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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第十一話 ナオネント公国へ③

 ハリス様、シアーニャ、そして応援参加してくれたホーリーを使える神官が頑張って魔法水を強化した効果があって、患者全員が病状の改善を見せた。

 一方で、西リーベルのお貴族様三人が抱えている問題は、晩御飯の時に、ロイド様、ハリス様とシアーニャに話をしてお任せした。私は魔法水の取引自体には参加していないからだ。


 解決策そのものは簡単だろう。現在大量生産を行っている所と今後見込める所で、沢山作れば良い。問題は、有効期間内にどの様に運搬するかだろう。運べない場所では使えない。使った後の体調不良を無視した乱用も怖い。級別の高い物は命に関わる状況でなければ使わない方が良い。そういった魔法水を使うと体調が大きく変わる。体調の急激な変化は、それはそれで命に関わる場合が有るとデューネが言っていた。後は、自分達で独占しようとしたり高値で転売したりして暴利を貪ろうとする輩の出現だ。疫病は大体貧乏人の暮らす場所で発生する。貧乏が故に身の回りの事に気を使う余裕が無いから日常の衛生面が良くないし、薬草を買ったり出来ないから症状の軽い内は我慢する。食べ物が不十分だから体力が無い。金持ちが感染する頃には、既に死者が出てしまっている。


「ジャンヌ、この話は政治が関与する。知っての通り、魔法水の販売に関しては、陛下の方針でジャンヌは一切関与させない事になっている。王家かメアリーの扱いだ」


 ハリス様に晩御飯の後で言われた。

 ロイド様とハルモニアの神官勢は地元の教会に泊まり、シアーニャとセルトリア組は用意された宿屋に泊まった。寝る前に、明日の事について打ち合わせをしたいからと言って、ハリス様とハーミット様の部屋に皆で集まった時だ。


 そうなのか? 知らなかったな。


 ヴィルとボニーを見ると目を逸らされた。知らなかったのは私だけなのか?


「メアリーに聞いていないのか?」


 ハリス様にびっくりされた。シアーニャが笑っている。


「ジャンヌを政治から守るためだ。考えても見ろ、今や魔法水は白銀並みの戦略物資だぞ。売る売らないで外交方針が変わる。戦争の原因にもなりかねん」


 そう言えば、各店舗の店長になる、マチルダ、ベアトリクス、メアリー、ミアーナには、勝手に売るなと言われてきた。大人しく言う事を聞いてきたのだが、背景にそんな大仰な話があったとは知らなかった。何処で作るか……特に玉を使う場合になるが……については、皆が私の了承を得てきたが、何処に売るかは特に意見を求められていない。


 あまり深く考えていなかったな。


「まあいい。今の所順調だし、勝手に取引をまとめなければ問題は無い」


 店長がしっかりしているから大丈夫だろう。それに、大体、取引話自体をエレノア様、ハリス様やメアリーに任せているしな。いずれにしろ、輸出は国王様の承認が必要だ。それに西リーベルとの取引は、ノーザン・グラムと話を付けなければならないはずだ。それが分っていれば良いのだろう。




 二日目になると、八斉射を放たなければいけないような患者がいなくなったので、上級を放つ積りで初級を放った。ただし、当初の予定の五人では無く、倍の十人にした。午前中に五人、そしてお昼ご飯を食べた後に少し昼寝をして五人だ。一人放った後、次の人に放つまでの間も長くした。終わった後の疲労の度合いは、一日目と変わらなかった。強化された魔法水は、二日目も更に強化された。そうやって、皆で頑張った結果、患者の容体はかなり良くなった。


 お貴族様やお大尽は、特に文句を言うでなく、ロイド司教に感染者が出た場合の対処法についての説明をきいていた。


 プライモルディアでは、アンリ様が中心となって感染経路の特定を急いでいる。大昔から悪い水が疫病蔓延の元と言われていたらしく、大元は水の可能性が高い。飲み水に気を付けるのは当然の事だ。水浴で身体を洗った場合もそうだ。手指が汚れていた場合、何かを食べる時に手で掴むと口に入ってしまう。エングリオ軍が出征した時、感染者がいる区域に入る時は、必ず魔法水で手指を洗い、洗顔をし、うがいをした。感染者が使った衣類や食器も魔保水に漬け込んだ。それを徹底していたそうだ。


 精霊達の話によれば、病気の元が何らかの形で人間の体内に入り、そこで大量増殖した場合に病状が悪化する。そして、その増殖した病気の元が人間の体から出て、それが他人に移ってその人の体内で大量増殖した場合、新たな感染者が出る。病気の元が感染者のどこから跳び出して来るのかは明確では無いが、要は体内から排出される何かだろう。涙や汗から始まりお通じ系に至るまで、人間は様々な物を排出する。そこに病気の元が混じっていた場合、それに近づかなければ感染しないはずだ。


 後は、魔法水が無い場合の代替え品だ。例えば、酢は水虫の初期症状に効き、強いお酒は戦場病の予防になる。今の所はっきりとはしていないが、患者の面倒を診る者は、水だけではなく酢や強いお酒で手指を洗うのも蔓延防止の方法の一つだ。アンチ・セプシスを使った腐敗防止用の木箱の効果を考えると、塩漬け、酢漬け、酒漬けの果物は、簡単に傷まないのと共通する。実は、食品が傷むと病気の元と同じ黒い点が増える。そして腐らせる。食品の腐れと病気では、厳密には元が違うのだろうが、生き物にも人間や精霊や魔物といった種族の違いがある様な物だろう。人間を食い殺すのは、何も猛獣や魔獣だけでは無いのだ。




 三日目も二日目と同様だ。初日の重症者は食事の量も増えた。最初から症状が軽くなった者は、お通じ系の具合も良くなった。因みに、感染者のお通じ系は、感染源になりかねないとの判断で、健常者とは別の場所にしている。穴を掘って板を渡し、そこで踏ん張って貰った。板五枚で目隠しと天井も作ったからプライベートも守られる。排泄物は、日に二回、汚れた肌着と共に油をかけて燃やした。燃やした後は土をかける。一杯になったら完全に埋めてしまえば良い。このトイレも、お貴族様やお大尽には勉強になった様で、羊皮紙に書き写していた。


 結局、お貴族様とお大尽は、直接的な利益になる様な事はなかったのだが、ロイド様から最新の疫病対策と効果的な薬草を教えて貰う事が出来てそれなりに満足した様だ。正直言って、領主は感染予防にもっと力を入れるべきだと思う。




 そんなこんなで最後の日の夜だ。順番に湯あみを終えて寝ようとしていたら、ハリス様とハーミット様が、部屋に来た。


「ジャンヌ。今すぐにここを出た方が良い」


 ハーミット様だ。何か問題が起きたに違いない。


「何があったんですか?」

「これから、何か起きるかも知れない」


 これは容易ならない。声を立てない様にして、身づくろいだけ整えた。


「宿が何者かによって見張られている様だ。皆が出て一時間したら、この部屋の灯りを消す。それまでに安全な所に避難するんだ。ハーミットについて行けば良い。シアーニャ司教も、ご同行願います」


 何者かとは誰なのか? 分からないが、兎も角も逃げる事になった。


 ハーミット様が言うには、見張りは宿の玄関と裏口を見張っているらしい。出口は他に無いから逃げようが無い様な気もする。カモフラージュが使えないから、姿を隠す事も出来ない。部屋を出たは良いが、何処へ行けば良いのか? ただただ、四人してハーミット様の後ろについて行った。




 宿は三階建てだ。国境の関所が近いだけあって、なかなか大きい。何せ、何かあって国境に兵を終結させる場合、指揮官のお貴族様が寝泊まりする場所になる。歴史も有り格式も高いのだそうだ。

 宿は東西に走る街道の北側に建っているので、玄関が南側になる。玄関を入ると正面に受付と階段。右手……つまり東側に食堂と厨房、左手に事務所や倉庫がある。車止めと馬小屋は倉庫の北側だ。二階と三階が客室だ。部屋は二種類ある。小部屋と大部屋だそうだ。二階、三階共に、真ん中のらせん階段を上がった踊り場の左右に廊下がる。廊下の両側には小部屋が左右四部屋ずつ両端に大部屋が一つずつある。小部屋は基本一人から二人用で、大部屋は家族用らしい。因みに二段ベッドを使っているので、その気になれば収容人数は倍になるそうだ。私達の部屋は三階の東側の大部屋で、宿のご主人が言うには、一番良い部屋だそうだ。


 ハーミット様に連れられたのは、三階の西側の大部屋だった。

 扉を開けて中に入ると、二段ベッドが四つ並んでいる。カーテンが引かれているので誰かが寝ていたとしても分らない。


「良く来たの」


 一つのベッドのカーテンの向こう側から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「もしかして、ヘンリー様ですか?」


 声を掛けると、バサッとカーテンが引かれ見覚えの有る顔がいた。


「いかにも。行商人ヘンリー一行の代表ヘンリーじゃ」


 続けてバサバサと四つのカーテンが一斉に開き、ニコニコ顔のエレノア様とハロルド様が顔を出した。演劇か何かの登場シーンの積りなのだろうか? いい年をして、良くも恥ずかしくないな。いや、二段目に居るウィルソンさんは俯いている。やっぱり、化け物はどこか違うのだな。


「エドワード。貴方、何をしているの?」

「お、叔父上の命だ」


 四つ目は大声王子ことエドワード様だ。真っ赤な顔をしてるじゃ無いか。しかもベッドが小さいせいで窮屈そうに足を曲げている。いっその事床で寝た方が良く眠れそうだ。

 さては、ヘンリー一行に加えられてしまったな。

 これ以上犠牲者を増やすんじゃない!


「ヘンリー一行が、こんな所まで来て、一体何をやってるんですか?」

「決まっておる。行商じゃ」


 ちゃんと越境して来たんだろうな?


「ご挨拶だな。不穏な連中にこの宿が見張られとる故、助けてやろうと言うに」

「ハロルド、まだ不穏とは決まっていませんよ」


 エレノア様が反論していると言う事は、未確認なのか?


「名乗りも上げず己の正体を隠して神官の集団を見張っとる段階で不穏よ」

「それは引退前の貴方の仕事の一つではなかったですか。ああ、なるほど、分かりました。だから不穏なのですね」

「抜かせ! 人の事が言えるか?」


 人の事を放ったらかしにして口論を始めた。

 ねえ、ヴィル、ボニー、どうして勝手に空いたベッドに潜り込むの? しかも、一旦カーテンを引いた後で、バサバサ開けているし。そんな事したら、喜んでる化け物三人が調子に乗るわよ。




 新たにエドワード様をその一味に加えたヘンリー一行は、行商人としてセルトーニュ入りを果たしていた。書類を揃えたのは無論プライモルディア王だ。今回は湿地の騎士団も動いていない。ミアーナを心配する余りヘンリー一行を頼ったに違いない。


「一体、誰が私達を見張っているんですか?」


 専門家のハロルド様に聞いてみた。


「恐らくは、どこかの国に拠点を構える者の斥候の下っ端と繋がりのある地元の顔役が雇っているゴロツキの手下のチンピラと顔見知りの物乞いじゃ」


 それはもう、限りなくただの物乞いでは無いのか? 仮に見張っているとしても、本人も何のために見張っているのか分からないだろう。


「そう言った輩が一番面倒なんじゃ。金さえ貰えれば何でもするからな」


 逆に言うと、お金を渡さなければ何もしない訳だ。つまり、今回は渡した者がいるのだな。


「目的は何でしょうか?」


 シアーニャがハロルド様に聞いた。


「そうさのう。ヴィルヘルミナよ。そなたに聞きたい事がある」


 何故かヴィルに振る。


「例えば、ジャンヌがこの地で殺されて、その下手人が西リーベルの者であったら、どうなるかの?」


 このオッサンは、いきなり何を言っているんだ? 神官を殺すなんて、あって良い事では無いぞ。


「北西海岸条約は東リーベルと同盟を結び、西リーベルに宣戦布告するでしょう」


 はあ?


「ちょっと、待ってよ。ヴィル、あんた何言ってんの?」

「ジャンヌ。貴方は陛下の命を受けこの地に来ました。その背景にはメディオランド王都大教会長からの依頼があるのですよ。ヴィルヘルミナの回答は、当然想定しなければいけません。しかも、副使はシアーニャ王女なのですから猶更です」


 エレノア様が、思いの他厳しい口調で言ってきた。

 思わず、口をつぐんでしまう。


「では、下手人が東リーベルの者では?」

「北西海岸条約は西リーベルと同盟を結びます」


 うむ。とハロルド様が頷く。そんな大げさな話になるのか?


「と言う訳じゃ、ジャンヌ。今のやり取りはほんの一例に過ぎん。自国の戦争に白い島の各国を巻き込みたい輩がおったら、面倒じゃろうが。しかもゴロツキなんぞ、殺した後で雇い主をでっち上げればどの国の依頼かも簡単に変わる。戦争なんてもんは、そう言った下らないこじつけで起きるんじゃ」


 起きると言うか、もしかして起こした事があるんじゃないのか?


 兎に角、白い島が戦争に巻き込まれないように……恐らくはミアーナを護るために……密かに護衛を買って出てくれた様だ。まあ、有難いと言えば有難い。


 私を殺したがっている連中には、異教の排他主義者も加わるらしい。特にナオネント公国は、改宗した人が再改宗したりしている。疫病に罹って死ぬ事も神の意思なのに、その意思に反して邪教が怪しげな事をやっているなどと言いふらす者までいるそうな。無論、治療に参加した様に、地元の異教の神官は関与していないはずだ。まともなお貴族様もそうだ。そんな訳の分からん解釈を勝手にするのは決まっている。狂信者という者はどこにでもいるのだ。事実、飛竜が住む島では殺されかけた。生きたまま飛竜に食わせる儀式だったから良かったものの、殺して食わせる儀式だったら間違いなく死んでいた。




「さて、そろそろかの。お主らには隠れて貰う」


 ベッドから這い出て来たハロルド様が、シアーニャの前に片膝をついた。


「シアーニャ様、申し訳ござらんが、ジャンヌらと共に安全な場所に御身を移して下さいますよう、お願いする所存」


 嫌も応も無いな。仕方が無いだろう。

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