第9話「影喰」
「クワ、クワ、クワセローー!!」
影喰が大きな口を開け、四季ちゃんに襲いかかる。
「ふん!」
四季ちゃんは横に飛び、攻撃をかわした。
影喰の体が床にぶつかり、音楽室全体が大きく揺れる。
「うわっ!?」
私は思わず壁に手をついた。
「神名! そこから離れておれ!」
「う、うん!」
私は慌てて音楽室の入口まで下がる。
「クワセロ、クワセロォォ!!」
影喰が再び四季ちゃんに向かっていく。
「何度やっても同じことじゃ!」
四季ちゃんが手をかざす。
すると、光の球がいくつも現れ、影喰に向かって飛んでいった。
ドォン!!
光の球が命中し、影喰の体が大きく揺らぐ。
だが、
「ァァァ!!」
影喰は倒れなかった。
それどころか、体の一部を大きく広げ、四季ちゃんに覆いかぶさろうとする。
「ちっ、面倒なやつじゃな!」
四季ちゃんは後ろに下がり、攻撃をかわした。
「四季ちゃん! 大丈夫!?」
「問題ない! それより神名、影に気をつけるのじゃ!」
「影?」
その瞬間、私の足元にあった影が、不自然に揺れた。
「えっ……?」
影が床を這うように伸びてくる。
まるで、私を捕まえようとしているみたいに。
「神名! 動くな!」
四季ちゃんの声が響く。
しかし、影は私の足に絡みつこうとしていた。
「いやっ!」
私は咄嗟に飛び退いた。
影が床を叩く。
「危なかったのじゃ……!」
四季ちゃんが私の前に立つ。
「さっきも言ったろう。影喰は他者の影を喰らい、生気を吸う妖魔じゃ。影を通して生気を吸い取ることもできる。あやつに影を捕まえられるでないぞ!」
「そ、そんなの、どうすればいいの!?」
「わらわに任せておけ!」
四季ちゃんは両手を広げた。
その周囲に、先ほどよりも強い光が集まっていく。
「これ以上、神名に手出しはさせぬ!」
光が弾け、音楽室を照らす。
影喰が苦しそうに身をよじった。
「ギィィィィ!!」
「今じゃ!」
四季ちゃんが手を振る。
集まった光が一斉に影喰へと飛んでいった。
ドォォォン!!
激しい光が音楽室を包み込む。
私は腕で目を覆った。
やがて光が収まり、恐る恐る顔を上げる。
そこには、さっきまでの巨大な影喰はいなかった。
「た、倒したの?」
「あぁ。どうやら、今度こそ終わったようじゃな」
四季ちゃんが息をつく。
「すごい……」
「ふふん! わらわにかかれば、この程度――」
「四季ちゃん!」
私は四季ちゃんに駆け寄った。
「ありがとう! 助かったよ!」
「お、おう。なに、当然のことをしたまでじゃ!」
四季ちゃんは少し照れたように顔をそらした。
「それにしても、あれだけ大きな影喰が、なぜここにおったのじゃろうな」
「そういえば……。どうして旧校舎にいたんだろう?」
「長い間、人の影を喰らい続けていたのかもしれぬ。じゃが、それだけでは説明がつかぬこともある」
四季ちゃんは音楽室を見回した。
「少し調べてみるか」
私たちは音楽室の中を調べ始めた。
けれど、特に変わったものは見つからない。
古いピアノ、並べられた椅子、壁に掛けられた楽器。
どれも、普通の音楽室にあるものだった。
「うーん……。何もないね」
「そうじゃな。今日は一度、引き上げるとするか」
私たちは音楽室を出た。
そのときだった。
「すごいね。危険なのに、その危険を排除しちゃったなんて」
「!? 誰じゃ!!」
四季ちゃんが私に駆け寄り、周囲を警戒する。
声の主は見えない。
「慌てないで、私はあなたたちの敵じゃないから」
「そんなことを言って、誰が信じるのじゃ?」
「それもそうだね。まぁ、信じなくてもいいよ」
「お主、何者じゃ?」
「………」
声が聞こえない。
「だんまりか?」
「………私はただの『蜘蛛』だよ。ふふふっ」
やがて、声が完全に聞こえなくなった。
「……行ったようじゃな」
「四季ちゃん、今の……」
「怪しいやつではあるが、気をつけるに越したことはない」
「うん、そうだね」
「では、もう日も暮れる。帰るぞ」
「あ、うん」
私たちは旧校舎を出て、家に向かった。
すると、背後の旧校舎の窓際に影が現れた。
「神名ちゃん、すごいな〜。あんなに強そうなカミサマを連れて。あの子がいれば、十分、無事かな」
そう言って消えた。
なんだったのか?
まだ、わからない。




