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72話




「そうよ、私はダンジョンマスター。悪い!?」


 ヒス子が俺を威圧するようにふんぞり返る、けども、何を頼りに威圧かましているんだか。

 悪いけど、何の利益にも繋がらなさそうなお客様には早々にお引き取り願いたい。もうね、切に。


 しかし、このヒス子がダンジョンマスターというのが問題なのだ。スバルさん曰く、ダンジョンマスター同士は、その眷族も含めて、互いの合意なしには一定以上近付いたり攻撃したりということが出来ないらしい。

 例え俺が今ここで『大海洋魔法』を発動させようとも、魔法はヒス子を避けてしまう。

 ダンジョンマスター同士で戦うダンジョンバトルにおいてはその限りではなく、お互い存分に殺し合えるらしいのだが、まだオープンしてないダンジョンには流石に攻め込められないルールということだ。


 まぁ何が言いたいのかといえば、いくら上空にワイバーン飛ばそうが、俺を挑発したり威圧したりしようが、まったく意味はないってこと。

 オープンしてないからダンジョンバトルを挑まれることもないしな。


 だから、ダンジョンマスターであるヒス子がいきなりこんな海にポツンと浮かぶ孤島に来る理由が分からない。

 ここで騒いでも何の意味もないし、俺や配下モンスターが引っ込んでしまえば何も出来ないのだ。


 うん、そう考えると対応するのも馬鹿馬鹿しくなってきたな。なんで俺がこんな気分の悪い女の相手をせにゃならんのだ。俺は俺で忙しい。

 オープン開始だってそろそろ見えてくるんだし、無駄なことは出来ないのだよ。


 大きく溜め息を吐くと、俺は配下モンスター達に一度帰還することを命じた。

 ヒス子がいなくなるまで、この海岸は封鎖しよう。港作りかけだからサッサといなくなって欲しい。

 こういう輩は相手をするだけ調子に乗るから、相手にしないのが一番。放っておけばその内飽きて帰るだろ。


「ちょちょ、ちょっと、何勝手に帰ってんのよ!? ここは私ともっと会話をしていろいろ聞き出したりするんじゃないの!? ねぇ、ちょっとコラーッ! 無視するんじゃないわよ!」


 ヒス子が叫んでいるが、無視だ無視。

 この事で恨まれて、あとでダンジョンバトル挑まれたりするかもしれないけど、まぁその時はその時だ。今の平穏には代えられないからね!


「本当に帰る気なの!? 私の話はどうなったのよ! ちょっと! 無視するなんてサイテーよ!? アンタサイテーなんだからぁ!!」


 今の気分が十分最低なので、最低で結構です。

 ヒス子を相手にして疲れたから、書類を片付けつつポーラに癒されよう。最近はお茶も淹れてくれるようになったから、そのことも褒めつつ頭を撫でてあげるとしようかな。

 ふふふ、恥ずかしがりつつ喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。


 そんなことを考えながら俺はダンジョンマスター権限で転移した。

 後ろで最後までヒス子が喚いていたが、もうどうでもいうことだった。




◆◆◆




 それから一週間経った。ダンジョンオープンまで残り213日、なのだが……。


「ワダツミ様……」

「アイツ、まだ居るんだ……」


 スバルさんが困惑したように俺に話しかけてきた。


 交易用の商品の準備は着々と進んでおり、ダンジョンの増築も順調。エウロパも商品過剰開発の罪から許され、酷使されていたネレイドには謝罪と共に長期休暇をあげることも出来た。

 ルーナとエンケラドゥスは相変わらず俺の周りで過ごしつつも出来る仕事を少しづつ増やして頑張っているし、デスピナのメイド力はぐんぐん上昇している。その所為か、俺の身の回りの事はスバルさん、ポーラ、デスピナの3人が熱心にやってくれるようになった。お陰でなんとなく自分がヒモっぽくてなぁ……。

 一番DPを稼いでいるのは相変わらず俺なんですけどね。


 そんな感じでダンジョンオープンに向けて平和に頑張っていたんですよ。我々は。

 ヒス子のこと以外。

 何をしに来たのか分からないが、随分と根気が有ることだ。全く。

 もうなんだか疲れてしまった気がして、俺は机に突っ伏した。


「さすがに毎日のように騒いではいませんが……、これほどまでにダンジョンマスターが自分のダンジョンに帰らないのは少々おかしいことです。何かあるのかもしれません」

「って言ったってなぁ……、俺が話にいってもアイツ喚くばかりで話にならないんだもんさ。ダンジョンの支配権を寄越せだの、コアを譲れだの、ワイバーンに攻撃させてやるだの、なんか必死なのは分かるんだけど、それ以上詳しく言わないんだからこっちも譲歩の仕様がないんだよなぁ」

「非常に考えにくいことですが、彼女はもしかしたら自分のダンジョンを奪われた、もしくは攻略されたのではないでしょうか?」

「そりゃおかしくないか? コアが奪われればマスターも死ぬんじゃなかったの?」

「それは…………」


 なんかスバルさんが答えたくなさそうにしているから、あんまりいい話題じゃないのかも。

 俺かスバルさんのどっちかが死ぬかもしれないという話だしな。あんまり縁起のいい話ではないのは確かだ。

 だけど、スバルさんが一つの案として提案する以上、可能性はゼロではないということだ。ヒス子がやたらとダンジョンの支配権やコアを欲しがるのは、自分のダンジョンを再び持ちたいと思っているからかもしれない。

 そう考えると、いつまでも此処に残っていることにも説明がつくな。

 もう帰る場所がないんだったら、何処にいても同じだろうから。


「……スバルさんとしてはどうしたい? あのヒス子がダンジョンを失ったマスターだとしても、どうやらまだダンジョンマスターとしての能力は残っているっぽいけど」

「私はワダツミ様のお考えに従います。ここのマスターは貴方様です」

「HURM...そうなるか。じゃあ、マスターの能力を持つものを招き入れる際、もしくはDPにする際のメリットデメリットを教えてくれ」

「はい」


 スバルさんが仕事モードになったので、俺も姿勢を正す。

 教えてもらったことは以下の通りだ。

 まずDPにする際の話。メリットとしては相手のダンジョンをそのまま吸収合併できるようなもの。物資やモンスター、召喚リストに登録されたものまで好きに出来るようになるらしい。ただし、普通それは相手のダンジョンコアを奪った際に出来るようになるので、ダンジョンコアを失っている可能性があるのにマスターの能力を有する場合、どうなるか分からないとのこと。

 デメリットはそのどうなるか分からないという点と、通常相手のコアを奪うときはダンジョンバトルになる場合が多く、被害は大きくなりやすい、ということだった。

 ダンジョンバトルは、通常のダンジョンがオープン前のダンジョンを攻めることは出来ないが、その逆は厳密には禁じられてはいないとのこと。やろうと思えばやっていいらしい。


 次に招き入れ、話を聞く場合。メリットとしてはヒス子がどのような事態になっているのか分かるということがある。こんな場所で一週間も粘るのだからそれ相応の理由があるんだろう、気にならないと言えば嘘になる。ダンジョンマスターが他のマスターを招待するというのは珍しい話ではない。内陸部ではオープン前のダンジョンを、ベテランマスターが庇護するという話もあるそうだ。孤島で細々とやっている俺には関係のない話だが。

 デメリットとしてはヒス子が何を考えているのか分からないということだ。目的はずっと喚いている通りダンジョンを奪いたいということなのだろうが、本当にそれだけなのか? あちらは既にオープンしたダンジョンのマスター、招待した瞬間に俺が知らないスキルで殺される可能性だって充分にあるのだ。


 そう話してくれた上で、スバルさんは俺に任せると言ってくれたが……。

 さて、どうするか。



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