Encounter of destiny (運命の出会い)
キック一発で、2気筒のエンジンに火が入る。
タコメーターはないから、軽くアクセルを開ける。
クラッチレバーをしっかりと握って、つま先で1速に入れる。
走りだせば、8月の夏の風か頬にあたる。
高速に乗るわけじゃないんで、フルフィスではなく、ジェットタイプのヘルメットにしていた。
父親からは、チンガードがないヘルメットはかぶるなと言われていたが、風を感じるならジェットヘルがいいと思う。
雨の時は、最悪だけれども、季節も風も匂いも感じることができる。
Grasstrackeは、ロードバイクの類たが、限界性能はそんなに高くはない、どちらかといえぱ、シティバスクに近い、コーナーを責めたり、ロングツーリングに適したものでもない。
気軽に乗れるバイクみたいなものだ。
エンジンのフィーリングでギアを上げながら、英美里はバイクを走らせていた。
英美里の髪はそんなに長くはないけれども、バイクで言うフォックステール(ヘルメットの後ろに出る髪)はあった。作業用のヘルメットをかぶるから、そんなに髪は伸ばしていないけれども、女の子だからそれなりだった。母親は、英美里のサラサラの黒髪をほめていたし、小さい頃は髪を編んでくれたりもした。
裏道を使って、針生バイパスから、長崎方面へとバイクを走らせた。
ハウステンボスを横を通って、西海橋方面へと抜ける山道で、数代のカラフルな大型バイクに出会った。
夏になると多い、俄かバイク乗りだ。
冬と雨の日は乗らないので、とたんバイクの調子が悪くなり、春には売り出されることが多い。
バイクは、自動車と違って単純な作りなので、乗らないと途端に調子が悪くなる。
特に電子制御されていない、キャブ式はてきめんだ。
古いガソリンなどが、キャプに溜まったままだと確実にエンジンがかからない、無理にかけるとバックフィヤーを起こす。
今は、排ガス規制でないけれども、2ストエンジンなんかはてきめんだ。
オイルがなくなって、エンジンが焼き付くし、2stの後を走るとオイルで黒いしみがつく始末。
ただし、4000回転以上ならスカイラインのどっかんターボー並みの加速だ。
結構なカーブを曲がると、3本の電波塔が見えてきた。
旧海軍のもので、100年近くなるらしかった。
周りに何もないため、3つの電波塔には違和感があり、此処だけが違う世界と勘違いさせられる。
橋の手前のパーキングへ入った。
アラミド縫込みのジーパンと、エンジニアブーツが、すらりとした体躯に似合っていた。
英美里は、目の前のトイレのに入り、グローブで湿ってべたついた手を洗おうとして、目の前にある
冊子に気づいた。
名詞よりやや大きい冊子で
"一人で悩まないで!!"
と書かれていた。
そういえば、ここ西海橋は、自殺の名所と言われいた。
電話boxに女の人の幽霊が出るとか、警察から追われた犯人が飛び降りて死んだとか言われていた。
英美里は、橋を見ようと高台のトイレを降りるとギョッとした。
日降りたところリ左側に、お地蔵さんが祭ってあった。
やっぱりと、思って赤い橋に近づくと、徒歩ても渡れるようだが、歩道が狭いのでなんとなくあきらめた。
自殺防止のためだろうか、橋の両側にワイヤーでネットらしきものがあった。
英美里は、ほんとドキとした。
海面を見ると、少し渦を巻いており、ひどく濃い青をしていた。
たしかに、ずっと見ていると引き込まれそうな気がする。
英美里は、急いでバイクのもとに戻った。
エンジンをかけようとして、バイクにまたがると危うく、こけそうになった。
前輪? 後輪?と見ると見事に、後輪がペッちゃんこだった。
ああーと顔をして、英美里は後輪の元にしゃがみこんだ。
手でタイヤを触れていくと、案の定木ねじがめり込んでいた。
近くに、ガソリンスタンドはあったが、バイクのパンクは直せそうにないと思った。
押していこうにも、距離がある。
とりあえず、アパートまで帰って、工具を取ってこようと思ったが、ここ都会ではないのでパスは1時間に1本、今日は休日なので日中はほぼないと来た。
困っているため息をついていると
「パンクかい」
と後ろから声をかけられた。
振り向くと、男が立っていた。
「ええ ネジを踏んだみたいで」
と英美里がいうと、男もしゃがんでタイヤを見ていた。
「これ、チューブ式だよね。」
と男が訪ねたので
「ええ、チューブ式です」
と英美里も答えた。今のタイヤはほとんどがチューブレスになっているので、いっぱつでチューブ式と言い当てた男に好感を覚えた。
「ほんとは、あんまりやっちゃいけないんだけど、とりあえず家まで帰れるだけやる」
と男は英美里に尋ねた。
「ええ、できればですけど」
「パンク修理材があるから、使ってみようか」
と男は、英美里に尋ねた。
たしかに、チューブ式への修理材での補修は、後々のパンク修理には、修理材がチューブにこびりついて大変だが、背に腹は代えられない
「お願いします。」
と英美里が言うと、男はバイクの後ろに止めてあった車のトランクからパンク主理財のボトルを取り出してきた。
男は、タイヤのバルブ金具に、修理材の金具をねじ込んだ。
ささった木ねじはそのままで、タイヤが膨らんできた。
はば、膨らんでタイヤを触ると固くなっている。
「たぶん大丈夫だけど、念のため 家はどこ」
と男が訪ねてきたので、アパートの町名をいった。
「20km弱だから念のため、前を走って、後ろからついていくから、あ、先に7イレブンがあるから、そこに止まって、そこで空気が抜けていないかどう見よう」
といって、車に戻っていった。
英美里は、まじまじと男の車を見ていた。
なんと、父親が以前乗っていた車と同じだった。
トヨタのクラウンだった。
それそれは、古い車だ。
いつかはクラウンのキャッチフレーズで売り出されていた。
昭和の車だ。
父親いわく、ベンツと同じフレームボディで、4輪独立懸架をだそうだ。
初めてクラウンで、ドアミラー装備したとも言っていた。
後部のハザードが大きい買ったこと、ドアピラーがなかったことを覚えていた。
英美里は、言われたとおりにバイクを発信させた。
後ろから、確かにホワイトパールのクラウンがついてきた。
暫く走ると、確かにコンビニあった。
コンビニにバイクを止めると横にクラウンが止まった。
男が降りてきて、バイクの後輪のところをみて、手で触って空気が抜けていないこと刺さった木ねじが完全にタイヤにはまっていることを確認すると
「大丈夫みたいだ。気を付けて帰るんだよ。スピードはあまり出さないように。それからチューブは取り換えてから、フレームもよく掃除してね。液体ゴムだから」
といって再び車に乗り込もうとした。
英美里はあわてて、男を呼び止めた
「あの、パンク修理代の代金だけでも支払わせてください」
男は少し困った顔をして
「いいんだ、使用期限が切れかかっていたし、どうせ破棄するからいいんだよ。破棄される前に役に立ってよかったよ」
といって、車に乗り込んだ。
男は、窓を開けて、あっけにとられて英美里に
「気をつけて帰ってね」
といった手を挙げた時、胸元のピルケースとペンダントトップのリングが揺れて太陽の光に反射した。
英美里の記憶にその光景が深く刻まれた。




