第三十六話 優しい夜の訪れと、全員で囲む幸せの朝
キューとパックが休む部屋の扉が閉まると、居間に静かな空気が満ちた。
薬草茶の匂いが、ふわりと立ちのぼる。
「二人とも、座りな。体が温まるお茶淹れてやるよ」
ドーラがてきぱきと鍋に湯を沸かし、三人分のカップを並べていた。
今日一日の出来事を思い返し、大きく息を吐く。救出作戦が上手くいった安堵と、キューのやつれた様子への不安。ぐるぐると渦を巻く感情を持て余していると、ロミオが静かに口を開いた。
「ドーラ殿、今日は本当にありがとう」
「よしとくれよ。あたしはお店でお茶飲んでただけさ」
「キューをこの家に受け入れてくれたことも含めて、とても感謝している。キューのあの様子では、国境を超えることは不可能だった」
本当にそうだ。ここまで帰るのがやっとという状態で、地下で別れてからキューがどんな目にあったのかと思うと、胸が苦しくなる。
「当初は数日経ってから国を出るという予定だったけど、キューが回復してからの方がいいね」
「あぁ、今の状態で旅は無理だ。しっかりと体調を戻してからの方がいい」
「明日の式典は通常通り行うでしょうから、使節団が国を出てからで十分よ」
今後の予定変更について話がまとまった時、ロミオが徐に口を開いた。
「ドーラ殿。あなたに話しておきたいことがある」
「ん?」
「私たちが何者かについて。地下へ逃げることになった話はしたが、なぜ逃げなければならなかったかをあえて話していなかった。すまない」
ドーラはカップを両手で包みながら、ロミオと私を交互に見た。お茶をゆっくりと一口飲みながら、
「あんたらが訳ありなのは、最初からわかってたよ。言いたくなったら言えばいい、そう思ってたんだ」
と言って、笑ってくれた。
その言葉に、表情に、心が温かくなる。
「あのね、ドーラさん。私たちが元ルール国を分けた国から逃げてきたって話したよね」
「あぁ、そう聞いたよ」
「私、禁止の国ネヴァの継嗣、いえ、国を勝手に出たから元継嗣なの」
ドーラは驚いた顔をして、ロミオをみた。ロミオは大きくうなづくと、
「そして、私は義務の国の元継嗣だ」
と言った。ドーラは天を仰ぎ、ぶつぶつと独り言を言っている。
「大物すぎんのよ、あんたたち。ただもんじゃないとは思っていたけど」
「言うのが遅くなってごめんなさい」
「まぁ、しかたないよ。事がことだ」
私とロミオは、これまでの経緯をザッと話して伝えた。途中、怒ったり、時に涙ぐむドーラは、本当に「お母さん」みたいだと思った。
「あんたらの父親が碌でもないことはわかったよ。でも、よくも実のこどもにそんな酷い事ができたもんだ」
「私はずっと父は人が良くて、ちょっと過保護な所があるとしか見ていなかったんです。あんな恐ろしい一面を隠していたなんて」
「恐ろしい?」
ロミオがその言葉に反応した。
「えぇ、そうよ。お父様はムストを吸収して、昔のような王国を取り戻そうとしているの」
「王国……?」
「そう。父は自分こそが正当なルール国の後継者だと言って、今の総領主なんかじゃない、王国再編を望んでいるわ」
「それをしようとすれば両国で戦争になる」
ドーラは青ざめ、ロミオが悲痛な顔をする。
私は言いたくなかった言葉を告げるしかない。
「正当な、ルール国の流れを汲む後継者を持つのはネヴァだけだからと」
「なるほど、父上の弱点をつくわけか」
ドーラは一人、わけがわからないという顔をしている。
「私は、養子なんだ」
息を呑む音がした。
「こどもができずに母方の親戚筋から養子に迎えたと父上から聞いた。お前は色も血も、一つも受け継いでいないと突き放されたよ」
「デンデン……そうだったのかい」
「父はとことん私に興味がなかった。目を合わせず、会話らしい会話もした事がない」
私の置かれた境遇と真逆だ。私は過保護に囲い込まれ、ロミオは冷たく放置される。淡々と語るロミオの声が、少しだけ震えている気がした。
「完璧になって、父が誇れるような自分になれば認めてもらえると思っていた。勉学も、剣も、公務も、何かを成し遂げれば、父上は私を見てくれると。そう思って、ずっと頑張ってきた」
「ロミオ……」
「私はまるで見当違いの努力をしていたんだ。私の存在が気に入らない人の注意を引きたくて、愛情を向けて欲しくて、得られないのは自分のせいだと思っていた。でも、パックやキューたちと会って、私が悪いわけじゃないと言ってくれたから」
ドーラがガバッと勢いよくロミオを抱きしめる。怒った顔をしながら、ズビズビと鼻を鳴らして泣いている。
「デンデンっ、あたしもいるよ!そんな奴ら、ほっときな。あんたが悪いわけないじゃないの!」
「ドーラ殿......」
「あたしがデンデンを、そいつらよりずっとずっと可愛がるし、大事にするよっ」
「ど、ドーラ殿。私はもう十七歳で、とっくに成人を過ぎた大人なのだが......可愛がる?」
困惑するロミオがなんだか可愛くて、クスッと笑いが溢れる。
ロミオがジト目で睨んできた気がするけど、気にしない。
ドーラの逆側からロミオに抱きついて、
「私も大事にする、ロミオのこと」
と言ったら、ロミオは黙ってしまった。何か嫌だったかな?と様子をうかがうと、声を殺して泣いてるようだった。ドーラと顔を見合わせて、軽く頷きあう。
見ないふりをすることにした。これまで悲しい思いをしてきた分、私たちがいっぱい愛情を伝えていきたいな。
少しの間そうしていると、ロミオが鼻を真っ赤にして、目を潤ませながら「お茶を......」といったので抱きしめる手を離した。ロミオがものすごく照れている。
可愛い......。
そんなことを考えていると、ドーラが場の雰囲気を変えるように言った。
「それで、なんで姫ちゃんは神殿行きになったの?」
これも避けて通れない話題だな。私は覚悟を決め、説明を始めた。
「私がお父様を怒らせてしまったんです。元々ロミオは敵国の継嗣で、いとこで、婚約者がいるから、一度はこの恋を諦めようとしたんです。でもロミオが養子だって聞いて、思わずロミオと結婚して両国を統一し、二人で国をよくしていきたいって言ってしまったから」
「それで殴られたのか?」
いつのまにかロミオが険しい顔をして腕組みしながら話を聞いていた。
「殴った?」
ドーラさんは憤怒の顔をしている。
二人の剣幕にビクッとなるが、頑張って話を続ける。
「そ、そうです。お父様はひどく怒って、思いきり頬を打たれました。初めて見る恐ろしい形相で、すごく怖かった」
二人の怒りがヒートアップしているのを感じる。
続けても、大丈夫かしら......。
「そして、いきなり三日後にお父様と同じ年の側近と結婚しろって言われたんです。嫌だって何度も言って、やめてほしいとお願いしたんですけど聞いてもらえなくて。本当に神殿の地下に閉じ込められました」
「ん?今、『お父様と同い年』って聞こえたけど」
ドーラはありえないという顔をして聞き返してきた。残念ながら事実です。
しかも--
「そうです。お父様と同じ三十八歳で、私が十にもならない頃からずっと『嫁にほしい』って言い続けていたと聞きました」
「三十八......」
「十歳未満の時から......だ、と?」
喉の奥が、きゅっと締まる。あの時のことを思い出すと、今でも鳥肌が立つ。
私がその時の感情に飲み込まれている横で、ロミオとドーラが鬼の形相をしていることに気づかず、私は話を続けた。
「それでね、父に頬を叩かれた後にパリス――父が縁談を勧める側近が部屋に来て言ったの。『もう少し早くもらい受けられれば良かった』って。私はようやく十六歳になったばかりなのに。あっ、あと『それでも、まだ十分に愛らしい』って言ったわ。本当はもっと幼い方がよかったっていう意味よね?」
ロミオがテーブルをダンっと思い切り拳で叩き、お茶のコップがカタカタと揺れた。
「す、すまないっ」
「いいってことよ、デンデン。あたしも同じ気持ちだよっ」
「そのロリ......失礼、ペ、どは同じだな。幼女趣味......よくないな」
「ロミオ、隠しきれていないわ」
「そうだな、別の言い方......アラ、アラなんだっけか、小説で読んだ事があるのだが」
「アラフォーよ、ロミオ」
冷静に答えると、姫ちゃんは物知りだねぇと褒められた。私には恋愛小説を読むくらいしか娯楽がなかったので様々な作風の物語を読んでいるから、ネットスラング的な言葉も履修済みなのだ。
「その、アラフォーに変なことをされなかったか?」
ロミオが真剣な表情で問いかける。これは、嘘や安易にごまかすのはよくないわね。私は正直に言うことにした。
「変なことはされていないけど、手の甲にキスされて、気持ち悪かったわ」
その瞬間、ドーラが台所に行ってホカホカの温タオルを作って持ってきた。ロミオがそれを受け取り、両手を優しく、でも執拗に拭き始める。
もう、ずっと前の話よ?
一生懸命に手を拭いてくれるロミオと、満足そうに頷くドーラが面白くて、笑ってしまった。
+++
ジュリエットがそんな危険な男に執着されていたとは思わなかった。だいたい、娘を自分と同じ歳の男に嫁がせようと考える父親も父親だ。
私たちが力をつけて国へ戻ったら、速やかに両総領主には蟄居してもらおう。そのど変態、いや言葉がすぎるな。変態には、従者として随行してもらおう。雪景色の中で温泉が楽しめるムスト最北端の北嶺あたりが適切だろう。
そんなことをつらつらと考えていたら、ドーラがしみじみと言った。
「姫ちゃんはすっごく可愛いもんね。黒髪はツヤツヤだし、その紫の目もとても綺麗だよ」
「同感だ、ドーラ殿!」
ジュリエットは髪色と瞳が綺麗なだけじゃない、丸いほっぺも可愛いのだ。思わずジュリエットの、うっすら赤くなったまぁるい頬を指でスリスリと撫でる。モチモチしている。これはずっと触っていられるな。
誰も止めないのをいいことに撫で続けていると、本音がついこぼれた。
「私の髪も黒ければな......黒は憧れの色だ」
仮装祭で黒髪の鬘をつけたことを思い出す。ジュリエットも思い出しているのか、懐かしそうに目を細めた。
「デンデンは金髪碧眼で王子様の色だし、そのままでいーじゃないか」
「私は小さい頃から総領主家の色を持たない自分が嫌だったから、今でもそれがコンプレックスなんだ」
今まで誰にも話したことがなかったけど、なんだかするりと言葉が出た。
それにジュリエットが強く反応する。
「そんな!ロミオの金髪はとても美しいし、貴方に似合っているし、かっこいいし。碧い瞳は澄んでいて、穏やかな海の色で綺麗だし、鼻筋も」
「姫ちゃん!姫ちゃんっ、デンデン恥ずかしがって悶絶してるよ」
ジュリエットがそんなことを言ってくれるなんて。直接褒められたのは初めてだ。
とてつもなく恥ずかしいけれど......うれしい。
「ジュリエットにかっこいいって思ってもらえるなら、金髪碧眼も悪くないな」
「ロミオの金髪も、碧い瞳もかっこいいし、大好き!」
「デンデンは王子様の色が似合ってるよ!」
あんなに嫌だと思っていた自分の色だが、二人からこんな風に言われると、これまでとは違った気持ちで見つめる事ができそうだ。
そんな、嬉しい気持ちでつい口走った軽口が、この後謝罪の嵐を巻き起こす。
「私は黒髪、紫の瞳が大好きだ!!」
【ドーラside】
バカじゃないの。せっかく悲しい過去の話から甘い雰囲気に変えられたのに。
完全に墓穴を掘ったデンデンは今、姫ちゃんに必死で弁解している。
黒髪・紫の瞳だから好きになったの?とか、違う色だったら好かれてなかったんだとか、拗ねる姫ちゃん。デンデンが失言だったと、平謝り。
容姿で好きになったわけじゃないまでは良かったんだけど、初めて会った時から可愛いと思っていたと言ったら、初めて会ったのはいつ?となって、ジュリエットが四歳の時と、あらぬ誤解を招く発言をしたり。デンデンは、私も五歳だったから変態ではないとか、何とか。
ひとりきり騒いで疲れたのか、姫ちゃんがため息をつきながら話題を変えた。
悲しげな顔をして、
「お父様は、私に継嗣としての役目なんて、最初から期待していなかったの。まだまだ未熟なのはわかっているけど、たくさん勉強して経験を積んで、ネヴァのみんなが幸せでいられる国にできたらいいなって思っていたんだけど」
「ジュリエットはすごく頑張っていただろう?期待されていないはずないと思うが」
姫ちゃんは首をフルフルと横に振った。
「お父様は私を極力外に出さないようにしていたし、何か提案しても、父様に任せておけば心配ないよと、取り合ってくれなかったわ。パリスと結婚させられそうになった時にはっきりわかったの。優秀な側近を私の伴侶に迎えて実務を任せ、私はずっとお父様の娘として、なにもできない籠の鳥でいればいいと考えていたんだって」
「姫ちゃん......」
そんなことないよ!といえるほど、あたしはお偉いサン方の考えることに詳しくない。ただ、姫ちゃんは能力とか、実績とか、本人の持つ資質と違うところで父親に判断されて、悔しかったということは伝わってきた。
「愚かな考え方だ。ジュリエットは聡明で優秀だと聞いているし、実際そうだ」
「ロミオはそう思ってくれているの?」
「あぁ。先日の資料館でもそうだが、これまでの継嗣学の学びを活かした鋭い視点を持っていると感心していた」
「聡明で優秀なのは貴方だわ。ロミオ......ごめんなさい。貴方の婚約者だったロザライン様が私と同じ色を持っている上に完璧な淑女だったから、つい自分と比べて勝手に拗ねただけなの」
デンデンは姫ちゃんのことをよく見ているし、ストレートにそれを伝えてくれる良い子だなぁ。もちろん姫ちゃんも、素直に謝れる良い子!
デンデンはにかみながら姿勢を正し、まっすぐに姫ちゃんに顔を向けて言った。
「私がジュリエットに惹かれたのは、黒髪と紫の瞳だからじゃない。正直、その色に憧れを持っていたのは事実だ。幼い頃から、愛されるために必要な色だったから。だが、色だけで私は人を好きにならないよ」
「え?」
「色が大事なだけなら、そのまま澄月の私の誕生日にロザライン嬢と結婚している。貴女と彼女は同じ色を持っているけれど、全然違うんだ。私は彼女に特別な気持ちを抱いたことが一度もない。これだけは信じてほしい」
デンデン、かっこいい。あたしがあと三十年若ければ!
いやいやいや、冗談さ。デンデンの運命の相手は姫ちゃんって決まってるんだからね。姫ちゃんは嬉しそうに、
「はい......ロミオのいうこと、信じます」
と答え、二人で微笑みあった。
やれやれ、一件落着かな?
三人分の湯呑みから立ちのぼる湯気がなくなり、すっかりお茶は冷めていた。
残ったお茶をグイっと飲み干し、仲直りしたての二人に声をかけた。
「さ、もう寝るよ。明日はキューの様子見ながら、色々決めなきゃならないんだからさ」
そう言って立ち上がり、腰のあたりをさする。
「はい、わかりました」
「そうしよう。そうだ、ドーラ殿。今日は居間で寝ようと思うんだが、かまわないだろうか?」
姫ちゃんはあたしの部屋で寝ていて、デンデンはパックとキューと同じ部屋の予定だ。でも今日はキューが気兼ねなく休めるように配慮する気だね。
よく気がつく男だよ、デンデンは。
もちろんだよ!と答え、奥からもう一組布団を持ってきて、ソファへ置く。
「おやすみ〜。あたしは明日の朝の支度で早く起きるから、先に寝るよ」
「はい、おやすみなさいドーラさん」
「おやすみ、ドーラ殿」
就寝の挨拶をして、さっさと部屋に向かう。
仲直りしたばかりだ。しばし二人きりにさせてあげるのさ。
あたしも粋なことをするもんだね。
そっと抱きしめ合う恋人たちの気配を後ろに感じながら、部屋に入って布団の中に潜り込む。明日はとびっきりの朝ごはんを作って、キューを笑顔にしてやらないと。
まだ目も合わせてくれないあの子に優しい夜が訪れていることを祈って、眠りにつく。
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「うっわ、なんだこのいい匂い!」
パックが興奮気味に台所に入ってきた。昨日より幾らか顔色がいいキューも後をついてくる。
艶々の宵麦ご飯に、すりおろしたての月光薯をとろりとかけた、滋養たっぷりの朝食の時間さぁ!よだれもんだろ?
白く輝くとろろに出汁の香りがあたりに立ち込め、鼻の奥をくすぐる。
その横に、もう一つ土鍋を置く。こちらは、紫がかった暁星粟と宵麦入りの雑穀粥だ。
「とろろご飯があるのに、お粥?」
パックが覗き込むと、ドーラが力強く頷いた。
「これは、キューの分だよ!」
「……俺の?」
キューが、怪訝そうな顔をする。特別扱いはいらねぇとか言ってるけど、関係ない。
「あんた、まだ本調子じゃないだろ。お粥なら、胃に優しいし、体に負担かけずに済むからね」
「別に、そこまで気を遣わなくてもいーけど」
「いいから座って、文句言わずに食べな!」
あたしの有無を言わせぬ圧に、キューが渋々椅子に腰を下ろす。頭に手を乗せてやり、ポンポンと叩いてやった。キューは居心地悪そうにしながらも拒否しなかった。よしよし。
「あ~、あのお粥美味しかったよな!俺も少し食べたい〜」
「たっぷりあるから、いいけどさ。まずとろろご飯食べな」
小さめのお椀にお粥をよそってキューの前に置き、大盛りのとろろご飯をパックに手渡す。
「よっしゃあ!」
パックが飛びつくように匙をつかみ、大きな口を開けてご飯をかき込んだ。
「うっま! なんだこれ、ねばねば!」
「月光薯だよ。すりおろすと白く光るだろ? 宵麦との相性がとってもいいんだ」
パックの食べっぷりはいつ見ても気持ちがいい。さて、キューは......昨夜あんなに青白かった顔に、少しだけ血の気が戻っている気がした。
雑穀入りの粥で胃を温めて、体もぽっかぽかになればいいさ。
「熱いから、気をつけな」
「ん。......あ、っつぅ!」
キューが慌てて水を飲む。
「フーフーして、食べるんだよ」
「わかってるよっ」
「相変わらず、猫舌だなぁ」
パックがケラケラ笑う。キューが恨めしそうに睨むが、迫力は全くない。
そんな二人のやり取りを、後から台所に入ってきたロミオとジュリエットが微笑ましそうに眺めていた。
「よかった……」
「ああ。本当に」
二人から安堵の声がもれる。
「ほら、あんたらも座って食べな!美味しいものは美味しいうちに。これ鉄則!!」
席を勧めながら、あたしも椅子に座る。ご飯は全員で食べたほうが美味しいからね。
この月光薯のとろろがご飯に絡んで、するすると喉を通っていく。優しい出汁の旨味がじんわり口の中に広がり、五臓六腑に染み渡る。
「ドーラ、おかわりぃ!」
「あいよ!」
「パック、よく噛んで食べたほうがいいわ」
「そうだぞ、パック。とろろご飯は、飲み物じゃないからな」
賑やかな朝食の席で、キューがお椀を両手で持ったまま、ぽつりと呟く。
「……あったけぇな」
誰に向けた言葉かはわからなかったけど、その一言だけで、あたしはなんだか胸がいっぱいになったんだ。
お昼も美味しいもん食べさせてやろうと決めた、芽月・一日の朝。




