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『ルール国のロミジュリ20XX』  作者: 夜明けの碧
第三章 エリュシオン国——見ないまま、ぬるく茹で上がる国の物語

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第四十七話 旅をすると見える、それぞれの気づき

「少し頭痛がしてさ」  


キューが、道端の大きめな石にすとんと腰を下ろした。  

途端にパックの顔色が変わる。一瞬パックとキューの視線が絡んで、パックが大きく息を吐き出した後に、


「ちょうどいいから、俺も休もっと」


と言って、近くの草むらに座り込んだ。


「キューのために、ちょっと休もうじゃないか」


と、ドーラも続いてパックの近くに腰を下ろす。キューの顔色は悪くないし、あまり辛そうに見えない。私とロミオがケンカしないように、間に入ってくれたんだと思う。


「すまない、キュー。気づかなかった」

「別に、少し頭痛がするだけだから。休めばよくなるから」

「無理はしなくていい。一旦休んで、それでも回復しなければパックに背負ってもらうか?私はジュリエットを背負うから」

「おぉ~い、俺キューおんぶして歩けねぇーよぉ~」

「いや、おんぶいらないから!」  


ロミオ、まだ私を背負って歩く気なのね。

でも、さっきまでの感情の高ぶりが嘘のように、頭が冷えて冷静になれた。みんなで旅をしているのに、私の態度はよくなかったと思う。足手まといになりたくないからと意地を張って、かえってみんなに迷惑をかけることになれば本末転倒だわ。ロミオやみんなにちゃんと説明して、手当をして、背負われなくても目的地まで行けると伝えてみよう。


「実はね......」


素直に靴擦れしていることを告げると、ドーラに怒られた。なんで早く言わなかったんだいって、小さな巾着袋から絆創膏を取り出して貼ってくれた。

ロミオは、捻挫やケガじゃなくてよかったとホッとした顔をした。ごめんなさい、ロミオ。心配かけちゃった。


「姫さん、足湯できれいにしたら、俺がもらった軟膏つけなよ。あれ、効くよ?」

「なんか、しみそうでヤダな」

「だぁーめ」


キューが許してくれなかった。

うぅ......。 




+++




結論から言うと、私はジュリエットを背負うことはなかった。他のみんなも、自分で歩くというジュリエットを支持したからだ。靴擦れを甘く見てはいけないと主張したが、頑張れるというのでハラハラしながら見守った。手を出さないというのは、案外つらいものだと学ぶ。

旅は人を成長させるというが、本当だな。


目当ての足湯に着く。街道脇に屋根のついた東屋があり、その下に石で囲まれた細長く浅めの湯船があった。湯気がゆらゆらと立ちのぼり、土と鉄の混じったような匂いがした。先客はいないようだ。


「これが、足湯なのね」

「靴と靴下を脱いで、ふちに座って、足だけ浸けるのさ」


ドーラはさっさと靴を脱ぎ捨て、豪快に足を突っ込んだ。


「あ〜〜〜〜〜、生き返る〜〜〜〜〜」  

「俺も俺も!」

 

続いてパックが素早く靴と靴下を脱ぎすて、足湯につかる。


「ほえぇぇぇ、マジで気持ちいいなぁ」

「そうだろ、そうだろ!」


ドーラがうれしそうに相槌を打つ。

いつのまにかキューも足湯に入って、目を閉じたまま頷いている。

ジュリエットは恐る恐る足先から湯につかった。少しビクッと体が震えたような気がした。  


「傷にしみて、痛むか?」

「……お、もったより大丈夫かも」  


ジュリエットが両足をしっかり湯につけ、安定した姿勢になったのを確認してから、私も足湯に入る。底の石は平らで、ぬめりもない。縁の高さも、座って足を下ろすのにちょうどいい。


「湯温、問題なし。足場、問題なし。滑落の危険、なし」

「デンカ、足湯は戦場じゃねぇぞ」  


パックが呆れた声を出した。

今回のことで分かったが、ジュリエットは頑張り屋で無茶をしやすい。私がしっかりと様子を見るのが重要だと思う。私がジュリエットを守らなければならない。


ジュリエットは体が温まってきたのか、わずかに頬が紅潮している。可愛い。

いつまでも愛でていられるな。でも、ジュリエットばかりに気をとられてはいけない。キューは体調が万全ではないのだ。このチームのリーダー(自称)として、全体を公平な視点で把握し、対処しなければならない。


じぃっとキューの様子を観察する。


「え?俺、殿下に睨まれてる?」

「キューが色違い帽をデンカが買えなくてよかったって、喜んだからじゃね?」

「え?いまさら??てか、普通に男三人のお揃いは嫌だろ?」

「......」


睨んでない。心配がゆえの、体調観察だ。




【キューside】


足の先から、じわじわと熱がのぼってくる。 血が全身に巡ってくるようで、常に全身が強張っている感覚が薄らぐ。ありがたい。


「キュー」  


隣から、小さな声がした。いつの間にか、ジュリエットが俺の隣に移ってきていた。ロミオは向こう端で、湯の湧き口の石組みを真剣な顔でのぞき込んでいる。何を調べてるんだ、あいつは。  


ジュリエットは湯の中で足先をそろえて、少しだけ俺のほうに体を傾けた。


「さっきは、ありがとう」  


声をひそめて、まっすぐに。


「……何が」

「休みたいって、言ってくれたこと」  


ばれてた。 顔を上げると、ジュリエットがこっちを見ていた。紫の目が、湯気でやわらかく滲んでいる。


「私ね、自分が何もできないのが、いちばん嫌なの。なのに、できるふりをして、もっとみんなに迷惑をかけるところだった」

「……わかる」  


口が勝手に動いた。 ジュリエットが、少し驚いた顔をする。それから、何かを確かめるみたいに俺の顔を見て、ふわっと笑った。


「そっか。キューも、なのね」  


それ以上は、何も聞かれなかった。


「だから、ありがとう」  


────あ。  


心臓がわしづかみにされたみたいにギュッとなった。

姫さんが笑っているところなんて、何度も見てる。

なのに、なぜ。


なんとか平静を装って、わざとぶっきらぼうに答える。


「……別に。お礼を言われるようなことじゃない」

「ふふ。そういうことにしておくわね」  


ジュリエットは前を向いて、湯の中で足をぱちゃぱちゃと揺らした。俺も前を向く。顔が熱いな、湯あたりかもしれない。


「暑くなったから出るわ」


ドーラから渡されていた携帯用タオルで足を拭いて出る。東屋からちょっと離れよう......。俺の再刻印は心臓に影響を与えるのかもしれない。

そっと呼吸法を始める。落ち着け、リラックスだ。


「キュー、足湯出たんなら水分補給だよっ」

「おーーっ」


ドーラがいる給水台に向かう。そのとき、向こう端からロミオがざぶざぶと湯をかき分けて近づいてきた。足湯の中を歩くな。


「キュー、朗報だ」

「なんだよ?」

「この湯は、地下の水脈から湧いている。通信機でここの湯の成分を照合したところ、鉄と塩分を含み、血の巡りをよくする効果があるらしい。頭痛や耳鳴りに効くかもしれない」  


ロミオは大真面目な顔で、通信機の画面をこっちに向けた。


「エリュシオンは水資源に恵まれた国だと言っただろう。向こうに着いたら、水のことをもっと詳しく調べてみようと思う。君の体に合う水が、きっとあるはずだ」  


こいつは。  


ついさっきまで、ジュリエットのかかとのことで頭がいっぱいだったくせに。  

俺の頭痛のことも、ずっと考えていたらしい。


──── 勝てるわけがない。


は?勝てるわけないって何が?

俺は頭をぶんぶん振って、浮かび上がった疑問の答えを打ち消した。


「それより殿下、お湯の中を歩くなよ」

「はっ、そうだな、すまない。気をつけよう」

「まぁ、いいけど。調べてくれてありがとな」

「うむ」  


満足そうに頷くロミオ。いいやつなんだよな、本当。


「デンデン、姫ちゃん、そろそろ上がんな~」

「はーい」

「わかった」


二人が真っ赤になった足先を見ながら面白がって笑っている。差し出されたお水を美味しそうに飲む姿もいつも通りの光景で、俺はそれを普通に見ていられる。


そっちに気を取られていたから、パックが何をつぶやいたかなんて聞こえないし、知らない。


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