第1章 第23話 どうやら悪人は血が繋がるらしい
転移の間に僕ら4人は入った。
床一面に“巨大な八芒星”が描かれている。
ミアとポランは、どこに転移するのが良いかを話し合っていた。
「ぜー君はここに来たことある?」
「はじめてです。」
「初仕事って、なんか緊張しない?」
「緊張とは何ですか?」
うん。
ゼフェルに聞いた僕が馬鹿だった。
「よし。決まったわ!」
ミアが宙を一回転して、僕とゼフェルの目の前でポーズを決める。
「導きの迷宮に近くて、人目につかない場所に転移するでやんス。」
「ミライとぜー坊には、秘宝の世界に行く前に1つ注意しておくわよ!」
「何?」
「はい。」
「大賢者から、秘宝の世界で主となる系統種族が何か教えてもらったわよね?」
「うん。確か“巨漢系”だったかな?」
「そうよ。秘宝の世界では、所長みたいなビッグサイズが“わんさか”いるわ。」
「巨漢系は普段はおおらかな性格で、オイラ達のことなんか目に入ってないでやんス。」
「でも、怒ると最強よ。だから、絶対に怒らせちゃダメ。」
「おぉ・・う。気をつけるよ。」
「はい。」
「じゃあ行くわよ。」
ミアはそう言うと、どうやらMAPを見ながら何かの設定をしている。
すると、僕ら4人の身体が“光の糸”で繋がれた。
「準備はOK?」
「うん。」
「はい。」
「飲み込まれるでやんス。」
「??」
飲み込まれる?
と、僕が不思議に思った瞬間。
僕らは巨大な八芒星に飲み込まれた。
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その頃。
- 魔素の世界 -
すでに雨は上がり、空には晴れ間がのぞきはじめている。
若き女性騎士ミズナとフクダン伯爵の私兵騎士隊100名は、城郭都市ヤークションを出てマリブ村を目指していた。
「ミズナ様、虹が見えますぞ。」
「あら。虹を見たの久しぶりだわ。」
夕刻に差し掛かろうかという時間であるが、外はまだまだ明るい。
マリブ村までは急がずとも1時間もあれば到着する。
そこで一旦待機を命じられているからには、今日は間違いなく野営の準備が必要になるであろう。
「それにしても、斥候が戻って来なかったのは、どういうことなのでしょうな?」
「そうね。モルカットに何かあったのか。それともモルカットが何か企んでいるのかしら。」
「すると、モルカットが攻め込んでくる可能性がありますな。」
「そうね。だから、のんびりするのは終わり。みんな!気を引き締めていくわよっ!」
「イエッサー!」「イエッサー!」「イエッサー!」
そう元気よく返事をした私兵騎士隊は、全員が満面の笑顔である。
若き女性騎士ミズナは、その剣の実力が認められているだけでなく、部下たちからの信頼も厚い。
そして、私兵騎士隊の中では“アイドル的存在”であった。
ミズナは、どうも気が緩んでいるように見える私兵騎士隊の面々を見回した。
自分には統率力が欠けている気がする。
ふぅと溜息をつくと、ミズナはその赤く長い髪をなびかせて、馬を駆けるのであった。
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《ポルファス王国 西部 城郭都市ヤークション》
丁度、その頃。
ヤークションには早馬が到着していた。
その早馬は、ワクニ村で“死を纏う者”と戦った王国騎士たちである。
「至急!フクダン伯爵にお目通し願いたい!」
ヤークションは城郭都市であり、都市のまわりは高い城壁で囲まれている。
その町の出入口には常に警護の兵がおり、門はいまは堅く閉ざされている。
領主フクダンの命により、都市の防備に厳戒態勢が敷かれているからであった。
警備にあたっていた私兵騎士は、早馬で駆けてきた3人の男を城壁から覗き込んで確認した。
「貴殿!王国騎士とお見受けするが、何者かっ!」
「我は、王国騎士軍団、オルタス軍団長の補佐“ルバーツ”と申すっ!」
そのルバーツと名乗った王国騎士は、馬を御しながら城壁の上にいる私兵騎士を見上げた。
「ん? ルバーツか? 久しいのう。」
そう言いながら城壁の上に姿を現したのは、王国騎士軍団からこのヤークションに派遣されている常駐隊の隊長を任されている老齢の騎士であった。
「“マトバン”殿!お久ぶりでございます!しかし、いまは火急の報告がある故、なにとぞっ!」
マトバンと呼ばれた常駐隊長は、私兵騎士に開門するよう合図を出した。
「さてさて、これから鬼が出るか蛇が出るのか・・・。」
マトバンは呟いた。
そして、顎から長く伸びた白髪交じりの髭を触りながら、城壁を降りるのであった。
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《ポルファス王国 南部》
一方、その頃。
ポルファス王国の南部にある山の麓にある平原では、2万の大軍が陣を敷いていた。
ここは、カモット辺境伯が治める領地である。
その2万の大軍は、ポルファス王国のものではない。
「まさか“イバラン”と“マイラン”が、連合を組んで攻め入ってくるとはのう。」
南部領主のカモットは、山の中腹にある丘の上から、平原に陣を敷いた敵の大軍を見下ろしていた。
イバランとマイランとは、ポルファス王国南部で隣接している2つの国の名前である。
「父上、領内東方の町と村の幾つかが、どうやら敵に占拠されたようです。」
カモットの息子が駆け寄ってきた。
「眼下には敵2万、各所にも敵の存在有りとはのう。」
「あまりにも手際が良すぎます。前々から、戦の準備を整えていたとしか思えませんね。」
「全くじゃ。それらしき情報はなかったのにのう。」
カモットが治める南部は、私兵騎士隊が5千、王国騎士軍団の常駐隊が2千、合計で7千の兵力を有している。
しかし、眼下の敵2万とは、明らかな兵力差であった。
「王宮から援軍が来るとしても、恐らく3日はかかるかのう。」
「敵にこの山を越えられると、些か問題があると思われます。」
カモットが治める領内の拠点都市は、防備が薄く籠城には向いていない。
拠点都市を囲むこの山々が、天然の要塞としての機能を果たしている面がある。
「もう少し雨が降り続いてくれたら、敵の行軍も少しは遅れたであろうにのう。」
「父上、天に嘆いても仕方ありません。早急に策を練りましょう。」
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《ポルファス王国 王都近郊》
同じく、その頃。
シーラオス侯爵を“援軍総指揮官”とする3万を超えた軍は、ポルファス王国の王都から南部に向かって出立していた。
先陣を切るのは、シーラオスの私兵騎士と他の貴族の私兵騎士の計1万。
それに続くのが、王国騎士軍団2万と魔導士が100という兵力である。
急ぎの出立であったことにより、補給支援部隊の準備はまだ整っていなかった。
後を追ってくる手筈となっている。
援軍に向かう一行の中で、ひと際目立っている豪華な馬車。
この中で、シーラオスと一部の貴族が寛いでいた。
「閣下、それにしても“絶好の好機”が訪れましたな。」
その豪華な馬車の中で、1人の貴族がシーラオスに笑顔を向けると言った。
「ククク。イバランとマイランを焚きつけておいた甲斐があったというものだ。」
「しかも、あの憎きオルタスが不在の時とは、閣下は天運をお持ちですな。」
「ククク。よもやこのタイミングで奴がおらんとは、さすがに思いもよらんかったわい。」
ポルファス王国の南部で隣接している2つの国。
それが、イバラン国とマイラン国である。
その2つの国が連合を組んで攻め入ってきたのは、このシーラオスが陰で仕組んでいたものであった。
シーラオスは、その私兵に多くの“暗殺部隊”を持っている。
ここ何年かは暗殺を命じる用事が無かった為、諜報を主として他国に送り込んでいた。
その暗殺部隊は、かつての勇者パーティーを追い詰めた程の実力を持っており、裏工作にも優れている。
シーラオスが仕向けた裏工作員は、“偽情報”を前々からイバランとマイランの国内に流していた。
それは、ポルファス王国が隣国を占領する為の準備を進めているという情報であった。
その偽情報を受けた2つの国は、ポルファス王国との戦に備えた準備を事前に整えていた。
そこで新たに入った情報が、モルカット王国に異変ありとの知らせである。
その知らせを聞いた2つの国は、ポルファス王国がモルカットを占拠したものと判断した。
次は自国が危ういと鬼気迫った両国は、連合を組んでポルファス王国の南部に攻め入ったのであった。
その全てが、シーラオスの手のひらで動いているのである。
「ククク。カモットは終わりだな。」
シーラオスは、イバランとマイランの連合軍が、どの程度の兵力になるかも把握していた。
両軍足して、おおよそ2万の兵力。
南部が有する兵力の倍以上である。
この援軍が到着する頃には、カモット親子はすでにこの世を去っているであろう。
そこに自分が指揮する援軍が到着し、敵連合軍を見事に打ち破るという算段である。
「これで、閣下が南部を掌中にされて、弟君が西部を手に入れた日には、笑いが止まりませんな。」
「ククク。しかし、あの“愚弟”では、フクダンから奪うのは難しいであろう。」
シーラオスには歳の離れた弟がいる。
その弟の名は“マルカー”という。
西部ヤークションの副官“嘘つきマルカー”である。
マルカーは、家督を継げる立場にないことから、若い時に男爵家に養子として出されていた。
中央で実権を握っているシーラオスとは、立場的に天と地ほどの差があるものの実の兄弟である。
陰では何かと連携しているのであった。
貴族たちの含み笑いが豪華な馬車の中で広がる。
その少し後方にいる王国騎士軍団は規律正しく行軍している。
「あのシーラオスが援軍総指揮官とは、どうも気が滅入るな。」
「総指揮官が葬式棺になるかもな。」
「ハハハ。 貴殿、うまいこと言うな。」
「それにしても、ここまで急いで出立するとはな。」
「あの“裏切りシーラオス”のことだ。きっと、オルタス軍団長が戻られる前に出たかったのだろう。」
「俺は“裏切りシーラオス”と“嘘つきマルカー”の兄弟とは、関わりたく無かったよ。」
「まあ。ここにいる全員がそう思っているだろうな。」
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《ポルファス王国 王宮》
王宮にある高い塔。
その塔の上には、年老いた細身で背の高い男が立っていた。
王宮魔導士である。
南部に向かって出立した援軍を塔の上から見送った王宮魔導士は、静かに息を吐くと天を見上げた。
目を瞑る。
そして、何かを思い起こすのであった。




