第15話 革命
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皆様本当にありがとう御座います。
あれから門番のおじさんには止められるわ、寮ではミレーヌさんや寮母さんから止められるわ…寮母さんはここに来てから見た事もないほど怒っていた。(もちろん心配していたため)
そして、かなり遅くなってしまった物のやっとの事で眠りに付く事が出来て、翌朝。
朝食を摂って、服装を昨日の服(魔法の洗濯機が寮にはあり、それを使う事でどんな汚れも直ぐに落ちる!)を着て、大きさ・形の変わってしまった剣を背中に差すと昨日の龍の鱗などその他諸々の入ったポーチを装備して準備完了。
寮の入り口でミルと待ち合わせをした。
「お待たせしました!」
男子寮と女子寮の丁度中間の所でロイと合流し学院の入り口である正門から出ると、そこには昨日の馬車に凭れてタバコを噴かすベリルさんがいた。
空に向かって胸一杯に溜め込んだ煙を吐き出すその姿は哀愁が漂っている。
私達に気が付いたのか、凭れ掛かっていた馬車から背を放しこちらに寄って来た。
「よく来たな。本当は歩いて行っても良いかと思ったんだが…まぁ、キミは足を怪我していたからな。魔法で治療して貰ったみたいだから歩く事は出来るようだが、無茶はしない方が良い」
ミルの方を見て自分の足で歩いている事を確認しながら言った。
やっぱりベリルさんは先の事を良く考えて行動できる人の様だ。
昨日の事も普通の人なら私達三人の戯言だと思って適当にあしらう人が殆どだろうに、真面目に聞いてくれたばかりかその事態の深刻性を王都のギルドマスターに直接掛け合ってくれると言う。
今も、ミルの昨日の怪我を心配して馬車で迎えに来ると言った事をしてくれている。
自分には気が付けなかったそんな所がAAランクのハンターとして培ってきた判断能力なのだと思い知らされる。
昨日今日で会得出来る様な甘い世界ではない。
「まぁ、乗れよ!そんなに遠くないから直ぐに着く。まぁ、当事者のキミ達には少し大変かもしれないな?」
豪快に笑いながらそんな冗談を言うベリルさんに私達も少し落ち着き馬車に乗り込む。
三人で今日は何も乗っていない馬車の荷台に座り込むとロイが溜息混じりに言った。
「今の最後の言葉…冗談?それとも…」
「まさか、私達はまだDとFランクなのよ?そんな事…ねぇ?」
「そ、そうよ…」
三人で話をしている中、ミルの強気な発言を支持する事で頭の中を占領しようとする嫌な考えを払拭しようとする。
荷台は少し重苦しい空気が漂っている中、外からベリルさんの「出発~!」と言う陽気な声と爽やかな朝に合った小鳥の鳴き声が響いていたがそれに気付く余裕など私達には微塵も無かった。
馬車から降りた私達を引き連れて前方をズンズン足音を響かせながら進むベリルさん。
ギルドの扉を突き破る様に開き、それに続いて入るとギルドの中はザワザワとしていた。
「おい、あの男って…」
「あぁ、あの『遊撃のベリル』だぜ?」
「おいおい、Aランクが数人いる王都のギルドにAAランクが何の様だよ?」
「噂じゃ、長の密命で世界中を歩き回って何かを調べているらしいぜ?」
「わざわざAAランクをそんな雑用に使うなんて長も何を調べさせているんだ?」
私達三人はベリルさんに付いて歩きながら顔を寄せて話していた。
二人とも目が点になっている様で、恐らく自分の顔も二人と同じ様な顔になっている事だろう。
「やっぱり、ベリルさんって凄い人だったんだね?」
「まぁ、AAランクなら普通だと思うけど…」
「王都のギルドマスターは部屋から出てこないしね」
すっかり話し込んでいるとベリルさんがカウンターの前に着いた様で、カウンターに立っている以前の登録の時の受付嬢さんが笑顔をこちらに向けてくる。
「こんにちは!本日はどの様なご用件でしょうか?」
「俺はマック・ベリル。ここのギルドマスターに緊急の要件で話をしに来た」
「ギルドカードをご掲示下さい」
「えーっと…あれ、何所に仕舞ったっけ…?」
ポケットの中を手で弄る様に調べて探すベリルさんはそんなに凄い人には見えないのに、やっぱり世に言う人は見かけによらない…と言うヤツなのだろうか?
「お、あった、あった!」
やっと見つけ出したようでベリルさんが受付嬢さんに手渡したカードは金で出来ており、所々に色取り取りの宝石や何かの魔物の物だろう爪が付いていた。
受付嬢さんは手元でベリルさんのカードで何かしているようだがカウンターが邪魔でよく見えない。
しばらくしてから受付嬢さんは、手元の電話で手短に話をするとベリルさんの方に向き直った。
「ギルドカードを確認しました。ベリル様、マスターは執務室にて話をさせて頂くとの事です。執務室はそちらの廊下の突き当りの部屋になります」
「ありがとう、三人とも行くぞ」
「あの、そちらのハンターはここのハンターであったと思うのですが…」
「あぁ、今回の話は三人にも関係がある話しなんだ…では、失礼する」
ベリルさんが話を打ち切ると、受付嬢さんに指示された普段は柵があって入れない様になっている廊下を職員の方に空けて貰って奥へと進んだ。
「ここか…」
廊下を歩き突き当たりの扉をベリルさんがノックする。
中からどうぞと声が掛かるのを待って部屋の中に入った。
部屋の中は以外にもサッパリとして機能性を重視した様な執務机や大量の資料の収まる本棚、滅多に使われないのか資料が積み上げられた応接セット。
そして、執務机に座るのは…シワシワの老人だった。
髪や髭は真っ白になり、顔には多くの傷や皴が残るいかにもって感じの老人。
手元で書類にペンを走らせていた老人はこちらを向いた。
「ようこそ、ハンターズギルド王都支部へ。『遊撃のベリル』殿」
「ああ、始めましてだよな。AAランクの『爆心のリカルド』」
「いえいえ、一度だけ本部での総会の折に顔を合わせておりますよ。お噂はお聞きしております。そして、そちらの三人は今年登録なされた学院の生徒だったと思いますが…本日はどう言ったご用件ですかな?」
顎鬚を手で撫でながら目を細めるマスターはAAランクとは言った物の、流石にこの歳になっては前線からは退いているだろう。
しかし、瞳の奥には鋭い光が宿り私達を探る様に見ている。
「龍が王都近郊に現れた」
「ほう、少し話が長くなりそうですな…どうぞお座り下さい」
そう言いながら、マスターは魔法で応接セットに散乱していた書類や資料を除けると私達に座るように促した。
すると直ぐにマスターは魔法でそれぞれの前にティーセットを出すと、砂糖とミルクを入れたミルクティーにして口に含んだ。
「貴方ほどのハンターであれば倒す事は叶わずとも撃退する事位は十分可能でしょうな…して、本日のご用件は報酬の催促ですかな?」
そう言っているマスターはそんな事を微塵にも思ってなさそうな顔をして飄々と言ってのける。
ベリルさんと同じAAランクのハンターがそんな考えに至るとは思えない。
「随分人が悪いな。分かっていてわざとそんな質問をするとは…」
「何の事ですかな?」
「呆けたふりをして笑っていられるのも今の内だ。私はそれだけ重要性の高い情報をここに持ち込んでいる」
一人称の変わっているベリルさんは凄い迫力だった。
さっきまでと纏う空気の質が圧倒的なまでに違う事を肌に感じる。
隣に座る姉弟は萎縮して固まっている。
無言で先を促すマスターに話し始めたベリルさんの言葉に徐々に表情が硬くなっていくのが分かる。
「先日の王都近郊の森に出現した龍は黒龍。災厄を運ぶと言われる辺境の幻獣。通常ならその任務は最高難易度のLランクに匹敵する。今回は幸い幼体だったため恐らくS~SSランク程度だったのだろうが、仔龍が出てきたと言う事は親も直に動き出すだろう。そして、今回王都近郊の森林を焼き払った龍を撃退したのはこの三人だ」
あの強力な龍が幼体?
あれには親がいるという真実を聞いて私達三人は愕然とした。
ただでさえあそこまで強い龍が成長したらどれほどの力を有するか想像もできない。
「そんな馬鹿な事が…低ランクハンター三人で相手に出来る様なものではない」
「俺も本当ならこんな事は信じたくはない。しかし、傷付き空を飛んでいく黒龍を確認した。それに加えて…あれを出してくれ」
ベリルさんに話を振られたのに反応して、私はポーチから龍の牙などの部位を取り出して机に並べる。
牙や爪、角等が騒然と並ぶ光景は圧巻である。
「龍の体の一部だ」
「馬鹿な…本当に低ランクハンターが龍に傷を負わせるだけでなく、撃退したと言うのか」
「この龍の一部はギルドが貰い受けよう、キミ達は帰りなさい」
「そいつは可笑しいな。龍の一部なんてレアな物、その中でも最高と言われる黒龍の体の一部だぜ?常時、ギルド本部からの依頼として世界中に回っている筈だ。それを、貰い受ける?これはこの子たち三人の物だ。命を懸けて立ち向かった者達の勲章だ。アンタは現役を離れてそんな簡単な事も分からないくらい耄碌しちまったらしい。王都のギルドマスターはそんな者には任せられない。退職してもらおうか?」
言葉が元の荒い物に直ったベリルさんは矢継ぎ早にそう言うと、マスターは顔を真っ赤にして、荒々しく椅子から立ち上がった。
「何を言うか!貴様の様な若造にそんな権限などない!私はAAランクなのだぞ!!」
今までの大人しそうな老人の姿はそこにはなく、ただ怒鳴り散らし憤怒に燃えるのみであった。
そして、ベリルさんは懐から一枚の板の様な物を取り出すと老人に向かって突き付けた。
板からは魔法なのであろうホログラムの様に文字が浮かび上がり、板の上を漂う。
そこには、厳かな筆記体にて次の様に書かれていた。
『この者、AAランクハンターであるマック・ベリルはギルド及びそれに類する者に対して絶対的命令を行使する権利を有する事を証明する。この権利において、ギルド関係者はあらゆる状況において命令を遂行する物とし、遂行する為のあらゆる行為をLランク所持者“破界”の名の下に容認する』
「あ…あぁ……」
「今すぐこのギルドから去って貰おう」
ベリルの言葉に呆然として部屋から退室するべくフラフラと足を動かす“元”ギルドマスター。
その背中に追い討ちを仕掛けるべく、ベリルさんが思い出したかの様に声を掛けた。
「あ、ついでにギルドカードは貰っておく。下手にAAランクの肩書きを使われるのも面倒なんでな。そこに置いて行ってくれ」
愕然とした老人は顔を青を通り越してその髪の様に白くしながら、震える手で懐からギルドカードを取り出して机の上に置いて退出した。
部屋の扉が閉まる音に気が付いて私は立ち上がって、ベリルさんに言った。
「ベリルさん!あれ位でギルド追放なんて…幾らなんでもやり過ぎです!」
「キミ達には言ってなかったがな…今回俺が王都に来たのは、商人としてともう一つ用があって来たんだ」
「用…?」
「そう、え~っと…ほらこれを見れば分かるぞ」
そう言って取り出したのは、机の上で先程まで元ギルドマスターが何やら記入していた資料の様だった。
それを受け取ると、三人で囲む様に資料を覗き込む。
そこには、何やら魔物等の討伐・狩猟対象となる名前の横に数字と地名が書き込まれたリストだった。
「ロックドラゴンにサラマンドラ…それに、何かの数字。隣町や他国の都市の名前も書いてあるけど…何なのこれ?」
「もしかして…」
「恐らく、キミの想像通りだ」
ミルは分からなかった様で頭を悩ませているが、ロイは分かった様で目を見開いた。
それに頷きながらベリルさんが補足をする。
「それは、王都のギルドから地方の成金や他国の大商人に魔物等の横流しをしていた決定的証拠だ。最近では、通常Aランク以上の任務はギルド本部から分配されるのが、王都支部では勝手に依頼を作り、明らかに不自然なほど釣り合わない報酬で任務を行わせた上でそれを本部に報告しなかったという報告を受けて俺が動いた。他にも、幾つか王都ではきな臭い話が上がっている。内部告発の嘆願状まで届く始末だ」
「そんな…」
「それをギルドマスターが全て肩書きに物を言わせて強制しているという報告を受けていた訳だ…まぁ、その話はこれ位にして、話を元に戻そう。マミ、これを持ってくれ」
そう言って手渡されたのは、小さな水晶玉だった。
手に取ると淡く内部から電球の様に輝いた。
「もういいぞ」
そう言って、水晶玉を受け取ったベリルさんは片目を閉じて覗き込む様に水晶玉に瞳を寄せるとしばらくジッとしていた。
ミルが怪しげな目でベリルさんを見る。
「何してるのよ?」
「昨日、君たちの見た光景を見せて貰っている。どうやら間違いないようだ」
「そう言ったじゃないか…まだ、信じてなかったの?」
「いや、本部に証拠として送る必要があったからな。それと、今のを見て決めた事がある」
「決めた事?」
私達三人はベリルさんを見て言わんとする事を聞き取ろうとする。
「まず、しばらく俺が王都のギルドマスター代行をする…そして、キミ達姉弟はCランク。龍を直接撃退したマミ、キミはBランクに昇格する」
「「「えぇ~!?」」」
しばらくの静寂の後、三人の驚愕の叫び声が執務室から響き、ギルドにいた人を驚かせたという。
気になる点など御座いましたら、ご報告下さい。