↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ルール国のロミジュリ20XX』  作者: 夜明けの碧
第一章 ルール国——義務と禁止が刻まれた国の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/72

第七話 はじめての手繋ぎは、安全確保のためだから

シリアス回のはじまりです。


「護衛のみんなは朝まで起きない?」

「ぐっすり眠っているのを確認してきました、ご安心くださいジュリエット様」

「彼らには明日、旧運河沿いの名物のお肉をいっぱいご馳走しよう……」


(それで私のわがままを許してください!)


ムストもネヴァも自然崇拝の国なので、今は月の女神様に祈って(謝って)おく。


緊張しながら宿を出ると、体がブルッと震えた。

旧運河周辺の気温は夜になると下がるので、少し肌寒い。


私とマーサは持ってきた服の中でなるべく装飾の少ない、動きやすい格好をしてきたつもりだけど、変じゃないかなと少し不安になる。


だって……


宿の裏口で待っていたのは、月光に照らされた継嗣殿下。軍服の襟元にあるリンドウの刺繍はムストの国花で、花の部分をぐるっと縁取る金糸とロミオの輝く金髪が、月の淡い銀の光に包まれているようだ。


(うぅっ、いつもかっこいい……)


今が夜でよかった。頬の赤みが隠せるから。

そんなことを思いながら近づいていくと、ロミオとベンが周囲を素早く見回して話しかけてくる。


「姫君。時間どおりだ」

「……はい」


声が、自分の耳にだけ上ずって聞こえる。マーサが肩にマントをかけてくれる。

その手が震えているのは、肌寒いからだけじゃないことはわかっている。

巻き込んで申し訳ない気持ち、ごめんマーサ。


昼間に来た旧運河に着き、ゴンドラの底板を外すと、周囲の闇より暗い穴の中に階段が見える。どこまで続いているかわからないのがちょっと……いや、だいぶ怖い。

でも行くって決めた!


私の脳内が忙しく動いている間に、ベンがランプを掲げ先に降りていく。


「殿下、姫君、侍女殿、降ります。順番は忘れないでください。俺、殿下、姫君、マーサ殿。灯は前後だけ。距離は1m以上を保ってください。アラームが鳴ったら、全員終わりですよ」


昼間に決めたルールだ。ネヴァとムストが近づきすぎないための距離の工夫。ベンが先頭、マーサが最後尾。あいだにロミオと私。前後の灯だけを頼りに、間隔を空ける。


足元が悪い。石は湿って、手すりは錆びていて、土壁は指が滑る。

ランプの光は前後にしか届かない。真ん中の暗がりで、次の段が見えなくなる。


「姫君、手を。ここは危ないから」


前を歩くロミオが、少しぎこちない仕草で手を差し出す。

お父様とでさえ手を繋いだ記憶がない私が狼狽えるのは、あたりまえよね?

自分で言うのもなんだけど、世界屈指の禁止事項をもつ(たぶん)、超絶箱入り娘なのよ?


────触れ合うのはだめ。でも、階段から落ちたらもっとだめ


指先が触れた瞬間、うなじの唸りが遠のく。警告のアラームも鳴らない。

わかっていたはずなのにドキドキする。

そう、これは検閲官に見つからないかと心配だった気持ちのドキドキ。

そして、乙女の恥じらいなのよ……


脳内で必死になって言ういいわけは、誰に対してのものなのか。


彼の手のひらは、思ったより大きくて、少しゴツゴツしていて、自分と全然違ってて。やっぱり熱くて、しっとりと汗ばんでいた。


(……手、汗? どっちの?)


自分の鼓動がうるさくて、階段の軋みと区別がつかない。薄暗い中で何が起こるかわからない恐怖と同時に、なにか別のものが同じ場所でぶつかっている感じがする。手汗をかいて、嫌われちゃわないかしら?


今すぐ手汗をかかない体質にしてほしいと、ジュリエットは今宵2度目の祈りを月の女神様に捧げるのだった。


+++


同じ頃、ロミオも激しく葛藤していた。


(やばい……手汗が)


落ち着きたくて、先を歩くベンの茶色い頭をじっと見つめる。襟足、ちょっと寝癖がついてるぞ?よかった、ベンの髪型はロミオに今一番必要な「冷静さ」に一役買ってくれている。


ただ、繋いでいない方の自分の手が、何度か空を掴むのが見えた。それか、襟元の刺繍に触れてみたり、軍服の裾を引っ張ってみたり。


落ち着き、頼りがいのある年上の男(自称)として、これはどうなのか。

静まり返った空間の中で、妙に自分の行動を意識してしまう。


……錆びていてもいい、手すりをつかもう。

そう、これはネヴァ国継嗣であり、成人したばかりの女性への安全上の配慮なのだ。


手すりも手も。しっかり握るのは下心のはずがない。


前を行くベンの気配がわずかにピリついた。この男は一流の武人なので、よくない何かを察知したのだろう。

浮ついた意識を切り替えると、暗がりのどこかから視線を感じる。

見られているが、襲いかかってくる様子はない。


ベンは明かりを持つ反対側の手を剣の柄にかけて威圧を放つ。


特に仕掛けてくる気配がないため、錆びた空気の奥に向け、息を殺しながら進む。

階段が終わると、鉄の匂いがどっと押し寄せた。油と、湯気と、古い布。

発電機が、どこかで低く唸っている。


灯は少ないのに、人の気配は想定より多い。

通路の両脇に、布で仕切った区画がズラッと並んでいる。子どもを叱る低い声、壁に沿って並ぶ大きな袋。


ここは何だ?人が住んでいる?


「地下」の存在など、これまで一度も教わってこなかった。ジュリエットに視線を向けると、彼女も驚きに大きな瞳を瞬かせていた。


明らかに「地下」には生活がある。


息を飲む音が、自分の喉から漏れた。ベンが警戒レベルを最大に引き上げる。

マーサがジュリエットの背中にそっと手を寄せる。


気づけば、たくさんの人が立っている。布の陰から出てきた者、通路の角から出てきた者。年齢はバラバラで、こちらの様子をうかがっている。

武器らしいものは見えないが、囲まれている。剥き出しの敵意をビシビシ感じる中、白髪混じりの髪はボサボサで、無精髭が生えている男が一歩前に出た。


「ようこそ地下へ」


少ししゃがれた低めの声でロミオたちへ呼びかけてきた。

どうやらリーダー格のようだ。灰色の目がロミオたちを値踏みするように睨め付ける。


「動くなよ!そこの茶髪、そう威嚇するな。あと金髪と黒髪の娘。どう見てもいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんだ。その軍服、検閲じゃねえよな。偶然と好奇心の結果か?」


年齢不詳の男の視線が、ジュリエットの黒髪と幅広の白い髪の房、紫の瞳に止まる。総領主家の色。ネヴァの継嗣だと、大人ならわかる色だ。

次に、ロミオの金髪碧眼と、軍服のリンドウへ視線が移る。


「おいおいマジかよ……両方、継嗣か。冗談じゃねえ」


ロミオが、背筋を伸ばす。継嗣としての圧倒的オーラを放ちながら男に言った。


「私たちは、敵対するつもりで来たのではない。ここへ続く入口を見つけてしまった以上、見ぬふりはできなかった。あなた方は——」


「説明する『義務』はねえよ。あるのは、俺たちが生きのびるか、これから死ぬのかの話だ」


男は吐き捨てるように言って、少し躊躇し、言葉を選び直す。


「ロレンスだ。ここではそう呼ばれてる。お前らを殺すより、見極めたい連中がいる。……俺もその一人だ」


周囲にいる視線が一斉に鋭くなり、囲みが狭まる。

男───ロレンスはそれを視線で制しながら続けた。


「ここへ続く入口のことを誰かに言ったか?もし言っていたら、ここは終わる。俺たちはすぐに出なきゃならねぇ」

「行く当てはあるのか?」

「この人数で潜める場所が、ほいほいどこにでもあるわけねぇだろが。でも黙って狩られるくらいなら、活路を見出す」

「もし誰にも話していないと言ったら?」


ロレンスは口の端をニヤリとあげ、少し愉快そうな表情で平然と言った。


「交渉だ」



手汗が気になる思春期の二人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。