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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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夢の始まり

 帰投して一週間後、一七五の会が全員成人した記念パーティーを幽霊屋敷で開いた。


「鍛冶屋のマチルダってんだ。よろしくな」


 最後の一人が来賓に自己紹介をする。

 八人目の仲間、マチルダだ。

 無類の暑がりで年中肩を切った上着しか着ない。

 しかも、赤だけだ。

 修行先の鍛冶屋で、日々ハンマーを振るっていただけあって、肩と腕は筋肉が盛り上がっている。火花が飛ぶからと、髪を短く切っているので、後ろから見たらとても女とは思えない。もちろん、後ろからだけだ。

 

 メアリーは柔らかい感じの色気だが、マチルダは何と言うかバインバインで、それはそれで男共の話題になっていた。


 幽霊屋敷に集まってくれたマルセロ商会の面々とデューネを始めアドルフさん達来賓が拍手すると、顔を赤くしてそっぽを向いている。


「噂の狂犬よ。目を合わせちゃ駄目よ」

「なに言ってやがんだ!」


 ニヤニヤ笑っているベアトリクスの紹介に早速噛みついている。

 兎に角、喧嘩っ早い。孤児院の男子共が気に食わないことを言うが早いが、文句を言う前に殴りかかっている。ただし女の子を殴ったことは一度も無い。


 ベイオウルフとヴィルに次ぐ、一七五の会の武闘派だ。しかし、喧嘩は趣味らしい。衛兵隊にならずに鍛冶屋になった。ひたすらに鉄を打つのが好きらしい。


「ブリジットさんとの勝負は、あれからどうなってるんだい?」

「今のところ、十八戦全敗だ。でも、段々姉御の拳を躱せるようになってきた」


 そのブリジットさんは、愛弟子のお祝いに駆け付けてくれた。


 以前、ベイオウルフに連れられて衛兵隊の体験コースで徒手格闘の初心者訓練を受けた。ブリジットさんに試合を挑みコテンパンにされた。

 その日以来、ブリジットさんを姉御と呼び、体験コース受講と称して月に一回勝負を挑んでいる。それが縁で、衛兵隊工作所に就職が決まった。

 ただし、今まで弟子入りしていた鍛冶屋の親父さんに義理を果たしたい、と週に一回は鍛冶屋に顔を出している。


 意外と細かな細工物を作るのも上手で、衛兵隊の工作所の二人が褒めていた。

 ちなみに、黒紫の刺繍はベアトリクスと同じ赤だ。


 マチルダは工作所の親父さんの計らいで、魔物退治に参加しても良いことになった。工作所の人間は衛兵隊と契約しているだけで隊員ではない。他の仕事との掛け持ちも許される。

 ただし、ネズミ退治は断固拒否された。


 怖い物知らずの狂犬は鼠が嫌いだ。孤児院に来る前、村を戦争で焼かれて地下倉庫に避難していた時に散々鼠に齧られたらしい。


「仕方ないわね。冬になったらクマやオオカミが町の近くに出て来るらしいから、その時は手伝うのよ」

「分かってる。ネズミ以外なら任せておけ」


 握りこぶしを作ってベアトリクスに見せつける。ネズミなんか殴り倒してしまえるんじゃなかろうか。


「でも、どうやって魔物と戦うの?」


 まさか、殴り合いをするつもりではあるまい。


「ハンマーを使う。戦争用のウォー・ハンマーってのがあってな、イノシシくらいは殴り殺せるそうだ」

「あんた、イノシシ殴り殺せるのにネズミは駄目なの?」

「ネズミは駄目だ。あいつらは最強最悪の魔物だ」

「そんなこと言って、魔王に祟られても知らないわよ」


 ベアトリクスもため息をついているが、仕方ない。ネズミ以外で頑張ってもらおう。ヴィルやベイオウルフがいない時に、重い物を持ってくれるだけでも、こちらは助かる。


「ま、なにはともあれ。これで皆が揃った。これからも頑張ろうではないか」


 ヴィルが締めて、ベアトリクスが何回目かの乾杯の音頭をとる。

 いつの間にか、お酒のお代わりを給仕する側のオーウェンさんまで乾杯に参加しているのだが、細かいことは気にしなくても良い。


 やっと始まったのだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その夜、孤児院ではジェニファーがカトリーヌの部屋を訪れていた。


「院長先生。マチルダの退所の書類が出来上がりましたわ」

「ありがとう。机の上に置いておいて。後で見るわ」


 カトリーヌの部屋は驚くほど小奇麗にしていて、備品以外は何もない。机、椅子、ベッド、物入それだけだ。女神像が壁に掛けてあるだけで、他の神官の部屋にあるような誰かの似顔絵すら置いていない。


「これで今年の退所予定者は全員無事に退所出来ましたわ」

「今年は八人だっけ?」

「はい。一七五の会の八人です」

「ジャンヌは生活できているみたいね」

「今は大丈夫みたいですよ。退所の時に渡したお金も手を付けていないようですわ」


 なにか考えているのか、やや小首を傾げている。


「どう? あの子達。なんとかなりそう?」

「皆、きちんと仕事をこなしているみたいですから、大丈夫でしょう」

「そうじゃなくて、その後よ」

「その後?」


 小首を傾げるのがカトリーヌにはわざとらしく思える。


「しらばっくれなくてもいいのよ。あの子達の夢よ、夢。新しい町の創設者になるんでしょ? 実現出来そう?」

「あら、ご存じでしたか」

「立ち聞きしちゃった」


 ペロッと子供のように舌を出す。


「また、そんなことを。お行儀が悪いですわ」


 高位の魔法使いであるカトリーヌに嘘は通じない。

 かと言って無理に聞き出すことはしなかった。おおらかに全てを受け入れる優しさなのだろう。


「で、ジェニファーから見てどうなの?」

「かなり難しいと思いますわ」


 町を作ると言っても、人と物が集まらなければ維持できない。第一、そういう場所には既に人が古くから集落をつくり、村や町として現在に至っている。森を新しく開拓するには、周辺に棲む数多くの強力な魔物を退治し尽さなければならない。


「町と言っても、五歳の頃にジャンヌとベアトリクスがずっと一緒に暮らそうっていう約束を交わしたのを、律義に守っているだけかもしれないわよ」

「あら、その頃から立聞きなさっていたのですか?」

「そうじゃなくて、あの時は心配だったの!」


 結局は立聞きしていたじゃないか、ジェニファーは口には出さなかったが軽く肩をすくめて見せた。


「ベアトリクスが孤児院に来て間もない頃よ」

「ジャンヌと掴み合いの大喧嘩をして、院長先生が随分とお叱りになられたのですよね?」

「まあね。ベアトリクスは……ほら、ここに来るまでが色々あったみたいじゃない」


 カトリーヌはジェニファーから視線を外して、ため息を一つついた。


「森の中に捨てられていたのでしたか」


 ジェニファーも当時を思い出して俯いた。

 特に戦時中、他国では冬越しのための口減らしに小さい子、特に女の子を捨てる例が後を絶たなかった。


「ここに来た時は、ほぼ感情を無くしてしまっていましたね」

「見つけた時はガリガリに痩せていて、冬だったのに肌着一枚で倒れていたそうよ。元気になるまでの間、アドルフが前線の駐屯地で付きっきりで面倒を見てくれたおかげで助かったようなものよ。普通に後送されていたら、多分死んでいたわ」


 二人は子供達が孤児院に来る契機となった出来事を、可能な限り調べて記録として残していた。子供達が抱いている孤独や恐れを少しでも取り除くためだ。時として、義憤にかられたり、陰鬱な気分に取り込まれたりしたこともあった。


「ベアトリクスは、親にとって自分が要らない子だったと思い込んでいたのよ。だから、ここで知り合った人間もどうせ自分を見捨てると思っていたみたい」

「それで、ジャンヌがずっと一緒に暮らして行こうって約束したのですね」 

「そう。私はあなたを見捨てないからって」

「でも、あの子達が目指しているのは、戦争をしない独立した町ですわ。五歳の頃の約束にしては随分と大きな話になっていませんか?」

「きっと、仲間が増えて一緒に住む家の数も増えたのよ。だから、町を作る話になっちゃったんだわ。で、戦災孤児もいるから、戦争はしない、と。でも、セルトリアを挙げての戦争になったらどうするつもりかしら?」


 カトリーヌが眉間に皺を寄せる。戦争は散々に見てきた。セルトリアが望まなくても、エングリオのような好戦的な隣国が言いがかりをつけてきてまで攻め込んで来る。




「院長先生。私達が中の原で孤児院の経営を始めた頃のことを覚えてらっしゃいます?」


 ジェニファーが、カトリーヌの眉間の皺を解すような穏やかな口調で話を変えてきた。


「覚えてるわよ。もう二十年も前になるわね。身寄りの無い子供達が仕事を見つけて自立出来るように育てる孤児院があればいいって、貴女が言ってて」

「院長先生は、じゃあ私と一緒にやりましょう、とおっしゃって下さって」


 カトリーヌは、ベッドに寝転がったままで天井を見つめた。


「懐かしいわね。二人であなたのお父様を口説き落として、王都を出たんだっけ?」


 ちらりとジェニファーを見る。


「あの時、院長先生……いえ、英雄カトリーヌが一緒にやろう、って言ってくれなかったら、これまでのことは何もできませんでしたわ」


 ジェニファーがカトリーヌに向かって頭を下げた。

 何も知らなかった自分を導いてくれたことに対するお礼なのだろう。


「お礼なんていいのよ。で、あの子達とどんな関係があるの?」

「私達の夢の続きですよ」

「続き?」

「ええ。きっと、ジャンヌ達は経済的に独立して、自治権を獲得した町を創って、戦争のない地域を創ろうとしているのですよ」


 カトリーヌはベッドから起き上がって、腕を組んだ。


「私達が孤児院を始めるにあたって一番に考えたのは、経済的に自立することです。そのためには一人一人が色々な意味で強くあること。強くあることで弱い者を護ること。その発展形が、理不尽な戦いに決して参加せず、理不尽な戦いの被害者は必ず護る。強く正しい独立した町ですわ」

「大陸にはそういう町があるそうね。考え方が偏っているかもしれないけれど」

「下手をすれば国家反逆罪ですわ」


 国が国なら孤児院自体が閉鎖だろう。


「それでもジェニファーは応援するのね」

「似ていますわ、初代国王のお考えに。ご存じでしょう? セルトリア初代国王は王になりたくはなかった。少し大きな町の猟師の元締めで良かったのですよ」


 ジェニファーは、自分の部屋に飾ってある古い似顔絵を思い出した。似顔絵の初代国王は、正装ではなく猟師の格好をしていた。


「変わり者過ぎるのよ、この国の王族は。大体、下級役人を装って町に住んで、毎日王宮に通勤している国王なんている? 王宮にいる時は、つけ髭つけたり、髪を染めたり、変装までして」

「初代国王の御遺訓ですから」


 勿論、ごくわずかの者しか知らない極秘事項だ。

 先代国王と王妃の仲間であったカトリーヌは、娘息子の教育係の一人だったこともあり、家族五人で連れ立って通ってくる国王一家と、週に一度王宮で会っていた。


「今のこの国の体制が悪いとは申しませんわ。他国に比べると良い国だと思います。だから、猶のこと、将来への新しい試みが必要なのだと思いますわ」

「あの子達はそこまで考えているかしら」

「考えていないと思いますわ」


 真面目に聞いたのだが、ニコニコしているジェニファーにあっさりと躱された。


「つまり、今言ったことは、元第一王位継承権者アン王女殿下の考えね」


 カトリーヌが睨むと、一つの可能性ですわ、と笑っている。


「院長先生はどうお考えですか?」

「あの子達?」

「ええ」

「わからないわ。ただ、ジャンヌは選ばれる子よ」

「選ばれる子? 選ばれた子、ではなくて?」

「選ばれる子ってのは、皆に選ばれて人が集まってくる子よ。例えば、ベアトリクスが失った感情を取り戻して一生の約束をしたように。そして、例えば、貴女の……曽祖父だっけ? セルトリア初代国王のように」


 カトリーヌはベッドに座って足をブラブラさせている。その視線は窓の外の夜空に向けられた。


「可能性はあるかもね」


 カトリーヌは、独り言のように呟いた。




 主人公獲得退治報酬:金貨15枚銀貨14枚 6か月


 第四章了

(本後書きは投稿時のものです)


第四章が終わりました。

ようやく八人全員が出て来ました。

これを持って第一部の完結となります。(後日、章編集で第一部の文字を加えます)

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。

四章投稿の間に、ブックマーク登録や評価を頂きました。素直に嬉しいです。今後も是非是非、お願いします。


今後、第二部が第五章から始まることになります。

まさか、導入部にあたる第一部で五十万字を越えてしまうとは、思いもよらず反省しきりでございます。

一方で、なるべくのんびりとこの物語を進めていこう、とも思っております。

頭でっかちにならない様に完結を迎えるためには何文字になってしまうのか、空恐ろしい感じもいたしますが、PVやユニークを見る限り、最新話を読んで下さっている方がいらっしゃるようなので、頑張って続けていきたいと思います。


さて、今後の投稿予定ですが、週三回、月水金、時間は七時から八時、の投稿ペースは維持するつもりです。

なので、次回の投稿は来週月曜日に章間の小話をひとつ。水曜日から第五章第一話を投稿する予定です。

第一話投稿までの間に、第一部、の文字を入れたり、ちょこちょこと修正が入るかも知れませんが、ストーリー展開、設定、登場人物等の変更はありません。無いはずです。あれば、ご指摘下さい。

感想、誤字報告もお待ちしております。


では、今後ともよろしくお願いします。

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