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『ルール国のロミジュリ20XX』  作者: 夜明けの碧
第一章 ルール国——義務と禁止が刻まれた国の物語

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19/72

第十九話 用意した仮定の夜を、現実が簡単に超えてくる

仮装際、あと二回続きます。


マーサと一緒に庭園に着いた。

恋人と約束しているという、非番の護衛とここで別れる。目的地が同じだったから、一緒の車で来たのだ。ようやくできた彼女と舞踏会で踊るのだと、嬉しそうに頬を染めていた。


恋人たちの夜が幸せでありますように。


ふと、マーサが護衛の彼をずっと見つめているのに気づいた。

まさか、マーサ。彼にひそかに恋を??


「違います」

「え?私、声に出してた?」

「出てませんが、お顔を見ればわかります」

「恋愛小説で鍛えた推理力はものすごいわね」

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

「じゃあ、なんで彼のこと見てたの?」

「少し......うらやましくて」


マーサは小説の恋バナはするけれど、本当の恋バナをしているところを見たことがないし、好きな人がいるという話も聞いたことがない。


マーサはよく気がつくし、頭の回転も速いし、容姿だって悪くない。

明るいオレンジ色の髪に、淡いグリーンの瞳の、スレンダー美女なのだ。


今日だって、「月夜に照らされる森の妖精」をテーマに、深緑のシンプルなオフショルダーのドレスにオリーブグリーンのシフォンを重ねて透け感のある軽やかさを出し、胸元や肩口に銀色のリーフ(木の葉)や植物の刺繍をあしらっている。刻印は同じシフォンを首の後ろでリボン結びにしているため、見えない。マーサの緩やかなウェーブがかかった髪は高く結い上げられ、銀のリーフ冠を頭に載せている。アップヘアスタイルのマーサはとても新鮮だ。


そんなマーサ二十五歳、独身。お父様に頼んでいい人を......


「いりません」

「え?私、また声に出してた?」

「出てませんが、お顔を見ればわかります(二回目)」


きっぱりと断られてしまった。こういうのは、余計なおせっかいを焼かれたくないものよね。

ひっそりと一人反省会をする。


「これでも、初恋を引きずってるんですよ......」


マーサが何かつぶやくのが聞こえた。


「えっ?何か言った??」

「なんでもありませんわ」


そんなやりとりをしているうちに、舞踏会の開始を知らせる鐘が鳴った。

そろそろロミオも来るかしら。


わかりやすいように、ガーデンライトに照らされた噴水のそばに立つ。マーサは少し離れた位置で控えるといって、姿が見えなくなった。

本人曰く、庭園で緑のドレスは保護色だから、私にお気遣いなくとのことらしい。

緊張でおかしくなりそうだったのが、少しほぐれた。


それにしても、今日の庭園は色とりどりのお花を素敵にライトアップしていて、とても綺麗。さっきまで多くの人がいたけれど、鐘が鳴ったからみんな大公堂の方へ移動したみたい。


舞踏会か。ちょっと憧れる。一応ダンスは必修として習っているけど、目立つからロミオとは踊れないわよね......


その時、視線を感じた。

ゆっくりとそちらへ顔を向けると、待ち焦がれた人がいた。


黒い髪に、光が差し込む深い海の色。仮面をかぶっていたって、髪の色が違っていたって、私がロミオを見間違えるはずがない。


(ちょっと、かっこよすぎる......私の心臓を止めに来てる)


彼は本当に夜空の騎士になってしまったのかもしれない。漆黒の騎士服は彼のスタイルの良さを際立たせているし、同系色のワンショルダーマントの留め金は銀色。いつもよりワイルドな感じがして、素敵すぎる。


ロミオと目が合い、そらせない。時間の流れが止まったかと思った。


彼は一瞬目をつぶり少し首を振ると、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「月の女神様、今宵貴女をお守りする栄誉を私に与えてくださいますか」


ときめきで倒れそう......

私は何通りも予習していた中の、最高のセリフを返そうとした。


『夜空の騎士よ。その栄誉、喜んでそなたに授けましょう。忠誠の証をわたくしに示しなさい』


そう言って、手を差し出すシーンを何回もイメトレしてきたのに、私の口から出たのは一言だけだった。


「喜んで......」


ロミオはフッと笑みをこぼし、私を噴水そばのベンチまでエスコートしてくれた。その姿があまりにスマートすぎて、失神しそうになる。


ふと、強い感情を向けられた気がした。保護色で隠れているマーサかしら?

「ジュリエット様、気をしっかり持って!」という叱咤激励が聞こえる気がした。

そんなことを考えていると、ロミオが心配するように言う。


「どうかされましたか?お身体の具合が悪ければ、どうか私にもたれかかってください」


(私の)夜空の騎士が紳士的すぎる!


さっきの感覚は気のせいだと思い直し、目の前のロミオに集中する。

私に許された時間は、今しかないのだから。


二人並んでベンチに腰掛け、改めてお互いを見る。思わず本音がこぼれ出た。


「本当にかっこいいです。夜空の騎士の姿が素敵すぎて、心臓がドキドキします」

「それを言うなら、女神様もです。こんなに綺麗な人に初めて会いました」


好きな人にこんな風に言われて悶えない女がいるだろうか、いや、いない。

私の乙女心はときめきで限界突破していた。

ロミオの攻撃力が高すぎる。少し落ち着きたくて、クラッチバッグの中から栞を取り出す。


「これ、お約束していた栞です。大好きな青いネモフィラで作りました。この白いお花はカスミ草です。受け取ってください」

「......」


どうしよう、何も言ってくれない。男性が持つには可愛らしすぎたかな。

私が不安になっていると、ロミオは今まで見たこともないくらい破顔して言った。


「言葉にならないくらい、うれしい......」


受け取った栞を愛おしそうに見つめながらそう言うロミオに、泣きそうになってしまった。


「私も女神様を想い、作りました。どうか受け取ってください」


そう言って差し出されたのは、手のひらにおさまるほどの、丸い透明なペーパーウェイトのようなもの。それほど厚みはない。真ん中に、四葉のクローバーが閉じ込められている。灯りに透かすと、葉脈まで透けて見えた。


「綺麗......」

「お守りです」

「お守り?」

「栞にしようと思っていたんですが、こうなりました」


その言い方がおかしくて、笑ってしまった。

ロミオは少しふてくされたように、


「こんなに素敵な栞を作れるほどの技術力が私にはありません」


と言った。

その言葉に、また少し笑った。


「でも、よかった。貴女が作ったこの栞は、私が知っている形の栞だ」

「栞って、本来こういう形ですよね?本に挟むものだから」


そう言って手の中の『栞』に視線を落とした。


「だから、それは『お守り』ですからっ」


ロミオが真っ赤になって言う。からかいすぎたかなと、反省しているとあることに気づいた。


「ひょっとして、本来じゃない栞の形って、葉っぱの栞のことですか?」


なぜか、ロミオがうつむいてしまった。


違うんだ......

ベンが無理やり読めと...... 栞を渡すといったのはその......


とか何とか聞こえる気がするが、声が小さすぎて聞き取れない。でも、わかったことがある。

ロミオは栞を渡すことが愛の告白になることを知っている。

なぜ知っているかはわからないけれど、大丈夫。勘違いしたりしないから。


「葉っぱの栞を渡すのと、本来の形の栞を渡す意味は違いますよね?」


安心して欲しくてそう言ったのに、ロミオは顔を上げ、なぜか少し苦しげな表情をした。

どうしてそんな顔をするのか、わからない。


月が綺麗だよって言ってくれたことや、栞を渡してくれたことに意味があるの?

ついつい、期待したくなる。


もしかしたら、同じ気持ちを向けてくれているのかもしれない。

そうだったら、とてもうれしい。

彼がはっきりと気持ちを言葉にしてくれるのを本当は待ちたい。


でも、私には時間がないから。あるのは「今」だけだから。


私は今日、告白する。


十六歳の、今の自分のありったけで好きだと思うこの気持ちを、彼に伝える。

ネモフィラの花言葉に想いをのせたのも本当だけど、どうしても自分の口で言いたい。

この先、会うのが年に一度の公務の日だけになっても、私の代わりに栞が彼のそばにいる。


一生分の恋だと思うから。私の言葉で、私の全部で。



「あなたのことが好きです」



+++



彼女は今何と言った?

衝撃的過ぎて、言葉が出てこない。


私は今日、この恋を封じ込めるつもりだった。

それが継嗣としての『義務』だと思ったから。


でも、体は私の意志に逆らい、言うことを聞かない。

彼女に返す言葉のパターンは幾通りもあるのに、口が動かない。


気づけば私はジュリエットを抱きしめていた。

この体は、私の心には従うらしい。


ようやく絞り出した声は細く、自分でも情けないくらい震えていた。

それでも彼女には届いたようだ。



「私だって、好きだ」



彼女のすすり泣く声が聞こえる。

誰にもその姿を見せたくなくて、マントで全部覆い隠す。


今日は、無名日。


名前のない日で、彼女はジュリエットではなくて月の女神。

私はロミオではなく、女神を守る夜空の騎士。


一夜の夢でも構わない。

初めて自分の本当の気持ちを告げた、今日のことを後悔したりしない。


この女性(ひと)に、心を捧げた。

たとえ明日から別々の道を行くことになっても。





やっと二人の心が通じ合いました。十九話もかかって......

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― 新着の感想 ―
ここまでの過程でいろいろあった二人がついに感動の再会。二人の恋の行方も気になりますが、マーサにも何かありそうな予感がします。この後二人、そしてマーサはどうなるのか。次回も楽しみにしています!
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