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最終話 — 後日談

「国王陛下、御子は無事にお生れになられました。妃殿下もお元気でございます」


 ディアベル魔王国城の西側には、医療棟と呼ばれる別棟がある。以前は医療室が城内の一角にあったが、一度流行り病が猛威を振るった際にそれを治療する部屋が城内にあっては、感染域が広がりやすいことや隔離が難しいこと、感染から一番守らなくてはならない国王の側に患者を集めてしまうことへの危惧により、別棟として広く明るい医療棟を造った。

 その王室専用の一室で、出産の助手をしていた女官の恭しくも明るい声に、クライヴ国王は弾けるように立ち上がった。


「まことか!で、どちらだ?」


 王妃付きの女官は、少しだけ間を置いて告げた。


「男女の殿下お二人にございます」


 控室に詰めていた国王とその親族たちは、一段と騒がしく歓声を上げた。

 まだ古い因習を保ち続けている他国では、多産は獣や魔獣と同じと蔑まれ、男児一人を残してすぐに処分されたり、女児なら里子に出されたりした。

 しかし、この国は違う。意味のない差別や命を粗末にする行為は、王族であっても厳禁とされ、他国以上に厳しい処罰を与えられる。

 その上に人口の少ない小国だけに、どんな形であれ子供が生まれ増えることを王は感謝し喜んだ。

 それが、今は己の身に二倍の幸福となって起こったのだ。歓喜の極みに達した国王は、紅色の瞳に薄っすらと涙の幕を張り、それが溢れることを唇を引き締めて耐えながら王妃のいる産室へと入って行った。


「陛下…」


 治療師に【回復】と【洗浄】を掛けられながら寝台に横たわった王妃は、まだはっきりとしない意識の中で愛する夫を見つけて微笑んだ。


「…ありがとう、フェリシア。よく頑張ってくれた……」

「いいえ、ずっと陛下の暖かな魔力を感じておりました。ですから何の不安もなく安心して臨めましたわ」


 妻からの確かな愛情を感じ、とうとう国王の双眸から雫が転がり落ちた。その雫を、妻はまだ力の抜けた腕を上げて指先で拭った。


「父王が泣くものではありませんわ。王子や王女の手本となって、立派な王の導を示して下さいまし。そして、王子が素晴らしい王として戴冠した時、二人で嬉し涙を存分に流しましょう?」

「ああ、ああ…そうだな。それまで頑張らんとな」


 懐妊報告が届いた当初は、王を含む周りの者達全員が心配した。婚姻した時の年齢ですら適齢を行き過ぎたと言われ、子は望めないのでは?と噂されていた。しかし、それを見事に裏切っての懐妊だ。加えて、検診で心音が二つと告げられた時、喜びと同時に不安は一気に増した。

 それだけに、何事もなく無事の出産は一際喜ばしく思ったのだ。

 王子と王女。一度に跡継ぎも愛らしい娘も迎えられた。クライヴ国王は、この上なく甘い幸福を味わった。


「それでも一言だけ言わせてくれ。フェリシア、愛しているよ。死ぬまで…いや、永遠に愛を誓うよ…」

「はい。陛下、私もずっと貴方を愛しておりますわ…」 


 その日、国中に王子と王女の誕生が告知され、今か今かと待ちに待っていた国民は、その報に一気にお祭り騒ぎへと突入した。

 

 王子は金茶の巻髪と紅の瞳、王女は漆黒の真っすぐな髪と蒼い瞳。両親を程よく二等分した美しい兄と妹だった。

 兄王子は泣き出す度に辺りを騒乱に巻き込み、これは早めに魔力操作を教えなければと大人たちを慌てさせた。

 妹姫は、なんと聖女しか持ちえないスキルを持って生まれ、王妃を失神寸前にさせるほど驚かせた。

 女神様の加護(ギフト)ではなく、遺伝としか説明のつかない光属性と稀なる神聖属性の固有スキルに、王達は大混乱に陥った。


「これは…聖女様ではなく、聖姫様…」


 極秘に呼ばれた高名な大神官の見定めに、その称号が燦然と輝いて出現した。

 古の昔、何処からともなく現れて主神を祀る大神殿を創り上げた姫君が、そう称されていたと大神官は語った。

 幼いながらも利発な王女はその話を聞いても穏やかに頷き、平伏した大神官の手を取って立たせた。


「私は神様ではないの。人々が笑って幸福に暮らせる世界であればいいだけ。もちろん父様と母様と兄様、そして私も!」

「ええ、最後の瞬間まで、幸せに笑っていられる――――」


 王女と王妃は、にっこりと笑ってそう答えた。


 



THE END

この後日談をもって「聖女は拳を掲げる!~人生、笑ったモン勝ち!~」は終了となります。

昨年末からの、長いお付き合いありがとうございました。

お礼や本あとがきは、活動報告をご覧ください。

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