ジレンマ
薄暗い建物の中。千疋 蒼は薬くさいベッドの上で目を覚ました。
「くっ……俺は……」
──黒いヒーローの姿になって、負けて、そして……なんでベッドに寝てるんだ。
「おはようヴォルク君。テストしていた試作品を取られ、負けてのこのこ帰ってきた。回収してあげた私にお礼は?」
片隅に座るシルバーマナは不機嫌そうに腕を組む。
彼が目覚めるまでの数時間、ずっとベッドの隅で待っていたらしい。
「俺はまた……あのイモムシに……負けた」
「おーい、無視ですかー。あ、あんまし動かないほうがいいからね。君、今全身ボロボロだから」
「そんなこと……どうでもいい」
起き上がろうとした蒼を、シルバーマナは肩を掴んで止める。
「ストップ。今はゆっくり休みなよ。上への報告はしとくよ」
「俺は……このままじゃ、あの人の敵すら取れない……」
蒼の脳裏に、フレイムボルトの顔が浮かぶ。
「忠犬らしくていいねぇ、美しいねそういうの。大嫌いだけど」
「俺も……あんたのことは大嫌いだ」
「嫌われたもんだね、悲しいなぁ。ま、これ以上ここにいても君の気分を害しそうだし。邪魔者は去るよ。」
シルバーマナは手を振り、病室を出ていった。
「情けねえな……俺は」
蒼は顔を片手で覆い、呟く。
──もっと、強く。強くならなければ。
ポケットの中からギアを取り出し、眺める。
──黒いヒーローになる装置は奪われてしまったが、俺にはまだこれがある。
蒼の心に応えるかのように、ギアはギラリと怪しく輝いた。
「はぁ、なんで私は素直になれないんだろうね」
病室の外、シルバーマナは呟いた。
「仲良くなれたらいいのにな、ヴォルクくんと」
手首を振る。指の間のカードは世界の逆位置。
「わかってるよ、占うまでもない」
カードを束に戻し、シルバーマナはため息をつく。
「飲みにでも誘おうかなー。パワハラとか言われちゃうなーうーん……」
そんなことをぶつぶつ呟きながら廊下で転げ回る。
幹部の威厳もなにもない。
「仕事だから割り切らなきゃいけないのはわかるんだけどなー。お邪魔な炎がいない今がチャンス、なんて言ったらあの子に嫌われちゃう。」
シルバーマナはまたカードを引く。
「見なくてもわかるんだよなー。どうせ。」
世界の逆位置のカードが、ため息にそよそよと揺らいだ。




