深夜
倉庫の奥、隠し部屋の研究室。フレイムボルトだった男は──火口 雷斗はキーボードを叩いていた。机の上には回収したサンプル。
「素晴らしい……素晴らしいね、これは。夜雲、君は本当に素晴らしい部下だったよ。素敵な置き土産をありがとう」
雷斗は薄い唇の端を歪ませる。夜雲の遺した新たな理論に基づく、「フェイスレス」システム──ウプイリのように怪人から変身する、ヒーローと似た姿の兵士だ──の強化案。ヴォイド細胞の混じった土──何故か人間の細胞が混じっているが──そしてヴォイドの殻の破片。
「これで、新たなるフェイスレスを作り出すことができる……私は──人類は、さらなる進化に近づくことができるだろうね。」
キーボードを打ちながら、熱にうかされたように雷斗は呟く。
彼の切れ長の目の虹彩は、モニターの光を反射して銀色に輝いていた。
隙間風が吹き込む臨時病室。ベッドで寝息を立てるシオンの傍ら、出張から戻ったキキは座っていた。
「あたしがいない間に、随分といろいろあったんだな、シオン。ちょっと男らしい顔つきになったじゃねえか。」
当然ながら、シオンの反応はない。心電図の音だけが部屋に響いている。
「あたしがもっと早く仕事切り上げてたら、出張断ってたら、こんなことになってなかったのかな。」
昨日シオンが意識不明だとさてらいとからメールで知らされたとき、キキの頭は真っ白になっていた。
そのまま無理を言って出張を切り上げ、大急ぎで戻ってきた。何ができるわけでもないのに。もう遅いのに。
──トオルのときもそうだった。いつもあたしは、一緒にいる仲間を守れない。ずっと一緒にいれば……
「いや──それじゃだめか。あたしにだって何があるかわかんないんだ。いつまでもおんぶにだっこしてやってるんじゃ──ほんとに大事なとき、あたしがそばにいないとき、自分の身すら守れなくなる。だから──」
キキは言葉を切る。
「いや。違うな。これはあたしの言い訳だ。もっとまじめにお前に稽古つけてれば。もっといろいろ教えてやってれば──」
答えは無い。求めても、はなからそんなものは存在しなかった。
「ダメだな、もしもなんて思っても意味ないのに。はあ、トオルが仕事辞めたってのも正解だったのかもな。あいつと違ってあたしは自分の周りの世界を、日常を捨てられなかった──なぁ、シオン。起きたら、またあの夜景見に行こうな。」
そう言うと、キキは椅子から降り、膝をついてシオンが眠るベッドに突っ伏す。
程なくして、寝息は2つになった。




