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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第十一話 ナオネント公国へ②

 集まった人達は、ロイド様の説明を聞いて、ようやくアンチ・セプシスと魔法水の効果、そして、治療と予防の違いに気付いてくれた。


「アンチ・セプシスは即効性のある薬湯の様な物に過ぎません。まずは病人の治療を優先します。そして、ジャンヌ司教の放つ光を浴びたからと言って、いつまでも感染の危険が無くなるわけではありません。効果はほんの一時です。病人や病人が出た家の生活環境の改善をもって予防策とします」

「ならば、船に乗っておる患者を診るのが先と申すか」

「はい。感染者から健常者へと病はうつります。全ての感染者が完治さえすれば、その様な事は起こりません。後は、新たな感染者が出ぬ様に日頃から清潔を心掛け、皆様が信じる神にお祈りください。皆で力を合わせて疫病の流行を防ぐのです」


 ロイド様のこの言葉は、異教徒の神官にも伝わった様だ。遠巻きにしていたのが、ゆっくりと近づいて来た。


「おお、司祭ではないか。そなたは、この地の教会長か?」


 髭のお貴族様が声を掛けた。西リーベルはほとんどの人が一神教の信者だから、貴族は皆そうだろう。


「はい。今日は噂に聞く異教の魔法なるものを見に来ました」


 締め出しでも食らうと思ったのか、恐る恐ると言った感じだ。


「本日治療する患者は、全て貴方がたの教会の信者のはず。どうぞお立合い下さい。そして、もしよろしければ、お手伝い下さい。肝心なのは患者を病から救う事です。そこには宗教の違いはありません。貴方がたは貴方がたで、病に対抗する術をお持ちでしょう。共に手を取り立ち向かうのです」 


 ロイド様が、大同団結の精神を発揮した。その言葉を受けて、異教の司祭様達は治療場所として自分達の教会を提供したい、と申し出てきた。王宮から派遣されてきた人達は事前に話を聞いていた様で、問題無しと言っている。元々は、こちら側の教会を使う予定だったのだが、お貴族様達に連れて来た人数を聞くと、四十七人と結構な数になる。とても全員は収容できないそうだ。この度の治療の対象者は皆こちらの宗教とは関係が無い。自分が信仰する神様に見てて貰った方が患者も安心するだろう。なので、比較的軽症の方を収容して貰う事になった。




 船が繋いである岸に案内して貰うと、四隻連なっている。掲げてある旗が被っている一隻を除いて、一家一隻だろう。二隻出したのはセルトリアまで談判に来たお貴族様で、舳先で手を振っている。本人が越境しないと言ったのは、こういう意味だったわけだ。


 岸には小屋が何軒か建っていて、警備の兵士がいる。聞くと治療用の場所として作ったらしい。ここは直轄地だからナオネント公の指示で作ったのだろう。小屋には手洗いに使うための魔法水の樽が三つ置いてあった。


 船は川岸に作った桟橋にロープで括り付けてある。出航しなければ問題無いと言われたので、乗り込んだ。 


「患者を運ぶ船員の感染防止はどの様に?」

「あれです」


 あれと言うのは甲板に積んである幾つかの樽だった。沸騰させたお湯を冷ましたのを詰め込んでいるらしい。


「患者を乗せた船は、この船とロープで繋いでおります。川ですから岸から話せば川下に流れて行きますので。ですから、船員は舵を切る者だけです。あの様に、沸騰させたお湯に長時間浸した布で顔を覆っております」


 確かに舷側で舵を取っている人が顔を布で覆って、目だけ出している。

 ふむ。出来るだけの事はしてるんだな。




 警備の兵士とかじ取りは、念のために待機して貰う事にした。もしも、症状が出たら治療対象になるからだ。


 まずは、患者への聞き取りだ。ロイド様以下神官勢はコウモリの羽で作った感染防止服を着た。異教の神官は持っていない。これでは不味いので持って来た予備をロイド様が渡していた。いざ船に乗り込むと、病気が病気だ。臭いが酷い。着替えの類は人数を把握している異教の教会が用意してくれているので、お任せする事にした。


 患者は一人一枚の布を持っていて、皆甲板にそれを敷いて寝転がっている。一番遠い人でも丸一日船に乗れば着くところから来たらしい。お貴族様やお大尽の話では、ノルマの十人を達成するために地元の教会への調査依頼を始め、領内総ざらえで集めて来たそうだ。


 実際にロイド司教やシアーニャが診ると、流行を警戒している疫病の感染者は半分もいない。恐らくは別の理由でお腹が痛いとか、冬場に流行る風邪の強い症状が出る肺にくる疫病だ。ただ、患者達の身近な人達に対象の疫病患者がいたのは間違い無い様で、夏場には亡くなった方もいたらしい。感染を疑うのは当然だろう。


 ロイド様の処置として、まずは四十七人の患者を症状ごとに分ける事にした。第一グループが対象の疫病患者で、十八人が該当すると思われた。第二グループが肺にくる疫病患者で、これが十一人だ。第三グループの十九人は多分疫病では無い。ただし、第二、第三も、疫病患者と共に船に乗って来た。症状が無い者も感染しているかも知れないので、要観察とした。そして、第四グループで、これは今回の処置に関わる船員や警備の兵士達だ。彼らも沐浴が必要だ。


 岸には幾つかの小屋がある。グループごとに小屋を振り分けた。


 第二グループは魔法水では治らない。ロイド様が異教の教会長と話をして、感染防止だけやって全てお任せする事にした。樽詰めの魔法水一樽分にハリス様がホーリーを放って強化した。強化魔法水で手洗い、洗顔、うがいを済ませた後で、一人ずつ順番に裸になって貰い、手拭を魔法水に浸し身体を拭けばいいだろう。こちらも異教の神官にお任せした。薬草の種類は彼らも知っていたし教会に予備があった。

 第三グループは、特に急がない。発症しなければ問題ないので、感染防止の後はゆっくりと休んでもらう事にした。

 第四グループは、感染防止措置をやった後で任務に戻って貰えば良い。


 問題は第一グループだ。無論即刻処置だ。

 十八人いる。私達が滞在するのは、今日を入れて三日だ。完治は無理だろう。症状の重い人から順に魔法を放つ事にした。


「ジャンヌ司教、ご提案がございます」


 ナオネント大教会の大司教様だ。


「この小屋を女神様の祠にしましょう。女神様の御姿は持って来ております。簡単な儀式が必要ですが、そう時間が掛かるわけではありません」

「祠にすると何かあるのですか?」

「魔法の効きが良くなります」


 そうなのか? 流石は女神様。御姿にもお力があるわけだ。


 魔法の効果が安定するなら、乗らない話が無い。しかも、大司教様自らが実施してくれるのでれば文句なんか無い。早速、お願いする事にした。




 ロイド様と共に患者の様子を改めて診て見ると、かなり危険な状態の方が四人いる事が判明した。病状が悪化したのだろう。

 小屋を見ると、無事に祠化が終わった様だ。木の板に患者を乗せて、運び込んだ。


「ハリス様、この四人の方には八斉射を使います」

「大丈夫なのか?」

「息を整えながらであれば、四回は可能です。ただ、その後私は暫く魔法を使えなくなると思います。ですから、魔法水をホーリーで強化して、患者さん達を沐浴させてあげて下さい」

「分かった。無理はするなよ」


 その後、患者達への食事の準備をするようにお願いし、治療に入る事にした。




 患者は、熱が出ているのでぐったりしている。服を脱いで貰って、地元の教会が持って来てくれた聖水で身体を清めた。その間も、大司教様が祈祷をしてくれていて、他の神官が唱和してくれている。私は女神様の御姿を見て、その微笑みを見ながら祈祷文の一節を口ずさんだ。そのまま、錫杖を両手で持ち息を整える。


「アンチ・セプシス!」


 八斉射だが、実際に錫杖から放たれたのは、黄色い丸太ホーリー程度の光だ。やはり上級にまで落ちた。それでも、こめかみに汗がにじんだ。


 放たれた黄色い光は、患者の体を包む。


「暖かい……」


 目を瞑った患者が呟いた。




 光が消えてなくなった頃、患者に目を開ける様に促す。


「お加減はいかがですか?」

「大分楽になりました」


 目を開けた患者は、辺りを見回すと自分の額に手を当てた。


「な、治ったんでしょうか?」


 そのまま、体を起こした。

 周囲の人達から感嘆とも驚嘆とも取れるどよめきが上がる。成功した。


「まだ治療が必要です。病気の元が完全に無くなったわけではありません。それに、ここで放てる範囲では最も威力の高い魔法を放ちました。その分、お体にも負担が掛かります。どうか、ゆっくりと静養なさって下さい」

「あ、ありがとうございます。大分、本当に大分楽になりました!」


 裾に縋って来ようとするので、しゃがんで押しとどめた。症状は軽快したようだが、まだ治っていないのだ。この先、まだまだかかるだろう。カドガン様が持たせてくれた魔法水で沐浴し、こちらの教会が用意してくれた薬湯を飲んで十分な食事を摂る。そうやって、体力を回復させながらじっくりと治して貰うしかない。


「死ぬと、死ぬと、ばかり思っていました。本当に有難うございます」

「大丈夫です。安心して下さい。ここには、貴方の信奉する神に仕える方達もいらっしゃいます。貴方が信奉する神様も見守ってくれているはずです。きっと元気になれます。大丈夫ですからね」


 そう言って、異教の司祭様を見る。司祭様は分ってくれた様で、患者の傍に来て手を取ると、お祈りを捧げてくれた。


 無事に上級を放つ事が出来た。大司教様の言った通りだったわけだ。早速、アンリ様に報告するネタが出来たな。

 水筒のワインを一口飲み、息を整えて二人目以降の治療を開始した。




 何とか、四人の急患を軽快させる事が出来た。今までにアンチ・セプシスを八斉射で放った事が無かったせいもあって、少々足元がふらついている。汗だくだ。見かねたのか、ハーミット様がしゃがんで背中を見せてきたので、そのままおんぶして貰って、小屋を出た。


 出たと同時に、拍手に囲まれた。

 お貴族様やお大尽、護衛の兵士達が外から見ていたらしい。


「ジャンヌ司教、見事であった!」

「本当に素晴らしい。それに、我らの神に仕える神官との連携の良さ」

「有無。得てして排他的な者共が幅を効かせておるが、少し考え直さねばならんな」

「やはり、生まれてこの方魔法を見た事も無い輩には、理解出来ぬのでしょうな」


 口々に褒めてくれる。何よりも、共存共栄の精神に共鳴してくれそうな雰囲気が嬉しかった。


 お貴族様達が、気付けにワインを飲め、と言ってくれたのでご馳走になった。大陸産の上物だ。最近金回りの良いマルセロさんは、こういった物しか飲まない様になっているが、その気持ちも良く分かる。もったい無いので、少しずつ味わって飲んだ。




 ところで、この三人の貴族様の領地の感染状況はどうなのだろうか?

 参考までに聞いてみると、地面に木の棒で簡単な地図を描いて説明してくれた。


 地図で見ると、川は今居る所から見ると東の方から流れて来る。ここから駅逓一個分がセルトーニュとの国境線になっている。その先は、川の南北共に西リーベルらしい。

 今回患者を集めて来たお貴族様三人は、今居る場所の真向かいがセルトリアまで来たお貴族様の領地になる。西は陸路で、北は川を挟んでセルトーニュと接している。東隣りが髭のお貴族様の、そして更にその東が三人目のお貴族様の、それぞれの領地になるそうだ。一番東から来たお貴族様の領地で川は南へ曲る。川の東は山地になっていて交通の便が悪い。つまり、三人のお貴族様が頑張れば、西リーベル南西部への疫病の感染をある程度川で食い止める事が出来るかも知れない。


「川を渡って良い場所や船を着けて良い場所は決まっておる。そして、川沿いには常に巡回により目を光らせておる。休戦中とは言え今は戦時中だ。許可なく無断で川を越えようとする者は、見つけ次第その場で殺して良いと言っておる。しかし、川の向こうと商売する者はどうしても必要じゃ。川を渡らんといかんから通船を出して人を渡さんといかん。その分、北の海岸部や王都に比べれば、ほんの僅かではあるが、感染者が出ておる。流行を何とかして食い止めねばならんのだ。ジャンヌ司教、どうかご指導願いたい」


 川の北側の様子を聞いてみた。そこは広い平野部で、西リーベル王都と今のゲルマニア公国、セルトーニュに西リーベル北西部を結ぶ街道が集まっている要衝なんだそうな。北はゲルマニア公国、西はセルトーニュとの国境だから、まあ安全だろう。北部と北東部は低い山地で森に覆われている。つまり、北東部も西リーベル北部の沿岸地帯とは交通が制限されている。そして、そう言った地形なので、そこを護る名目で東リーベルとの戦いに兵を出していないらしい。きっと、裏ではセルトーニュと繋がっているのだろう。沿岸部から急速に疫病が蔓延する事は無いだろうとの見込みだった。

 問題は、王都が東方向にあり、平野部で繋がっているそうだ。沿岸部での戦いや東リーベル本軍との戦いで王都周辺や現在のゲルマニウム公国領東部沿岸を兵士が往来した。そして、王都との繋がりは断つわけにはいかない。夏場は、その経路での感染と思われる患者が川の北にある比較的大きな町で出たらしい。そして、魔法水は有効期間を考えると、王都で手一杯になる可能性がある。三人のお貴族様は、来年は自分の領地に来るとの危機感を持っていた。

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