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52話




「いったい何が起こったァ! 状況を確認しろォ!」

「い、一番船、大破しています! 船長、どうしやすか!?」

「大破だァ? 何をバカな……って、ぇえええええ!?」


「おい、救助急げ! 海中からモンスターが来る前に!」

「いや無理だ! ここはもうダンジョンなんだぞ!」

「バカ野郎! 海の男が仲間を見捨てられるか!」


「物見から報告! 『鮫殴り』『夜鳴き』の1番船も大破!」

「こりゃ自然に起こったことじゃねぇな、おい、反転だ野郎共! 海を魔法で掻き回されちゃあ勝てやしねぇ!」

「で、ですが、舵が効きません!」

「はぁ!?」


 『青塩党』の船は騒然としていた。

 しかし、それも無理からぬこと。


 目の前で指揮官の乗った船が大破したのだ。

 いきなりの出来事だった。いや、わずかに前兆はあったのだ、海面が異様にうねっていた、おそらく水面下で波と波がぶつかり合ったのだろう。


 『青塩党』の面々はならず者だが、無知ではない。特に自分達の生きる場である海については誰よりも詳しいと自負していた。

 だが、このような光景は、今まで見たことがなかった。


 そして突如立ち上る急峻な海水の断崖。波と波がぶつかり合う威力をそのまま下っ腹に受けた船は堪ったものじゃない、自重に負けるように真ん中からへし折れていった。


 不謹慎だが、思わずひきつった笑いが彼らから漏れた。

 今朝食った塩漬けの魚を、真ん中からナイフでぶつ切りにしたのを思い出したのだ。

 前半分が吹き飛ぶ形で大破した船は、朝食・・にそっくりだった。


 そんなことを考えてしまうのも、次に何をするべきなのか分からず、動きを止めてしまったが故だろう。

 原因はともかくとして、各船団の指揮官がいなくなったことで『青塩党』のみならず全ての船が混乱しているようだった。


「ボスは、ヴィゴの兄貴は無事か!?」

「へぃ、海に飛び込んで難を逃れたみたいでさぁ!」


 『青塩党』の副長である男は、とりあえずホッと息を吐いた。

 ボスさえ無事なら『青塩党』は建て直せる。何故なら、ボスであるヴィゴこそが、アーミテイジの大旦那と太い繋がりがあるのだから。


「水夫数人はボスの救助に迎え、残りは大砲の準備だ!オープン前ダンジョンだと思って甘く見たが、とんでもねぇことしてくれやがったなクソッタレ、テメェラ、あの島を焦土に変えてやれ!」


 副長が叫ぶが、おかしなことに誰も追従しない。


「おい、返事はどうしたァ? さっさと動かねぇか!」

「大きい声で怒鳴らなくても聞こえますわ」

「あ?」


 副長は驚いて振り返った。

 自分の船の上では聞いたことがない、鈴を転がすような可愛らしい少女の声。

 ダンジョン攻略、いわば人間とダンジョンの戦争をしている最中に聞けるような声ではない。


 そこに居たのは、可愛らしい声に反して、恐ろしいバケモノだった。

 一言でいうなら巨大なタコを頭にのせた人型のモノ。

 決して人間とは言えない。人間の肌はあんなにヌラ付いていないし、戯画めいた桃色もしていない。腕の代わりにタコの足がついていたりもしない。

 だというのに、シルエットは人間に近い、その事に異様な恐怖と忌避感を覚える。

 人と似通った場所といえば、顔くらいだ。そこだけはやけに愛らしい顔をしている。ただ、その瞳はタコそのものであった。


「初めまして挑戦者さん。私、ワダツミ様に仕えるオクトリッドの長、エウロパと申します。今日はお願いがあって参りました」


 少女の顔と声をもったモンスターが音もなく出現したことから副長は焦っていたが、どうやら相手には交渉したいことがあるらしい。

 少しだけ心に余裕が生まれる。

 その隙に辺りを視線だけで伺うが、部下は全員甲板の上に突っ伏していた。


 呼吸はしているようなので、死んではいないのだろう。だが、それをいったいどうやったのか?

 ほんの数秒前まで騒ぎ走り回っていた奴等を、一瞬で音もなく同時に無力化したというのか?

 それが出来るモンスターが配下だというなら、このダンジョンはいったいどれ程古いダンジョンだというのか、何故だれもこのダンジョンに気付かなかったのか?


 自分がこんな場所にいる運命を呪いながら、副長はゆっくりと口を開いた。


「……要求を飲もう」

「あら? もっと吠え散らかしてくると思ったのですが、案外冷静なのですね。では遠慮なく。この船団、全部貰いますね」

「ぐっ……」


 思わず声が漏れた。

 要求に不満があった訳ではない。その内容に驚いた訳でもない。

 そんなことを思う余裕は全て吹き飛んでいた。


 これで命が助かるのだぞ? と言外に威圧するかのような魔力が少女モンスターの体から発せられていたのだ。

 恐らく、船員が全員倒れた原因がこの魔力の威圧だ。

 副長は耐えきれず膝をついた。意識を失うのも時間の問題だろう。


 実はエウロパは人間の文化や知恵、製作物が研究できると良くないハッスルをし過ぎ、魔力が漏れていいるだけなのだが、それを副長は知る由もない。


「ふ、船はやる、だから、頼む、コイツらは見逃してやってくれ!」


 簡単に言っているようだが、船はそれだけで一財産

である。平民が住む家よりも、海に浮いている木造の建造物の方が遥かに高価なのだ。

 それを迷いなく差し出すということが、副長の覚悟の大きさを物語っていた。


 ……この船はアーミテイジ商会所有のものであり、副長はおろか『青塩党』の誰の懐も痛んでいないのだが……。


「あらあら、少し言葉が間違っていますわよ?」


 タコの足をくにゃりと持ち上げて頬に当てながら、タコのモンスター少女は笑う。


「船じゃなくて、船団、でしょう? まぁ、もう手中に収めているんですけどね?」


 その言葉に、副長は気力を振り絞って仲間がいるはずの他の『青塩党』の船を見る。


 ……そこには、誰もいない。

 ただ、モンスター少女よりもさらにタコに近い、というよりも人のシルエットで二足歩行しているタコと言うべきモンスターが甲板をうろうろしていた。


 人間の姿は見えない。

 ただの一人も。


「あ、あぁ……」


 それが意味することを理解してしまった副長の口からは、意味をなさない音だけが漏れていた。




◆◆◆




※エウロパ視点




 ワダツミ様からゴーサインを頂きましたので、早速挑戦者さんの船に向かいました。


 ふふふ、完璧! 完璧な計画です!


 ワダツミ様がその場の勢いに流されやすいお方ということは、僭越ながら存じておりました。

 今回はそれを利用させていただいたのです。

 あぁ、敬愛するワダツミ様を謀るような真似、このエウロパ、胸が張り裂けそうな思いです。


 ですが、これはワダツミ様に頂いたご命令を遂行する為に必要なことなのです。

 研究し、開発し、改良することが、ワダツミ様より賜りし我らオクトリッドの使命。


 それは、私自身の願いでもありました。


 私がまだ生まれて間もなく、ただの無力なタコであった頃、戦いで負った傷と毒をワダツミ様が自ら癒してくださった……。

 あの優しさ、感動、今でも鮮明に思い出せます。

 この御方の為に生きる。

 ダンジョンに生まれたモンスターの本能ではなく、私が本心から忠誠を誓った瞬間でした。

 それと同時に、私をあっという間に癒した薬なるものにも、大きな興味を抱いたのです。


 これがあれば、もっともっとワダツミ様のお役に立てるだろう。

 タコであった時の靄がかかったような頭で、私はそのことばかり考えていました。


 薬、薬があれば、と。


 そうして血の滲むような戦いを繰り返し、進化を果たした私にワダツミ様は名前まで下さり、私が望んでいたことを役割として御命じなられたのです。


 研究はとても楽しいものです。

 日々、自分の中で新しい知識と発想が浮かんできます。その大半は既存のものであったり使い物にならないものであったりということが後から分かりますが、それでも進化した私の毎日は驚きと喜びに満ちています。


 そんな折りに降って湧いた挑戦者騒動。

 つまりダンジョン側だけでなく人間側からの知識を得られるチャンスですね!

 通常ならばカロンという馬鹿筋肉馬鹿が率いるブルーサハギンが対処するでしょうが、彼らは馬鹿筋肉馬鹿のせいで大事なものが分かりません。

 私たちオクトリッドが判断するしかないのです。


 このままでは貴重な資料や素材が無駄になると危ぶんだ私たちオクトリッド研究班は、現場に直行しました。

 ワダツミ様に許可を求めれば、私たちの身を私たち以上に案じてくださるワダツミ様のことですから、出撃を許しては頂けないでしょう。

 ですから、ワダツミ様を出し抜くようで大変心苦しいのですが、勝手に出撃させていただきました。


 途中、スバル様に見つかりましたが、私たちの考えを尊重してくださってか、何も言わずに送り出してくれました。


 目標とした船は、青地にドクロの旗を掲げた船。

 鮫に人間の拳がめり込んでいる旗の船には阿呆筋肉が向かったので、此方ならば無傷で回収できるでしょう。


 脳ミソ筋肉が率いるブルーサハギン達に比べて数で劣る我らですが、決してワダツミ様が危惧なさるほど弱くはありません。

 ブルーサハギン達が広域警戒を日常業務とするならオクトリッドは狭く深い範囲で探索をしているのですから。


 吸盤で船の外枠に張り付き、するすると登っていきます。

 感知魔術で仲間の位置を把握していますが、どうやら全員、目標の船にたどり着けたようですね。

 まぁ、サルガッソの皆さんが舵を雁字絡めにしているので、逃げられる心配は皆無です。


 もう胸は期待ではち切れんばかり。

 これから思う存分に人間の建造物や発明品を調べ回せると思うと……。


 おっと、いけません、興奮のあまりヨダレと魔力が漏れてしまいました。

 だらしないようではワダツミ様の配下失格ですとスバル様にも厳しく教えられています。これは無かったことにして堂々とした態度で挑戦者と相対あいなければなりません。


 満を持して船に飛び上がりました。

 音もなく甲板に降り立ち、キリッとしたポーズを決める私。

 さぁ、ここで私に注目が集まっ……らない? あれ、何故みなさん寝ているのですか? 徹夜で考えて用意したセリフが……。

 い、いえ、これでは船を研究させて頂く交渉ができません!


 困りましたが、悩むのは一瞬で済みました。

 何故なら、一人起きていることをアピールするように叫んでいるヒゲモジャの方がいらっしゃったからです。

 声が大きすぎるのが難点ですが、交渉さえ出来れば贅沢は言いません。


 私は安心してホッとため息を吐き、声をかけました。



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