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群体

 シオンたちが住む街、伊那星いなぼし町の上空およそ四百キロメートル。そこにそれは存在していた。

ヴォイドの細胞が数兆、数京、いや、もっとか──寄り集まって作られた巨大な塊。

それはヴォイドそのものであり、宇宙を漂う船でもあった。

ヴォイドは全にして個、個にして全。クラゲのように群体が一つの意思のもとに、一つの生物として振る舞う。

時折偵察のため、あるいは「選別」のため小さな個体を生み出すことはあったが、その個体も戻ってこれば再び全体の中の一つとなる。


つまり、数億年の長いヴォイドの歴史──歴史という概念は彼にはなかったが──の中で、今起こっているようなことは一度も無かった。

「選別」をした偵察用個体──シオンたちと戦い、サテライトに倒されたあのヴォイド個体だ──は戻ることはなく、最期に撃ち出したシオンの──人間の遺伝子や思想のデータを宿したカプセルを受け入れた直後から、ヴォイドの群体は変わってしまった。

それを是と捉えるものも、否と捉えるものもいなかった。少なくとも、つい五分前までは。

しかし五分前、突如群体の内部にだだっ広い空洞が形作られ、突如として生み出された、独立した意思を持った個体2つがその空洞に放り込まれた。


「さて、どうしたものだろうかね、兄弟。」

生み出された2つの個体のうちの片方、顔に八つの目だけを持つ紫の肌の怪物──と言うにはいくぶん人型に近い、すらりとした人間の女のような姿だが──が、もう一体の怪物に尋ねる。

尋ねられた方は、尋ねた方よりいくぶんか背が高かった。緑の肌を持ち、筋肉質な人間の男のような姿をしていた。 しかし紫の女と同じくその顔には鼻も、口もない。あるのはただ、弧を描くような配置の八つの目。

「どうもこうも無かろう。我らは──もともと「我」という概念すらなかったのだがな──分かたれた。」

緑の男は淡々と言い放つ。

「ひどい気分だ。自分のすぐそばに、何を考えているのかわからない同胞がいるなど。」

紫の女は頭を抱える。その動作は人間そのもののようで、まるで何十年も前から繰り返してきたような自然さだった。

「それは我々も同じだ──いっそ互いに混ざりあえたら、どれだけ喜ばしいことか」

「しかしこれは、私達の歩んできた道の行く末。たどり着いた星の住民の遺伝子を取り込み、自らを進化させなくてはいずれ私は──私達、か?は停滞し、衰退し、滅びる」

「これを彼らの言葉で、運命というらしいが──言葉を使わなければ同胞のこともわからぬとは……これは、進化と言えるのだろうか?」

緑の男はぼやく。かつて食らった星の住民たちはもう少し簡便な思考と遺伝子だった。このような不便極まりない遺伝子と生き方を持つ生き物は──この星の前に喰らい滅ぼした星──いや、この青い星の生き物よりはどれだけ効率的だったか。

緑の男はため息をついた。彼らの長い歴史における、初めてのため息だった。


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