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『ルール国のロミジュリ20XX』  作者: 夜明けの碧
第一章 ルール国——義務と禁止が刻まれた国の物語

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第四話 婚約の知らせは、速報で聞く


おのれの至らなさへの自己嫌悪、ロミオと初めて手を触れ合わせた乙女の一大事、そこにうなじの唸りが鳴り止む異変まで加わったトリプルコンボで、眠れぬ夜を過ごしたジュリエットはひどく疲れ切っていた。


儀式で花を落とした悔しさは別として、控室で直接手を合わせたあの一瞬が、頭から離れない。

ありったけの勇気を振り絞って、ロミオの差し出した手に自分の手を重ねた。

初めて男の人と、手と手が触れ合った。思い出すたびにキャーッと心の中で叫び、挙動不審になる。


(やっぱり、かっこよかった……)


性懲りもなく、あの日のロミオを思い浮かべる。

何度も何度も、直接手が触れ合ったあの瞬間を思い出してしまう。

あと、うなじでずっと唸っていた音が消えたのも引っかかる。理由は全然わからない。


感情のふり幅が大きく、悔恨と恥じらいと驚愕が目まぐるしく入れ替わる。


「……さすがに疲れたわ。体が重い」


いつもなら侍女のマーサが朝の支度を手伝ってくれるのだが、落ち着かない気持ちを知られたくなくて、一人でできると断った。


朝、いつものように放送が始まる。

ネヴァ国内だけでなく、ムスト国の近況を知るには、この放送を見るしかないのだ。


鏡台に座り、髪の毛を梳かしながら流れてくるニュースを聞いていた。


その時、信じられない内容が飛び込んできた。


「速報です。ムスト国より、誠に喜ばしいお知らせが入りました。継嗣ロミオ殿下と、ムスト総領主家の血筋であるロザライン・ドミナ嬢との婚約が先ほど発表されました。昨日の平和調印式を終えられ、若いお二人がさらなる両国の平和と発展に寄与されますことを、心よりお祝い申し上げます。続いてのニュースは……」


一瞬、自分の呼吸が止まった気がした。

若い女性アナウンサーの声は続いていたが、意味のある言葉として耳に入ってこない。


「ロミオに婚約……者……」


いとこが婚約した、喜ばしい知らせ。お相手の女性の名は聞いたことがある。

家庭教師の先生がお手本になさいませと言っていた、淑女の中の淑女と名高い彼女だろう。


私と同じ、黒い髪と前髪の白い一房、紫の瞳を持つ、ロミオと同じムストの人。

昨日、みっともなく花を落とした自分と違って完璧な令嬢と並び、彼女に笑いかけるロミオの姿が思い浮かぶ。


なぜ、私はこんなにも動揺しているんだろう…… どうして、この胸はこんなに痛むの?


説明がつけられない衝撃と、昨夜からの疲れが重なり、全身が鉛のように重く感じる。

気力がなくなり、今日はもう動けそうにない。


ジュリエットは朝の身支度をあきらめ、ベッドにまた潜り込んだ。


思考のループにハマり、枕に顔を押し付ける。


ダメよ、考えない。 禁止の国の継嗣だもの、禁じることはお手のもの。


私は、ロミオのことを考えてはいけない。

あの碧い瞳や熱い手を思い浮かべてはいけない。

何より、この想いや気持ちに名前をつけてはいけない。



+++



ムスト国総領主館、大広間。まばゆい光が降り注ぐ美しい朝。

国の臣下が勢ぞろいして整列し、総領主であるレムスと総領主夫人の前にロミオと一人の娘が進み出る。


紫の瞳、きれいに結い上げた黒髪、前髪の生え際から伸びる白いひと房の毛束。

義務の国ムストでは、男性も女性もうなじにある刻印を常に見せるようにしなければならない。

その女性は、総領主の血筋を表す色を、欠けなく持っていた。


ロザライン・ドミナ。ロミオと同じ年の彼女は、たおやかな笑みを浮かべ継嗣の横に並び立っている。

二人は、レムスに向かって深く礼をした姿勢のまま、総領主の言葉を待つ。


「ここに、義務の国ムストの継嗣ロミオ・ムストと、ドミナ家令嬢のロザライン・ドミナの婚約を命じる。これは公の決定であり、覆すことは許されぬ」


「承りました」


声を揃えて了承の意を示し、ロミオとロザラインが顔を上げると、総領主レムスはうなずきで返した。

無表情に近い父上と違い、母上は口角を上げロザラインを見つめている。

ロミオの相手に総領主家の色を持つ女性を——この婚約は母上主導で決められた。


だが、式典の場にお祝いムードも祝福の言葉もない。列に並ぶ者たちは、黙って礼をするだけだ。


ロミオはロザラインと共に、居並ぶ者たちに向かって宣言する。


「本日より、ロザライン嬢とともにムストの義務を果たしていく。総領主家にふさわしい伴侶を迎えられたことを、誇りに思う。未熟な面があると思うが、皆も協力してほしい」


「はっ」


彼らは短く応じ、再度礼をとる。


先ほどよりは、幾分空気が和らいだ気がする。

顔を上げた年配の者が、ロザラインへ視線を向けそっと息を吐いた。

この婚約は父上が認め、母上が喜び、家臣が安堵する。いいことなんだろう。


儀礼官が閉会を伝える。


「ムスト国の繁栄と次代の安寧を祈念し、本日の婚約式を終了いたします」


父上は一言も発せず、この場を後にする。母上がこちらへ小さく目配せを残して、その後に続く。

ロミオは、二人の背中を見送るしかなかった。



+++



ムスト国継嗣の婚約は、放送局に速報として伝わり、トップニュースとなった。

この知らせはネヴァやその他の国々にも、すぐに届き拡散されていく。


式のあとで少し疲れていたが、公務は待ってくれない。この後の予定を頭の中で並べていると、声をかけられた。


「ロミオ様、この後少しお話ししてもよろしいかしら?」


たった今、自分の婚約者になった女性が穏やかな笑顔を向けてくる。

彼女は少し遠い親戚筋に当たるが、「黒髪・前髪の生え際の細くて白い毛束、紫色の瞳」という、総領主一族の色を持っている。対して自分は金髪碧眼。総領主家の色を一つも持っていない。


周囲の者は皆、総領主夫人である母、ヴイヴィアン・ムストにそっくりだという。確かに自分は母似なのだろう。

だが、総領主の血筋を示す色が全くないことは、幼いころからのコンプレックスだった。

父が自分に無関心だということは、物心つくころにはわかっていた。

自分の色を一つも持っていない不貞の子だと、疑われているからでは?と噂されていることも知っている。


そんな父が、ロザライン嬢との婚約を内々で進めると伝えてきたとき、明らかに機嫌がよかった。

喜んでくれている……のだと思う。

彼女は淑女の中の淑女と呼ばれる、完璧な存在。ならば、自分もより一層父に認めてもらえるような、完璧な存在とならなければいけない。


それがムスト国、継嗣としての「義務」だ。


「ロザライン嬢、応接室でいいだろうか?」

「もちろんです、ロミオ様」


ベンと彼女の侍女と一緒に応接室へ移動する。

本当に所作の美しい令嬢だ。

思わず自分の背筋が伸びているかどうか、衣服の乱れがないかどうかが気になり、手がせわしなく動き始める。


半歩後ろを歩くベンが、即座に茶化してくる。


「殿下、美女と一緒にいるので緊張するのはわかりますけど、スマートに振る舞うなんてしょせん無理なんですから、いつも通り少々不器用な素の殿下でいた方がいいですよ。最初からバレていた方がこの後が楽です、ね?」

「おまっ、婚約者の前でかっこつけない男がいるのか?」

「殿下の場合、そのかっこつけがかなりの確率で裏目に出るんですよ」

「んなっ」


なんてことを言うんだ!緊張は少しほぐれたけど、納得がいかない。

女性を満足にエスコートすることもできない男だと婚約者に思われるなんて、情けなさすぎるだろう。


でもベンがわざとこういう物言いをしたこともわかってる。わかっているのだが……

後ろで婚約者殿が侍女と一緒に笑いをこらえているような気がする。

気のせいだと思いたい。


でも、おかげで婚約者との初めてのお茶会はとても和やかに進んだ。

彼女はとても気が利いていて会話も上手だし、淑やかで素敵だ。時折はにかみながら、頬を赤らめる様子を見ていると、好意を抱いてくれているのだと思う、たぶん。

これからは彼女を唯一と定め、愛していかなくてはならない。


彼女は愛されるべき存在だし、愛を返してくれるだろう。

父に認められない自分を支え、ともにムストを導いていってくれるはずだ。


その黒髪に、前髪の白い髪の一房に、その紫の瞳に


違う女性の姿がちらついたとしても、私が愛するのは彼女であるべきだ。

ジュリエット、トリプルコンボにさらなる一撃で、クワトロコンボでベットに逆戻りです。

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