人質
空中に浮かびシオンたちにそう言ったのは、雷の怪人となったフレイムボルト。そして──
「ごめんなさい、私……」
フレイムボルトは、タタラを片手で抱え込み拘束していた。
「人質というものは実に便利だ。そうは思わないかね?こうして脅せば、正義の味方ごっこの君たちは、私の言うことを聞かざるを得ない」
「タタラ……くそ……俺がもっとちゃんとしていれば……」
と、ロムルスは歯噛みする。
「いや、お前は頑張ってただろ。悪いのはあいつだ。」
「いや……俺のせいだ」
ロムルスはうなだれたまま言い、空中のフレイムボルトに問いかけた。
「フレイムボルト……!なぜそんなことを、あんたはそんな人じゃなかったはずなのに……」
「はっ、ははははははは。君は純粋だね。人を見る目もなく、少し誠実なふりをしただけですぐに尻尾を振る。君はそうやって、一生誰かに騙されて生きていくがいいよ」
と、フレイムボルトは嘲笑し、言葉を続ける。
「そうだ、彼女を人質に取った目的を、彼女が無事に家に帰りつける方法を教えていなかったね。私としたことが、ついうっかりしていた」
タタラを拘束しているのとは逆側の細く長い左腕が、地面に倒れたままの山羊の怪物を指し示した。
「それを私に引き渡してくれれば、この子の身の安全は保証しよう。」と。
「そいつを連れ帰って、何するつもりだ?」
シオンは問いながら、考える。何か手はないか。おそらくこの山羊の怪物は、フレイムボルトたちにとって何らかの利益を──そして彼を引き渡すことによる不利益をもたらす。なればこそ、彼はわざわざ人質を取っているのだろう。
そして彼も──もとは人間だ。おそらく。蒼を傷つけたとはいえ見捨てるのは心が痛む。
「君が知る必要はない。ただそれを引き渡せばよいのだよ」
「わかった。ただしその子を離してからだ。」
まずは人質の──タタラだったか、彼女の安全を確保してからだ。
その後のことは──なんとかできる限りをやるしかない。
「いいだろう、ほら。」
フレイムボルトはタタラから手を離す──空中で。
「なっ!?」
不意をつかれたシオンは走る。生身で落ちれば確実に死ぬ高度だ。
シオンは跳躍し、タタラを空中で抱きかかえ着地した。
「お前!人としてやっていいことと……あれ?」
フレイムボルトは消えていた。怪物も一緒にだ。
唯一つ、羽の生えた肉塊だけが地面に転がっていた。