手
「そっか、それで今日は遅くなったんだ。一緒に街の方にお買い物行こうって、約束してたのに」
ファンシーな小物がそこここに散見する、いかにも女の子らしい部屋。ベッドに座るタタラは口を尖らせた。
ここは彼女の自室。蒼はバツが悪そうに床に正座していた。
「悪かった、この埋め合わせは必ずするから」
「いいよ。蒼が悪いわけじゃないし、友達なんでしょ。心配なの、わかるよ。蒼、優しいから。私がそうなってるときも、ずっと心配してくれてたしさ。でも埋め合わせしてくれるなら……来週のお休みの時は、映画。蒼の奢りで見に行きたいな」
「わかった。どんな映画でも奢るよ。ポップコーンも」
「ふふふ、ありがとう。……なんか、変わったよね。私達」
「そうだな。もうちょっと前までは怪人の姿のまま、憎まれ口叩き合ってたのに」
「ずっと、仲良くなりたいって思ってたんだよ、私。素直になれなかっただけで」
「俺も売り言葉に買い言葉で大人気なかったな、とは思う。もっと速く腹割って話してたら、今よりもっと仲良かったかもな、俺ら。」
「今から取り戻せるよ。もっと、仲良く……」
と、タタラは言葉を探すように、もじもじと黙り込む。
「ねえ、蒼。」
意を決したタタラは、ゆっくりと単語を紡ぎ出していく。
「もっと、近くに来てよ。こっち。」
ベッドをポンポンと叩き、手招きする。
「いや、それは……」
「嫌なの?」
「そんなことはないけどよ……なんか、マズくないか?こういうのは……」
「いいから。早く。今日の大遅刻の埋め合わせの、うーん……利子。」
「……わかったよ」
彼女を説得するのは無理そうだ、と判断した蒼はタタラの横に座る。 柔らかいベッドだ。
「遠い。もう少し近くに。」
隣に座るタタラはお手柔らかにとはいかなさそうだが。
「適切な距離感ってこんなもんじゃないのか……?」
「何言ってるの?距離に不適切なんてないよ。友達だもの」
と、タタラは腰を上げ、蒼に近づく。
二人の肩と肩が触れ合う。
タタラはそのまま、蒼の手を覆いかぶせるように握った。
「ちょっと強張ってる。緊張してるの?」
「いや、心の準備というか、なんというか……」
シャンプーだろうか──花のような香りが、蒼の鼻腔をくすぐる。
「なぁ、タタラ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないのは蒼のほうでしょ。これ以上したら蒼が緊張で死んじゃいそうだし、今日はこれくらいで勘弁してあげる。」
と言いながらも、覆いかぶさった手は離れない。
柔らかく、小さな手の温もりが、手の甲から伝わる。
──何だこれ、なんでこうなった?
蒼はうろたえる。タタラの行動が、心理が読めない。いや、今までもそうだったが。
「ねえ、蒼。明日さ。お仕事終わったら私も一緒にお見舞い行っていい?蒼と私の恩人でもある人なんだしさ。」
「あ、ああ……」
蒼は上の空で答えた。




