西中の原北部からの脱出③
ロビンソンさんの仕入れた情報では、オークとガーゴイルは空と地上に分かれて攻めて来るらしい。
ワンセットだったらガーゴイルを墜落させれば一石二鳥だったが、そう甘くはなかった。
「出撃だな。まずはガーゴイルを石に戻してやろう!」
若返ったパウルさんが張り切っている。あと何日もつのか知らないが、健康なことは良いことだ。
発進し、一気に北に向かって加速する。
今のところガーゴイルはまだ見えない。
西の空をみると、まもなく夕日に変わるのだろう、お日様が大分低い位置にいる。
「何か黒いのが飛んでるよぅ。あれじゃないかなぁ」
流石は猟師ボニー。目が良い。
目標は私達より少し東にいる。
「ライト!」
味方がいる所には煙が上がっている。そちらの方向に向けて光を点けたり消したりしていたら、雷が一つ打ち上った。ベアトリクスだろう。
「パウルさん。味方と連絡付きました」
「よし。ならば突っ込むぞ!」
一旦上昇し、上空での戦闘になる。
オークの矢が届かない所にいないと流れ矢が怖い。
「ボニー。頼んだぞ。お前の矢が一番効果的だからな」
「はい。お師匠様。がんばりまあす」
ボニーは聖水入りの矢筒を持っている。当たれば一撃だ。矢筒も二つある。全部で二十四本だ。
「敵もこちらに気付いたようですぅ。こっちに向かって飛んできますぅ」
「まずは正面からぶちかますか。ベイオウルフ頼んだぞ」
「はい」
ベイオウルフは丸太といってもいいくらいの太さの木の槍を持ち込んでいる。防御専門だと思っていたのだが突貫要員だった。
言ってる間にも、一匹正面から来た。
こちらも真っ直ぐに突っ込む。
「うわーーーーーー!」
怖いのを我慢して、皆で大声をあげる。
どんどん近づいてきた敵は、ぶつかる直前でヘタレたのか急停止した。
こっちは停止なんて考えていない。体当たりのブラッディ・パウルが操縦している。そのまま突っ込んだ。
ドゴオ!
鈍い音と共に、ガーゴイルの顔にベイオウルフがディフェンドで固くした木の槍が当たる。のけぞったところにお椀で体当たりする。
ゲヘエ!
なにやら変な声をあげたガーゴイルは、そのまま墜落して行った。
どうやら群れの真っただ中に突っ込んだ。そのまま進むと、もう一匹正面にいた。
「うわーーーーーー!」
またも大声をあげて襲い掛かる。今度の奴は根性があったようで、まともに頭からお椀にぶつかってきた。
首がとれた状態で落ちて行く。
敵の中心に突っ込んで、そのまま群れの真ん中を反対側に抜けた。相手は全部後ろになった。
「ボニー。じっくりと引き付けて狙え!」
「はい。わかりましたあ」
大きく右回りに旋回するように動くと、ガーゴイルの群れも旋回して来る。何匹かが小さく旋回している。このままでは右と後ろの二方向から攻撃される。
ボニーは後方。私は左右の担当だ。矢と違って魔法は風に流れない。
右から近づいてきた。正面はベイオウルフに譲ったが、今度は私だ。
手が届くほどの至近距離まで引き付けて魔法を放つ。
一匹は額を貫通した。気を失ったのか真っ直ぐに落ちて行った。二匹目は片翼を狙い撃ったら、くるくる回りながら墜落していく。二匹倒した。
その間にも、ボニーが至近距離で矢を放っている。
そちらはそちらで、石を穿つがごとく、ゴツゴツと眉間や肩に派手な穴を空けていた。
都合六匹堕としたところで、距離をおいて追跡されるようになった。旋回し味方が狼煙をあげている方へ誘導する。
そのまま高度を下げつつ狼煙に向かって引き連れていると、白い光が打ち上がった。
マルセロさんだ。
やられた相手は音もなく落ちていく。
急上昇すると色んな魔法が打ち上ってきた。ベアトリクス達だろう。
ガーゴイルが、パッ、と空中で四方に散った。
「掴まれ!」
お椀が急停止し……、と思ったら、後ろに向かって急発進した。
「グエエ」
手加減無しだ。ひっくり返ってしまった。チュルリの籠を置いてきて良かった。
ベイオウルフに助けてもらって起き上がる。
「パウルさん。もう少し優しくやってください!」
「すまん、すまん。しかし、言ってる場合じゃないぞ。今のうちに落としておけ!」
混戦になった。
近づかないようにベイオウルフが槍で突っついているのを目掛けて、魔法を放ち、矢を放つ。
パウルさんが上手い具合に誘導し、マルセロさんのホーリー・ランスも打ち上り始めた。
さらに二匹が堕ちていったところで、相手は撤退した。
「よく頑張ったな。数えとったが十三落としたぞ」
「三分の一以上ですね」
「うむ。まずはこんなものだろう。一旦帰還するぞ」
二回目の出撃は薄暮攻撃になった。既に陽は沈みつつあり、辺りは薄暗い。森の中は随分と見通しが悪い。
一緒に出撃するメンバーが変わった、マルセロさんとベアトリクスだ。
あえて木の上すれすれを飛ぶと、上空に集まって来た。
ライトで目くらましをかけ、二人の魔法で狙い撃ちにする。
マルセロさんがいる。ホーリー・ランスを一発放つ度に、遠距離でも確実に一匹堕とした。
二回目の戦果は十五匹で、一回目と併せて二十八匹と、ほとんどを削ることができた。
「よし。これで敵は歩く以外に攻めては来れん。第一段階はクリアだな」
第二段階と第三段階では、ロビンソンさんは放った梟を待つだけだ。渓流の南に作った急造陣地で晩御飯になった。
オーウェン印の干し肉鍋にキノコをたっぷり入れた。衛兵隊も同じものを食べているので、陣地全体に鍋の香りが広がった。
「ここからは、撤退と撃退ですね」
「うむ。上手く行けば良いが」
マルセロさんが蜂蜜酒を薄めたのを詰めた水筒を、パウルさんに勧めている。
「今のところは元気みたいね」
ベアトリクスが囁いてくる。
実は三人で賭けをしている。若返ったパウルさんが、何日で元に戻るかだ。私は四日、デューネは三日、ベアトリクスは二日だ。
来週の日曜日、デューネのフワフワで一儲けしようと持ちかけたベアトリクスの企みだ。
ベアトリクスが勝てば売り上げの半分はベアトリクスのものに。デューネが勝てば全額デューネのものに。私が勝てばフワフワは無料で、ベアトリクスが街道クッキー詰め合わせをデューネに買ってあげることになっている。
ベアトリクスと二人でヒソヒソやっていると、伝令が走って来た。
「予定通り誘引に成功。第一陣地は撤退しました。損害はありません」
前進陣地は渓流のすぐ北に作った。穴を掘って土塁を積んだだけで、十人位が守っているはずだ。オークの姿が見えたら悲鳴をあげて撤退するようにパウルさんが演技指導をしていた。
「橋は残しておいたな」
パウルさんが切り倒した二本の木を、渓流を渡れるように倒して臨時の橋にしておいた。
「はい。そのままにして第二陣地に移動しました」
オークはそれを渡って崖を登り終えたようだ。
「良し! 第二陣で軽~く、一当てして来い。弓矢を放つだけだぞ」
ハンスさんの指示が出た。上手く引き付ければ最終段階だ。
森の奥から喚声が聞こえて来る。人間とは思えない叫び声だ。オークが突撃したのだろう。
間もなく半笑いの衛兵隊が悲鳴を上げながら逃げて来た。
「何じゃ、あいらは。笑っておるじゃないか。悲壮感が足らんぞ。後でハンスに文句を言ってやる!」
演技指導の魔法使いが怒っているが、無理もない。衛兵隊は劇団に給料を貰っているわけではない。
「まあまあ、監督。そう言わずに。後ろは向いていませんから」
半笑いではあるが、ごく自然に足がもつれて転んだふりができている。愛弟子のロビンソンさんが宥めるように熱演と言っていいだろう。
「ああ! いかん、いかん。転んだ以上は、額から血を流さんと真実味が出んだろうが!」
無茶苦茶なことを言い始めた。
「まあまあ監督。ブラッディを名乗れるのは監督だけですから」
「おっ? そうか? なら仕方ないな」
何故そこで胸を張る。訳が分からないぞ。
作戦通り前衛は皆逃げて来た。
「置いてきた食料を漁るのに夢中だぜ。きっと腹が減ってんだな」
置いてきた食料とは、第二陣地でこさえておいた干し肉鍋だろう。わざわざ陣地の真ン中で焚火をし、衛兵隊が背負ってきた特大の鍋幾つかに人間の分量だが三十人分くらい仕込んでおいた。
オークも出撃してからは碌に食べてないはずだ。陣地で晩御飯が食べられるなら、食いついてくるに違いない。
もちろん、大食いであろうオーク全員分には足りないだろう。その代わり、木に吊るしたハトやウサギに渓流で獲れた魚を含めて、大量の食糧を袋に詰めて置いてきた。
しばし様子を見て、連中が食べ終わるのを待つ。
「来ました。やたら気楽そうにやってきます!」
最後の斥候が陣地に掛け込んでくる。作戦がはまったか。
「一斉に、篝火を焚け!」
ハンスさんが大声を上げると、最終陣地だけではなく、背後の山のあちこちで火が焚かれる。
篝火はどんどん増えていって、後ろを振り返ったら尾根の半分に篝火が焚かれ、かなりの味方が待機しているように見える。勿論、実数は篝火要員だけだ。
「ようし、一番解放!」
ハンスさんの合言葉に、あちこちから解除された魔法がオーク目掛けて飛んで行った。マルセロさんの魔法陣だ。衛兵隊の魔法兵にマルセロ商会を含めて、十人以上の魔法使いが仕込んでおいた。
土、雷、氷、全部初級魔法なのだが、その分数が多い。まともに当たらないだろうが、それでも良い。
「ライト!」
オークの足が止まった所に、正面から目一杯で光を放つ。
幅広く照らしたから、光量は弱いが森の闇に紛れているつもりの奴らが丸見えだ。さぞや肝を潰しただろう。案の定、目を覆って唸りながら立ち尽くしている。
マルセロさんがホーリー・ランスを放ち、ボニーの持ってきた聖水の矢を五人の衛兵隊が狙いすまして放つと敵の前衛がバタバタ倒れた。
「二番解放!」
合図と共に魔法の第二波がオークを襲う。
オークの群れはそのまま食料の入った袋を背負って逃げ始めた。
「いくぞ!」
パウルさんの掛け声と共に、私とボニーとマルセロさんがお椀に乗り込む。
追撃だ。
逃げる敵を上から照らしながら後を追う。
最後尾の奴から順に、ボニーとマルセロさんが聖水の矢とホーリー・ランスで少しずつ狙いを外して追い上げていく。
「ワハハハハ。お前達は皆ここで死ぬのだあ!」
悪の魔法使いも熱演だ。
遂に渓流の向こうまで追い込むと、お椀を解体したパウルさんがトルネード・ウィンドウで橋をバラバラにしてしまった。
その頃には後続の衛兵隊も追いついてきて、渓流を挟んで双方にらみ合いになった。
戦力的には向こうが上だが、ライトを上空に浮かべて両岸を照らしている。オークも恐れているのか仕掛ける気配がない。
ハンスさんがわざとらしくオークの背負った食料を指差し、皆で一生懸命悔しがった。
オーク共はわざとらしく見せびらかしてゲタゲタ笑いだした。槍を振りかざして挑発している奴もいる。
よし、これで上手くいった。
「頃合いじゃの」
パウルさんの言葉にハンスさんが頷くと、皆で後ろを振り返りつつ陣地に帰った。
陣地に籠って状況をみていたら、一人の衛兵隊士が前線から走って来た。
見張りに残しておいた斥候だ。
「オークが撤収しました!」
思わずその場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。




