51話
うん、本当は色々考えてたんだ。
ここで戦ったら人間の敵認定されちゃうかも、とか、せっかく仲間になったカロンやエウロパ、彼等の部下達が傷付くかも、とか、話し合いが出来る可能性だってまだあるんじゃないか、とか。
でも、考えたところで解決する問題じゃない。というか、ウジウジぐだぐだ、自分で嫌になったぜ!
スバルさんも、カロンも、戦う方向で考えてる。あとは俺がゴーサイン出すだけなんだ。
戦いになれば手は抜けない。
カロン達を危険な目にあわせてまで見ず知らずの人間を助けようと思えるほど脳内お花畑じゃないんでな。
よし、覚悟を決めるぞ。俺はダンジョンマスター、ダンジョンに生きる奴等の安全は、俺が守る。
俺だけじゃ難しいだろうから、スバルさんやカロン、エウロパにも手伝ってもらう。当然、他のみんなにもだ。
ただ、無益な殺生だけはしないようにしよう。
それだけは厳命する。投降した相手は殺さない、オーケー?
「抵抗を続ける相手ならば仕方がない、それも戦場の習いだ、サパッと殺ろう。でも降参するなら助けること」
「……投降する振りをして潜り込んでくる可能性もありますが」
スバルさんはすこし不満気。
しかし潜り込んできた所で、知られちゃヤバイようなことなんて無いじゃない。
せいぜいがエウロパ達オクトリッドの実験くらいか? でもあれはDPありきの実験だから真似できるもんでもないし、そもそも捕虜をそこまで立ち入らせない。
いや、スバルさんは挑戦者を食べたいんだな、ダンジョン的な意味で。
「もしそういう奴が居たなら、分かった時点でDPになってもらう」
「分かりました。それで納得します」
スバルさんが捕虜を認めてくれて良かった。
戦うことは決意しても、無理して殺す必要はないもんな。
ダンジョンマスターとしては、間違ってるんだろうけど、こちらの安全が確保で出来ているのであれば、捕虜の待遇を良くしてやらんでもない。
「よし、それじゃあカロン、急いでその場から離れろ」
「ワダツミ様、攻撃をさせるのではないのですか?」
「するよ? 思いっきり派手にぶちかますさ」
一番手を俺が貰うだけです。
自分で覚悟を決めるためにも。やると決めたら徹底的に。
挑戦者チームは、オープン前に攻めるっていうルール違反をやらかしてるんだし、こっちも少々エグい手を使ったって良いだろ。
まぁ、確実に生き残りは出るだろうから、その時がブルーサハギン達の出番だ。
他の配下もきっと張り切ってくれるだろう。
『了解しました。ドルフィンライダー部隊、敵船団から距離を取ります』
俺はカロン達が充分に離れたのを見計らい、『大海洋魔法』のウインドウを開いた。
支配下に置いた海を自在に操るこの魔法。海に囲まれた島と、周囲の海そのものがダンジョンである俺にとって、これ程相性の良い魔法もない。
ダンジョンの全域がウインドウ上でマス目となって表示される。
まるで航空写真を見ているかのように、どこに誰がいるのか丸分かりだ。
あ、島をズームアップしてみたらスバルさんの部屋を映してしもうた。
スバルさんに性別は無いけど、一応女性扱いだからね、ポーラが来てからトラウマケアの為に部屋を分けたし、どんな風になってるか見たことは無かったな。
必要最低限の家具だけで殺風景な……ってのを想像してたんだけど、へぇ、以外と可愛くアレンジしてるのね。DPかけてんなぁ……。これもポーラの為なんだろうか?
おぉ、ポーラ、この騒ぎでも寝てるのか、案外神経が太い……。
「真面目にお願いします」
「ヘァイ!」
覗きがバレた。
これ以上いけない。スバルさんがマジで怒っちゃう。
いやこれは不可抗力、不可抗力だったから。
いかん、口から言い訳が飛び出す前に行動するんだ! 誠意は行動で示すのだ!
5艘づつで構成されている各船団は、扇状に広がってゆっくりと島に向かってくる。船は一隻を先頭に、残りが左右に付き従っている形。まるで槍の穂先のようだ。
上から見ると、前方3方向から矢印が進んでくるって感じだな。
風は強くないのにも関わらずそれなりの速さで進んでくるってことは、優秀な漕ぎ手がいるんだろうな。
……不当に奴隷された人じゃなけりゃいいけど。
うーん、それにしても相手は海賊なんだよね?
船を5隻も所有しているだけでもかなりの規模だと思うんだけど、それが3セットも? この世界の海賊ってよっぽど儲かるのかね?
まぁ、生き残りに聞けば分かるか。
思考がすぐに逸れるのは俺の悪い癖だ。そろそろしっかりやらんとスバルさんに嫌われちゃうぜ。
「『大海洋魔法』範囲指定 “C-15” “F-15” “I-15” 『三角断波』」
三角波、というものをご存じだろうか?
双方向から発生した水のうねりが海面下でぶつかり合い、上方に盛り上がるのだ。
これだけ聞くと、ただ海面が波で動いているだけのように聞こえるが、実際はそんな生易しいものではない。
船という大型の建造物が、突如真下から鋭く勢いの有る波に突き上げられるのだ。
脆く重い木の箱に、下から斧を振り上げるようなもの。
過去、大型客船がまるで一刀両断されたかのように前後に断たれた、という事例もある。
今回狙ったのは槍の穂先、各船団を先導している船長格が乗っていそうな船だ。
船は下からの突き上げに一溜まりもなく、前後に砕けて別れていた。
あーぁ、何人も海に落ちてら。
彼らはリタイアってことで、ドルフィンライダー部隊以外のブルーサハギン達に回収させておくか。
C-15 うんぬんってのは『大海洋魔法』で表示されるマップのマス目のことね。
基本は100~300メートル四方だけども、ズーム次第で最大1キロメートル、最小で5センチくらい。
ただ頭に思い浮かべるだけでもいいし、指でタッチしたりスライドしたりして指定してもいい。それで効果範囲が決まる。
しかしこの魔法、物凄く燃費が悪いんだよなぁ。
発動と同時に襲い来る、急激な魔力消費による強烈な不快感。
あぁ、もう、うげぇ、頭いてぇ、これが嫌だったんだ。
3ヶ所同時展開は少々キツいけども、範囲型ではなく局所型にしているので、これでも魔力消費は少ない方なんだけどね。
実際はぴったり同時じゃなくて、40秒くらい間隔開いてるし。
20マス一気に大津波! とかも可能っちゃあ可能だったけど、実際は魔力が足りなすぎて死ねる。
加えて、攻撃がどうしても大雑把になりがちなので、目の前の敵だけを撃つ、とかそういうコントロールが禿げるほど難しくなっているのだ。
『大海洋魔法』はある意味チートなんですが、デメリットばかり気になるのは何でなんですかねぇ。
本当に、成長する度に厄介になるよ、この魔法は。
いきなり指揮官に相当する船を破壊され船員達は恐慌状態に陥っていた。
彼らからすれば、目の前でいきなり仲間の船が吹き飛んだ訳だからな、そりゃ混乱もするわ。
さて、食い残しで悪いが、ドルフィンライダー部隊、および海中強襲部隊であるブルーサハギン達にも頑張ってもらうとしよう。
「統率は乱れた、カロン、一気に攻めろ!」
『ハッ! 我が主』
『ワダツミ様、我らオクトリッドにも活躍の場をお与え下さい』
え? 後方支援がメインの可愛いタコ娘ちゃん達が、思いっきり前線にいる光景がモニターに映ってる?
エウロパ達、いつのまに……。
「ワダツミ様、ご安心下さい。彼女達もただの研究職という訳ではないのです。このような戦闘で怪我を負うような者はワダツミ様のダンジョンにはおりません」
ダンジョンについては俺よりも詳しく把握しているスバルさんが言うんだから、間違いはないかな?
危なければ『大海洋魔法』で支援すればいいしな。
経験させるのも大事だ。
肉食の獣の中には、子供に弱った獲物を襲わせて狩りを学ばせる種族もいるという。
つまり、そういうことだ。
「よし、許可する。ただし絶対に無理はするな」
『ありがとうございます! 我らオクトリッドの勇躍する様を御照覧あれ!』
『ブルーサハギンの武勇もお見せいたします!』
やっぱカロンとエウロパってお互いを意識してるのかね?
いいライバルみたいな?
まぁ、悪い方向には働いていないみたいだからいっか。
一つの船団をカロン達ブルーサハギンが。
一つの船団をエウロパ達オクトリッドが。
さて、残りの一つはどうするか?
「ならば覚醒と名付けを控えた3種族に当たらせましょう。サルガッソ、要塞ガニ、ミラージュクラムの高レベル個体と、配下の群れであれば船団ごとき敵し得ません」
うーむ、進化してない子達を送り込むのは不安だけど、そこもまた支援すればいいか。
『大海洋魔法』じゃ大雑把な支援しか出来ないけど、ウチの子達は船が大破したり転覆したりしたくらいじゃ怪我しないだろうし。
「よし、それじゃあ此処で皆の状況を確認しつつ、臨機応変に支援してくぞ。スバルさんは俺のサポートよろしく」
「はい、マイマスター、ワダツミ様」
さぁ、手塩にかけた俺の子達の実力、たっぷりと見せて貰うとしようか。




