第十四話 衛兵隊の護衛
「まあ、ざっとこんなもんだな」
相手の位置が特定できたので、陽が落ちてからお椀に乗って近づいた。ロビンソンさんが魔物に襲われた密猟者のふりをして相手を油断させたところで、ホタルで気を引き、風魔法で不意打ちをした。
折角作ったライトの光がパウルさんの魔法で飛ばされてしまった。新しく光を作って辺りを照らすと、ロビンソンさんが袋にしがみついて大声で悲鳴を上げている。
「おおーい。もういいぞ」
パウルさんが声を掛けると、起き上がってきた。
なかなかの熱演だった。
「ロビンソンさん。名演技でした」
「いやあ、あれだけ演技指導されたらね。パウルさんて、どこかの劇団にでも所属してたのかい?」
「どうでしょうか? 天然かもしれませんね」
声を掛けながら袋の口を開けると、中から猿轡をされたお姉さんが出てきた。
「ジャンヌ神官さん。助けに来てくれたの?」
「アドルフ町長の依頼です。お礼は町長に行ってください。あと、娼館の女将さんと」
女将さんは人質救出に懸賞金をかけ、それを立て替えて緊急通報に変えたのはアドルフさんだ。
メアリーが泣きながら駆け寄って来る。
「お姉さん! 大丈夫だった? 酷いことされなかった?」
「メアリー! 助けに来てくれたの? ありがとうねえ」
二人して抱き合って泣いている。
「こんなとこまで来て。駄目じゃないか」
「そんなこと言ったって……」
目から鼻から口から色々な物を出して、顔をぐしゃぐしゃにして、怒ってるんだか、泣いてるんだか分からなくなった。
手拭と水筒を渡してあげる。
「パウルさんがここまで連れて来てくれたんですよ。だから大丈夫です」
パウルさんは町の有名人だ。娼館でも豪遊しているらしいので、名前を出すとお姉さんも安心したようだ。
そのパウルさんは、吹っ飛ばされて気を失っている三人の男の手足を縛っている。
「ロビンソン。追跡を頼む」
「はい。分かりました」
ロビンソンさんが手を上げると、少しして茶色でお腹が白いフクロウが三羽音もなく舞い降りて来た。
オーウェン印の干し肉の欠片をあげて空に放つ。
闇夜の追跡者だ。逃げられるわけがない。
パウルさんが作ったお椀に袋詰めした三人の不埒者を詰め込む。その上から私達も乗り込んだ。
「あの、思いっ切り、踏んでますけど。良いんでしょうか?」
不埒者とは言え、神官としては足下にするのは良心の呵責というものがある。皆はあまり気にしていない。
「いいわよ、こんな奴ら! 踏むだけじゃ足りないわ。いっそのこと、〇〇〇〇踏み潰しちゃえばいいのよ!」
メアリーが片足を上げたので、慌てて止める。
「メアリー、私達はほら、こういう商売だから、すぐそういうこと言うけどさ。薬師のあんたがそんなこと言っちゃ駄目だよ」
メアリーが完全にキレてるな。その証拠にとんでもなく口が悪くなっている。まあ、いつものことだけど。
「セルトリアの女性はなかなか過激ですね」
「過激なのは中の原だけじゃ。なんせ戦う女が一番もてはやされとるんだからな」
そう言えば、ランキング一位のキャサリン先生を筆頭に武闘派が揃っている……。
てことは、私もそういう扱いなのか? 魔物退治をやっているとはいえ心外だ。
「こう見えて、ジャンヌも中の原戦う女性ランキングの八位様だ。油断して潰されんようにしとかんといかんぞ」
「えっ?」
「変な目で見ないでください。ていうか、何で目を逸らすんですか? 私は牽制と回復専門ですからね」
「冗談じゃ、冗談。ロビンソンも演技がうまくなってきたなあ」
「いやあ、パウル監督の演技指導のおかげですよ」
プッ、とお姉さんまで噴き出している。
またからかわれた。全くもう、なんなんだ一体……。
男性二人が笑っていると、フクロウが一羽飛んできた。偵察の第一報だ。
「このまま、湖の西岸に沿って、北上してるみたいですよ」
ロビンソンさんに分けて貰った干し肉の欠片をあげて喉の辺りを指で撫でて上げると、気持ちがいいのか、丸い目を閉じて鳴き声を上げる。
空に放つと翼を広げて飛んで行った。
「監督。これから、どうするんですか?」
「一旦、人質を安全な場所に移してから追跡しよう。ジャンヌ。合図を頼む」
「はい」
マルセロさんが船を出してくれているはずだ。
ライトをつけて湖に向かって照らすと、火矢が一本上がった。ボニーだろう。パウルさんがお椀を操作して、火矢の上がった方向に行くと、松明がついて船影が水面に浮かびあがった。
「お疲れさまでした。人質は無事救出出来たようですね」
「ああ、ついでに三人ほど掴まえてきた。降ろすのを手伝ってもらって良いか?」
「はい。大丈夫ですよ」
三人分の麻袋を移し終えると、降りろ、と言われた。
「えっ、私は行かなくていいんですか」
「残った二人は手練れだ。怪我をせんうちに家に帰れ」
「怪我をするならなおさら……」
言いかけて、マルセロさんに止められた。
「ジャンヌ。君は帰りなさい。ここから先は私が代わりに行くから大丈夫だ」
結局、降ろされた。お椀には、パウルさん、マルセロさん、ロビンソンさんの三人が乗って、山に向かって飛んで行った。
「行っちゃったね」
「仕方ないわ。ここから先は戦争経験者の世界よ」
ベアトリクスがつまらなそうにしている。
「どういうこと?」
「私達はまだ人を相手にしてないでしょ? だからよ」
「あっ!」
そうか……人と戦ってもし相手を倒したら、人殺しになるんだ……。
「わかっとるようじゃな。あの三人は従軍経験があるから心配いらない。お前達にはまだ犯罪者捜索は早すぎる」
「アドルフさん。来てたんですか?」
「また、随分つれないことを言うの」
「えっ、町長さんが来てくれてるの? すいません。私なんかのために、わざわざこんな時間に」
お姉さんが随分と頭を下げている。町長自ら助けに来てくれるなんて、なかなかないだろう。
「お姉さん。大丈夫よ。アドルフ町長は中の原の人の為なら睡眠時間無しでも働く人だから」
「随分と荷が重いな。さてジャンヌ手元を照らしてもらえんか。一応練習はしたのだが、まだ勝手がわからんのだ」
どうやら、嘴を使う気だ。
「よっしゃ、帰還するぞ」
掛け声と共に発進したジャンヌの嘴ゼロ号は、真っ暗な湖を走り始めた。
翌日。
不埒者三人を尋問した結果から、どうやら賊は禁漁区北の渓流に沿って西に行く予定だった。
外国から流れてきた脱走兵で、逃げた二人は元傭兵らしい。行先は逃げた二人が知っていて、仲間が山にいるとしか知らなかったようだ。お姉さんは三人が仲間入りするための手土産だったらしい。
とんでもない話だ。メアリーを止めるんじゃなかった。
そして、マルセロさんがテレポートの巻物で送ってくれた情報では、現在北岸の山に潜んでいるらしい。その内に渓流に沿って西へ行く積りだろう。
最近、王都を含め、女性、特に娼婦の誘拐が増えているそうだ。
どうやら組織だった犯罪だ。パウルさんの推測通りなら、西の原の山の中に結構な勢力が潜んでいる可能性がある。とりあえずの措置として、娼館の近くに衛兵隊の駐在所を設けて、除籍扱いになっていた戦傷兵を衛兵隊所属にして、昼夜分かたず警備することにしたそうだ。ベイオウルフ達の巡回も強化されるらしい。
「さて、困ったわね。パウルさんがいなくなったら、ネズミ退治くらいしかできないわよ」
店番のベアトリクスがあくびをしている。師匠のいないボニーもやることが無くて暇そうだ。
「そのうち、衛兵隊が派遣されるんじゃないかな。そうなったら、キツネ退治くらいはできるようになるわ」
「どうせならさぁ、薬草を取りに行こうよぉ。メアリー連れてさぁ」
「そうね。水源地に行く途中にある山小屋まで行ってみようか」
「よぉし、じゃあ、メアリー呼んで来るねぇ」
そんな風に、のんびりとボニーとメアリーの付き合いみたいな感じで、ネズミ退治の合間に狩りと薬草採取をやっていたら、意外なことに私達にも出動要請が下った。
町長室に呼ばれたのは、マルセロさん達の留守を守るアンジェリカさんだ。ベアトリクスと私も一緒についていった。
「犯罪者相手なのに私達でいいの?」
「そうだな。今回は後方援護になるから、人間相手ではないんだよ」
「後方援護?」
「パウル達がつきとめてくれたのだが、中の原側にも連中の拠点があってな。そこを衛兵隊で襲撃することになった。しかし、そこは例の渓流の向こう側になる。魔物が襲ってくるかもしれん。そこで、衛兵隊の後方をマルセロ商会に守ってもらい、退路を確保しようと思っとるんだ」
「つまり私達が衛兵隊の護衛ってこと?」
「そうなるな」
「王国軍は出ないの?」
「犯罪者の捜索だからな。今のところ王国軍に要請できんのだ」
衛兵隊の護衛と言うと普段と逆になる。私達に出来るのだろうか。
「私達は魔法中心ですから、楯になる歩兵が必要になりますよ」
真顔の鬼のアンジェリカモードになっている。任せたほうが良さそうだ。
「うん。分かっている。衛兵隊を一班つける」
「それと、衛兵隊の側面は、どのように護るおつもりですか?」
「ロビンソンを雇いの猟師ということにして連れて行ってくれ。それで偵察を密にするしかないな。何かあったらすぐに撤退させるつもりだ。そのためにも後方の安全確保が必要なんだよ」
「出来れば事前偵察とその拠点が欲しいですね。拠点は渓流のこちら側で良いと思いますが」
「うん。アンガスを通じて猟師を何人か手配しよう」
納得したようだ。アンジェリカさんがこちらを向いてニコニコ顔に戻った。
「報酬はどうなるの?」
「今回は魔物退治ではないから一括だ。作戦期間を最大二週間と期間を決めて、一人金貨二枚でどうだ。経費はこちらで持つし、衛兵隊の成果は関係なしで良い」
「いいわよ。こちらはマルセロさん、パウルさん、ロビンソンさん、私、ジャンヌ、ボニーの六人でいいかな?」
リュドミラはアンジェリカさんとお留守番だ。きっとベイオウルフの班が護衛についてくれるだろう。メアリーに薬草を採ってきてあげよう。ヴィルは役場で仕事だな。
「うん。いいだろう。護衛にはマックバーンの班にしてもらうよう隊長に言っておく。それと、拠点の留守番用に猟師を何人か頼もう」
「よし。商談成立ってことでいいかしら?」
アンジェリカさんがニコニコしている。きっと大丈夫だな。
パウルさん達が帰って来た。早速段取りを決める。
「空と陸とで別れて偵察しようか」
パウルさんはお椀に乗る。上空からの偵察があれば見逃すことはないだろう。
「遠方はロビンソンが鳥を使い、いざと言う時は儂が上空から見張る。残りの者は地上じゃ。連絡は火矢とジャンヌのライトで大丈夫だろう」
てことは、私もお椀だな。矢がボニーか。ベアトリクスはきっとお椀に乗りたがるだろう。
「念のため、カモフラージュの巻物を持っていけばいいでしょう」
「ならば決まったな。衛兵隊は明後日の出発らしい。川船が輻輳したら大変だから、儂らは先に行こうか」
西部に行くのは初めてになる。街道クッキーの焼き印を増やすチャンスだな。




