう。急ぎ早馬を出して呼び戻すべきかと存じます。」
「うむ。しかし、ワクニ村のようにマリブ村が襲われるかもしれん。」
「それでは、増援を向かわしますか?」
「そうだな・・・マルカーは如何思う?」
普段なら求めずとも口を開いてくるマルカーが、今日はやけに大人しいことにフクダンは気になった。
そのマルカーは、青ざめた顔で額に汗をかいているようだ。
「いえいえ。 副官の私が意見することは、何もございませぬ。」
普段のマルカーらしからぬ発言を聞いたフクダンとマトバンは首を傾げた。
「よし。至急、マリブ村には増援を送ることにする。」
そう言うと、フクダンは立ち上がった。
そこに、私兵騎士隊の隊長2人が駆け付けてきた。
それと入れ替わるように、青ざめた顔をしたマルカーはフクダンの屋敷を後にした。
そして、自分の屋敷に戻る馬車の中で、ずっと爪を噛んでいるのであった。
「どうなされたのですか? 先程からご様子がおかしいように思えます。」
マルカーの様子に疑問を感じていた子飼いの部下は、意を決して尋ねてみた。
「死人使いの名は、シモンと言っておったな。」
「はい。それが何か?」
「私がまだ幼い頃だ。魔王を討伐した元勇者シモンを手に掛けたのは、私の父親であった。」
「先代のシーラオス閣下にございますか?」
「その通り。」
しばらくの沈黙が流れた。
「実はな。そのシモンの首、いや頭蓋骨は私が持っておる。」
「頭蓋骨をですか? なぜまた。」
「子供心に優越感があっての。元勇者の頭蓋骨を足蹴にして遊んでおったのだ。」
「それは今どこに?」
「屋敷にある。宝飾を混ぜてオブジェにしてな・・・。」
子飼いの部下は、さすがにそれは趣味が悪いだろうと感じた。
しかし、そんなことを正直に言うことはできない。
「死人使い・・・シモンは、自分の頭蓋骨を取り戻そうとしておるのやもしれん。」
沈黙が流れる。
その沈黙に耐えかねた子飼いの部下は提案した。
「それであれば、その頭蓋骨をこっそりフクダン伯爵の屋敷に忍ばせては如何でしょう?」
「ほう。」
マルカーの眼鏡が怪しく光り、いつもの不敵な顔が戻る。
「そ奴が自分の頭蓋骨を取り戻そうとさ迷うならば、きっとフクダン伯爵の屋敷を襲いましょうぞ。」
「ククク。なるほど、それは良い。素晴らしい案だ・・・ククク。」
マルカーの不敵な笑いが、馬車の中に響くのであった。




