↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Renion Bridge (再会橋、再び出会う場所)  作者: 池端 竜之介
16/24

The landscape which was once seen (いつか見た風景)

 ヘルメットの後ろに、まとめられた髪が揺れていた。

OJTによる職場研修も3か月に入っている。

いつの間にか、春から梅雨があけ、初夏の暑さが、作業服とエンジニアブーツを覆っていた。

英美里は、朝から晩まで、工事現場で配管と戦っていた。

学生時代に2級管工事施工管理技士の資格を取得していたので、今は実務経験を積んでいくという過程にいた

目指すは、1級の管工事施工管理技士ということで3年以上の実務経験を積む必要があり、資格保有者がいると、公共事業への入札が可能ということで、英美里は日々頑張っていた。

希望通り、在日米軍関係の設備メンテ会社へと就職できた。

日頃より、父親より取れる資格は取っておけと言われていたのが、功をそうした。

もっとも学科が工学部なので、それなりの勉強はしていた。

体を動かすは嫌ではないので、仕事内容は、英美里には合っていた。

男社会なので、何かと大変かと思っていたら、意外と現場の人は優しく、英美里をかわいがった。

高齢の人が多い職場なので、娘みたいな扱いだった。

バスケで鍛えられた体躯は、配管も難なく担いで見せるため、時には男性とよく間違えられて、怒鳴られて謝ると女性だと気付かれて気まずくなったりもした。

 性格は、父親譲りで職人気質なのでさばさばしており、飲み会でも体質なのか酒に強く、仲間と飲んでもケロッとしていた。

よって、酔わせて送り狼なんぞというのもなく。

職場の仲間として迎えられていた。

中には、お見合いなんぞを進めてくる人もいたが、英美里はやんわりと断った。

初めて、親元を離れて働く娘に、両親は心配していたが、毎日携帯にメールをしていたので今は、あんまり心配していないようだった。

最近流行りだした、iPhoneに変えてからは、写真を送ったりしていた。

やっぱりに写真を見ると安心するようだった。

外資系の会社なので、余り残業はなかったが、作業は休日や夜間になることがあるので、休みになるとさすがにぐったりとして、アパートから出ることはなかった。


 それでも近くスーパーには買い物に出ていた。

昔はにぎわっていた面影のある商店街があり、バス停もあるためそこそこ人はいた。

公設との市場もあって、懐かしさを感じていた。

見たこともないないはずなのに、何故かひどく懐かしさを覚えた。

バス停の横にある、公園で総菜屋でかったコロッケをかじりながら、新幹線の乗り物で遊ぶ子供や、木陰で夕涼みをする老人たちがいる、のどかな風景が英美里の心を落ち着かせた。

何気ない日常がある生活。

代り映えがしないけれども、明日も同じように過ごせる保証が何となくある場所だと思った。


会社に近くに会社が契約したアパートが在ったため通勤は徒歩だったが、会社の帰り道にバス停の前にあるバイクやに1台のGrasstrackerが止まっていた。

真っ赤なタンクがくすんではいたけれども、なんとなく寂しそうに止まっていた。

英美里は、そのバイクに惹かれるようにバイクの傍まできた。

10年以上前に発売されたものだ、英美里は普通自動二輪の免許は持っていたので乗ることはできる。

父親は、昔の免許制度で大型まで乗れたので、ヤマハ SR500を持っていてよく英美里を載せてくれていた。シングル499CC 空冷でキックスターターでエンジンをかけるのに苦労していたことを思い出した。スターレッドの車体とスポークタイヤが古臭かったけど、シングルエンジンの独特の鼓動は心地よかったことを覚えている。

Grasstrackerもシングルエンジンで、セルフ・キック 併用式だ。


 「それ、古いから整備しないと乗れないよ」

と、店の奥から店の店主らしい初老の男がいった。


 英美里は、少し車体を見てみた。

空冷でシングルなので、部品個数は少ない。

フロントフオークは、錆びていないしフロントオイルシールもひび割れていない。

おそらくは、交換しているものと思われる。

チェーンは伸び切っているので、オイルシールもダメだろう。

タコメーターがなく、白い速度計のみメーターの走行距離は、16,000しか超えてなかった。

おそらくは、テレビドラマの影響で一時的にこの手のバイクが流行って、買っては見たもののそのままという口だろう。

どうせ250ccだから車検もなくろくな整備はされていないだろう。


 「エンジンはかかるの」


と英美里が訪ねると、男は店の奥から鍵を出してきた。

美里は長い足を跳ね上げてシートに跨った。

鍵をシリンダーにさして、ニュートラルを確認すると、デコンプを引いて、チョークを引きキックペダルを下に押し下げて、カチッとたところで戻してっろと同時にアクセルを少し開けた。

エンジンに火が入った。


 「キック式なんぞ、よくかけ方が分かったな。今はセルだから誰も知らないぞ」


と男は感心したように言った。


 「父親がキック式に乗ってたから、見様見真似よ」


と英美里は、照れながら言った。

アイドリングも息継ぎもなくチョークを戻しても安定していた。

オイル交換はされていたらしい。

前輪のブレーキは、やや硬いのでキャリパーを掃除しなくちゃならなそうだ。

後輪はドラムなので踏みしろも浅いので大丈夫そうだ。


英美里は、このバイクが何となく自分が買いそうな気がした。


 「いくらするの」


 「現状渡しで、10万かな。自賠も切れてるし登録整備すると18万くらいかな」


 と男は英美里の問いに答えた。


 「じゃ 現状渡しで、後は自分でやるから」


 とこともなげに言う英美里に


 「整備は大丈夫か」


 と心配そうに言った。


 「大丈夫よ、よく父親と整備していたから」


と言って笑った。


 「家は、近くなのか」


と男が言うので、アパートの場所を言うと、ああと納得した。


なんというか、英美里は思い立ったら即実行なので、近くの銀行から代金をおろしてきて現金て゛バイク屋に払った。

名義変更用の書類をもらうと、英美里はバイクを押しながらアパートまで帰った。

男は、やれやれという表情で、若い娘がバイクを押して帰る姿を見送っていた。


英美里のアパートは、幸いに駐車場がついており、英美里は車は持たなかったが、ロードバイクは置いていた。

カバーをかけたロードバイクの横に、汗だくになりながらバイクを止めた。

ほんとに衝動買いだと英美里はバイクを見ながら笑った。


料理が苦手な、英美里はいつものごとく総菜屋で買った弁当を食べながら、パソコンでGrasstrackeの検索をして、パーツ屋から部品と工具の注文をした。

結構な金額になったが、オシャレをするわけでもなく、もらった給料は手付かずだった。


休日の前日に、すべてのバーツ類が届いた。


英美里は、iPhoneで父親に電話をかけた。


「お父さん バイク買ったんだけど、整備の仕方を教えてよ」


というと父親は


「えっ? お前何買ったの」


「スズキのGrasstracke シングルでキック式だから、お父さんのSRと同じ」


「えらく古いの買ったな、何年式だ」


「2003年式だって、とりあえずオイルとフィルターは変えた、チェーンでてこずってる」


といって、取外した後輪を持ち上げた。


「スプロケットはどうなんだ」


と父親が言うので


「やっば歯がとがってるから、変えなきゃだよね」


と後輪のチェーンをまわした。


「念のため前後変えてから、トルクレンチで既定のトルクで締めろな」


「うん、わかった。また電話する」

といって、後輪のスプロケットをレンチで外して、1速に入れてチェーンをかしめて調整した。

チェーンの張を調整して、終了。

タイヤは、5分山でひび割れもないので、製造年から4年が過ぎていたが良しとした。

このバイクには、燃料計がないので、車体をゆするとかすかにガソリンが入っているような音がした。

前輪のキャリパーは固着してなかったみたいで、スプレーのブレキー洗浄で何とかなりそうだった。

鍵をシリンダーにさして、ニュートラルを確認すると、デコンプを引いて、チョークを引きキックペダルを下に押し下げて、カチッとたところで戻して同時にアクセルを少し開けた。

エンジンはぐずることなくかかった。


父親に電話して、エンジン音を聞かせた。


「いい音じゃないか、カムも狂ってない。意外と掘り出しもんかもな」


と笑い声が漏れた。

英美里は、Vサインとバイクの写真を撮るとメールで送った。


バイクのエンジンは、シングルらしくコトコトとかわいい音を奏でた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。