Deja vu (既視感)
いよいよ2部の始まりです。
ぼんやりとした意識の中で、潮鳴りと桜の花びらが舞っていた。
赤い橋が目の前に見えた。
妙に角ばった赤と黒のツートンの車が止まっていた。
チェック柄のシャッツワンピースと赤いミュールとワンレングスの女性の姿があった。
傍には、青年が立っていた。
英美里の夢はそこでいつも終わっていた。
最近、よく見ることがある夢だった。
怖い夢というより、懐かしい思いがしていた。
時計は、朝の6時半を過ぎていた、そろそろ起きる時間だ。
ベットから抜け出して、クローゼットの前に立った。
クローゼットについてある鏡に、英美里の全身が映っていた。
スラリとした肢体にサラサラとした黒髪、身長は180近くあった。
瞳は大きく漆黒だった。
顔の彫は深く、日本人離れしていた。
肌の色は、やや浅黒かった。
大学では、小学生から続けていた、バスケットをやっていた。
実業団からの誘いもあったが、父親が営んでいる工場の手伝いをしようと思っていた。
両親は会社勤めを進めたが、英美里はある考えから父親の工場を手伝うことを決めていた。
ある考えとは、英美里は両親の本当の子供ではなかった。
「特別養子縁組」という制度により、今の両親の元で育てられることになったのだ。
だから、英美里は、実の父母が誰なのかもしらない。
高校に入るときに、両親からその事実を告げられた時には、子供のころからうすうす感じていたいたことが確信に変わっただけだった。
だが、それだけだった。
英美里は、両親が大好きだった。
どんなときにも、あふれる愛情を注いでくれた。
血のつながりなど、どうでもよかった。
一緒に過ごした時間だけが、事実だった。
事実を話されたときに英美里は、両親に向かって聞いたことがあった
「私が、娘でよかったの?」
両親は何も言わずに二人して抱きしめてくれた。
後だ知ったことだが、長らく両親は不妊治療をしてきたが、年齢の制限もあり特別養子縁組を希望したとのことだった。普通養子縁組と違い、実子として認められる。実父母との関係は廃される。
さらに、里親制度と違って補助金はない。
まったくもって、ほぼ人の好意のもとに成り立っている制度だ。
だから、本当の愛情が育つのかもしれない。
母親には、もともと母性などというものはなく、子供を育てながら育む者だという説がある。
だからこそ、英美里の母親も父親もあふれんばかりの愛情を英美里に注いでくれたのかもしれない。
そして、この制度には実親の承諾が必要なのだ。
つまり、実親は何らかの事情で、英美里を育てることができなかった。
それは、まぎれもない事実だ。
英美里は、大人になりながらそれを理解した。
だだ、生んでくれたことには、本当に感謝した。
いつだったか、父親が
「本当の両親にあいたいか」
といったことがあったが、英美里は
「自分のアイデンティティに興味はあるけれども、それを知ったからと言って今自分がいることには変わりがないから、あえて会いたいとは思わない」
とさばさばした感じで言った。
「そっか、私も英美里の両親のことは知らないんだ。生後5日で英美里は、私たちのもとに来たから実両親とは、連絡の取りようはないんだ。すまん」
と父親は謝ったが、英美里はにっこりと笑って
「今のお父さん、お母さんが私にとって本当の両親だよ。実の両親には生んでくれたことには感謝しているんだよ。ただ それだけだから」
といった。
そういいながらも、英美里も自分のアイデンティティーには少なからずも興味はあった。
自分の容姿をみれば、明らかに日本人ばなれしていた。
子供のころから、感じていた。
自分が周り子と違っていることを。
2次成長も他の人よりも早く、背の高さはいくらバスケットをしていたからとはいえ、女子の平均身長をはるかに超えていたし、美形ではないにしても顔の彫の深さは明らかに日本人とは違っていた。
おそらく、日本人以外ののDNAを受け継いでいると思っていた。
大学に入ってからもバスケットは続けていた。
そんなに上手くはないが、背があるためそれなりにチームの役には立っていた。
ゴール下でのリバウンドは、うまく処理できた。
実業団からもしつこく声がかかったが、チーム自体は、必勝型のスポコンチームではないため楽しくやっていた。
なによりも、両親に感謝したくて、英美里は工学部で素材の研究をしていた。
だから、オシャレよりも作業服を着ているほうが多く、同年代の友だちから、もう少しオシャレをするように言われるのだが、その気があまりなかった。
よって、彼氏がいたこともない。
告白されたことはあっても、今一歩踏み切れない自分かいた。
理由はわからないけれども、今はその時期ではないと思っていた。
それに、父親の影響なのか、機械いじりが大好きで、父親と一緒にバイクやら車を向上の片隅でいつもいじっていた。
母親は、そんな英美里をみてやきもきしていたが、父親はまんざらでもなさそうだった。
そんな英美里に成人式の着物を着つけながら
「スタイルいいんだから、すこしオシャレしたら、あなたもてるわよ」
といったことがあったが
「いいの、今は勉強とバスケでいっぱいだし。私に彼氏でもできたらお父さん悲しむでしょう。だれもお父さんの趣味に付き合う人いないくなるでしょう」
と英美里は振袖振りながら言った。
母親は苦笑していたが、成人式の写真を撮る気に父親はうれし泣きをしていた。
就職活動をしない気でいたら、父親から
「すこし、外で勉強したほうがいい、それから、此処を手伝えばいい」
と言われたので、すこし就職活動をしてみようと思った。
といっても、父親の工場は、特殊なボルトを作る工場だったので、その方向性で就職を探した。
ふと目に留まったのが
"米軍基地や外資系民間企業がクライアントの総合設計・施工会社"
の求人だった。
何故だか、ひどく気になった。
その会社のホームページを見ると"佐世保"と地名があった。
検索で"佐世保"と市役所がトップにあったのでクリックした。
サイト内の検索をしていると、一枚の写真が英美里の目に留まった。
"西海橋"
と、英美里はその写真が、夢の中で見るたものだということを本能的に理解した。




