開演
「クーッジャッジャッジャ!私は怪人コックピーコック!この商店街を、地獄に変えてやる!」
珍妙な笑い声とともに、孔雀の怪人、コックピーコックは見得を切る。
「そ、そんなこと、させないぞー……」
[声が小さい。やり直し。]視界の端に映るダメ出しの文字。シオンはやけくそで声を上げる。
「そんなことさせないぞぉ!俺は正義のヒーロー!マスクドジュピター!」
[その調子。]
商店街のセンター通り。ぱらぱらとまばらな通行人は、遠巻きに怪人とシオン……マスクドジュピターを眺めている。
スマホを掲げ、動画撮影をしている通行人もいた。
嫌な思い出が少し胸に蘇りかけたが、心の奥に押し止める。
「クーッジャッジャッジャ!来たなマスクドジュピター!この商店街を貴様の墓場にしてやる!」
「墓に入るのはお前だ!とおっ!」
シオンは横蹴りを放つ。
怪人は受け身をとり大袈裟に吹っ飛ばされる。
「くそ……やるなジュピター!今度はこっちの番だ!」
「お前の番は来ない。ここで駆除されるからだ。」
いつの間にか来ていた黒衣の男が杭を構える。
──厄介な奴が来たな。
シオンは小さく舌打ちした。
「増援か!かかってくるがいい!クーッジャッジャッジャ!」
「待て!そいつは……」
警告しかけたシオンに、コックピーコックは目配せする。
[任せとけ、って言ってるみたいだね。]
「ぐっ……」
確かにここでシオン黒衣の男と戦うのは不自然だ。それに奴が危険人物だと明らかになれば、観客の通行人も逃げていくだろう。
ヒーローショーらしく、怪人に任せるのが得策ではある。あるが。
──くそ、こんな時に何もできないなんて。どっちがヒーローかわかりゃしない。
「駆除!」
男が振り払った杭を、ピーコックは踊るような動きでかわす。
「カポエイラ二段を舐めるなよ!クーッジャッジャッジャ!」
傷一つなく、怪人は地を舞う。
地面についた翼を支点にして舞うように、黒衣の男を鋭い蹴りでよろめかせた。
「ぐっ……しぶとい!」
加勢するべきか、いや、どっちに?
悩むシオンに、背後から声が聞こえた。
「よぉ、イモムシ。潰しに来たぜ」と。
振り返った先にたたずむのは、艶のない装甲を纏った漆黒の戦士。腕にシオンのものとよく似た装置をつけている。
よく見ると色と細かな部分以外、シオンのマスクドジュピターと瓜二つだ。
──味方か?いや、そんなはずもないか。
[やべ、あれが解析されちゃったか。まずいね。]
視界の端の文字に、シオンは僅かな焦りを感じる。
「あれって?」
[その話は後で。来るよ。]
シオンが反応するより早く、黒いジュピターはシオンに殴りかかった。




