邂逅
「確かこのあたりのはずですが……」
日もとっぷりと暮れた真夜中。ウプイリ──夜雲はヴォイドの細胞を手に入れるため、採石場に戻ってきていた。
朝方ロムルスと戦った時の傷はまだ痛む。骨にヒビが入っているのかもしれない。スーツと怪人の治癒力で少しマシにはなってきているが、ただの打ち身にしてはあまりに治りが遅い。
「忌々しい、あの駄犬め……」
夜雲は舌打ちをする。屈辱だった。地面に叩き落とされたことも、完膚なきまでに打ちのめされたことも。
──あいつを倒すためにも、ヴォイドの細胞は必要不可欠だ……
駄目元ではあるが、奴らが回収しそびれた殻の欠片や血の一滴でもあれば、新たな力を手に入れるための一歩となる。
「おや、これは──」
地面に広がった、銀色の染み。
それはヴォイドによって作り変えられたシオンの血だったが、夜雲はそれに気づきようもない。
「ひょっとしたら、これで……また一歩、人類の進化に近づけるかもしれませんね……」
夜雲は採集用の小さなケースを背負った荷物から取り出し、銀色に染まった土を収めていく。
「あとは……何か、欠片くらいでも……」
ウプイリは怪人のベースとしたコウモリの能力を使い、超音波の反響で周りの地面を探っていく。
「あった……」
石に似ているが、反響音の違う小さな欠片。
ヴォイドの殻だ。
「やりました……これを解析すれば、より強力な怪人を……」
と、ウプイリの耳に聞き慣れない音が聞こえた。
「ウウアアアアァ……」
うめき声のような、不気味な音。
「ウウアアアアァ……」
声は近づいて来る。夜雲の背中を冷たいものが伝った。
「なんです……?」
──まさか、幽霊。
「ありえない、そんな非科学的な……野生の獣でしょう、どうせ……」
このあたりは田舎だが、あのような不気味な声を発する動物はいない。それなりに長い期間ここで暮らしてきて、夜雲にもそれはわかっていた。
が。動物でなければ、あれはなんだ。
人間にあのような声が出せるとも思えない。
幽霊でなければ──もっと良くないもの。
そしてそれは、夜雲の前に姿を表した。
黒い山羊のような頭を持つ、蹄のついた獣脚と、真っ黒な爪を持った怪人──いや、怪物。
「ウウアアアアァ……」
怪物は呻く。腐肉のような匂いがし、夜雲はバイザーの奥で顔をしかめた。
「怪人……?」
──なんだ、怪人か。
安堵した夜雲──ウプイリは、怪人に声をかける。
「こんな夜遅くに、私を驚かせようとする趣味の悪い人は……誰です?見たことのない顔ですが……ギアを渡された一般人ですか……?」
怪物は答えることもなく、呻く。
「ウウアアアアァ……」と。