閉幕
シオンはフラフラと黒のジュピターだった男に近寄り、傍らに転がったチェンジャーを拾い上げた。
「貰っとくぞ。」
「ぐっ……」
男は手を伸ばすが、届かない。
「あとでゆっくり話聞かせてもらうから覚悟しとけ。」
その言葉が聞こえたのかどうか、男の手から力が抜ける。気を失ったようだ。
[ついでにあっちもなんとかしないとね。]とサテライトからのメッセージが視界の端に映る。
「ピーコックと杭マンか。なんとかするって、どうやって?」
[ヒーローショーらしい幕引きで。]
『フィニッシュムーブ スタンバイ!』
チェンジャーが鳴る。
「あの備長炭みたいなやつをぶちのめせって?」
[違う。怪人……コックピーコックのほうさ。]
「あいつまたヒーローショーやるんだろ?変身できないようにしたらまずくない?」
[問題ないから。さあ。]
促されるままにボタンを押し、ふらふらとよろめきながら戦う二人に近づく。
「クーッジャッジャッジャ!来い、ヒーロー!」
「邪魔立てするのなら、貴様から……何っ?」
どん、と黒衣の男を突き飛ばし、怪人の前に立つ。
「ショーの幕引きだ。大丈夫らしいから信じてくれ。」
囁いたシオンに、怪人はコクリと頷く。
「うおおお!」
『ディスガイズインパクト!』
光り輝く拳が怪人を打つと、怪人は光に包まれ、花火のような美しい火柱となり消滅した。
万雷の拍手が、シオンに降り注ぐ。
「みんな!ありがとう!みんなの応援がある限り!」
[俺はこの街を、世界を守り続ける、と。噛まないようにね。]
視界の端に映される台本の台詞を叫ぶと、拍手は一層大きくなった。
「で、あいつ爆散しちゃったけど大丈夫なの?」
[大丈夫大丈夫。あとで蕎麦屋行けばわかるよ。]
「そっか……さて、偽物ヒーロー。じっくり話聞かせて……あれ?」
さっきまで倒れていたはずの男が、跡形もなく消えている。
[逃げられたね。]
「くそ、何回目だこういうの!」
[次は逃さないようにね。]
「俺に言われましても」
「く……お前も駆除人か?」
黒衣の男が立ち上がり、シオンに尋ねる。
「んなわけ無いだろ。お前は今日は帰っとけ。なんかもう疲れた。」
遠巻きに眺めていた人混みはだんだんと少なくなり、もう数人しかいない。
「ふん……」
男は地面に落ちた杭を拾い、立ち去っていった。
「ヒーロー!かっこよかった!お疲れ様!握手して!」
駆け寄ってきた子供の小さな手を握る。
「すいません、この子が……」
母親らしい若い女性が、申し訳なさそうにシオンにぺこぺこと頭を下げた。
「いえ……」
シオンも軽く会釈し、子供と目線を合わせるために膝をついた。
「ありがとう。君の応援のおかげで勝てた」
子供はにっこりと笑い、親指を立てた。
「ヒーロー!また会おうね!」
母親に手を引かれた子供が、大きく手を振る。
シオンは少し照れたように、小さく手を振り返した。
「悪くないもんだな、ヒーローって」
[そうも言ってられなくなるかもしれないけどね。]
さてらいとが不吉なことを言ったが、シオンはそんなに気に留めなかった。
怪人名鑑#10 ネガ・ジュピター
最新鋭のヒーロースーツにハンドルギアを連動させ、既存の怪人やヒーローを遥かに凌ぐカタログスペックを手に入れた。返信者は千疋蒼。
ヴォルクのギアは使用していない。




