ネガ・ジュピター
「ぐあっ!」
黒いジュピターの重く、鋭い拳がシオンの鳩尾をえぐる。
──強い!
追撃をなんとか受け流し攻勢をかけようとするが、その動きすらも読まれていたかのようにかわされ、また一撃食らう。
[あいつはジュピターより後発で性能がいいスーツ、さらにギアの力も使ってるみたいだ。普通にやり合って勝ち目はない。]
「わかってる!なら!」
シオンは肩を突き出し体当たりをかける。
「効かねえよイモムシぃ!」
渾身の体当たりは、黒いジュピターの蹴りに弾き返された。
「うぐっ!嘘だろ!?」
「弱い!弱い!弱い!こんなクソ雑魚に!あの人が!フレイムボルトさんが!貴様なんかに!」
激高しながら、黒いジュピターはシオンを殴り続ける。
反撃するどころか、回避も防御も許さないような絶え間ない攻撃。シオンの心に絶望が根を下ろし始めた。
──勝てない。俺じゃ、こいつに。
意識が遠のきはじめる。ここで負けて……死ぬのかもしれない。嫌な死に方だが、それを避ける方法もない。
「……ばれー!」
シオンの耳に届いた誰かの叫び声が、意識を現実に引き戻す。
「ヒーロー!がんばれー!」
今度ははっきり聞こえた。背後から聞こえる、子供の声。
「まけるなー!ヒーロー!頑張れー!」
声を枯らして叫ぶ声援。
──そうだ。俺は。
「うおおおおおお!」
痛む体を捻り、渾身の横蹴りを繰り出す。
「なっ……ぐうっ!」
不意をつかれた黒いジュピターの攻撃が一瞬止まる。
「はあっ!」
横に振り払った拳が、黒いジュピターの顎を捉え、よろめかせる。
「おおお!」
その下がった頭に踵落とし。黒いジュピターは膝をつく。
「ヒーロー!頑張れええええぇ!」
声援が、シオンの心を奮い立たせる。
『フィニッシュムーブ スタンバイ!』
チェンジャーのボタンを押し、黒いジュピターに光る拳を振り抜く。
『バニッシュインパクト!』
黒いジュピターは宙に打ち上げられ、地面にどさりと落ちた。
その変身が解除され、人間の姿に戻る。
「はぁ……はぁ……」
「勝った!ヒーローが勝った!やったー!」
嬉しそうな声が聞こえる。周りから聞こえはじめたまばらな拍手は、やがて大きな拍手に変わった。
「勝った……か。」
シオンは膝をつきそうになるのをこらえ、拳を天に突き上げた。
傍らでは、孔雀の怪人と黒衣の男が未だ戦っている。
若干怪人が優勢か。
どっちに加勢すれば。