第23話「退魔師の会議」
翌朝。
私は制服に着替え、朝食を済ませると、家を出た。
「神名よ、今日も学校かの?」
四季ちゃんが隣でふわふわと浮かびながら尋ねる。
「うん。今日も頑張ってくるね」
「うむ。わらわもついてくるとはいえ、気をつけるのじゃぞ」
「は〜い」
私は笑顔で返事をして、学校へ向かった。
しばらく歩いていると、前方に見慣れた姿が見えた。
「あ、神名ちゃ〜ん!」
「圭ちゃん! おはよう!」
圭ちゃんが手を振りながら駆け寄ってくる。
「おはよう! 今日も一緒に行こう!」
「うん!」
私たちは並んで歩き始めた。
「そういえば、昨日は楽しかったね!」
「うん! また山のお掃除を手伝いたいな!」
「ありがとう。きっと山の神様も喜ぶよ」
「えへへ、そうかな?」
圭ちゃんは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、私は昨日のことを思い出す。
栞とマメは、どうしてあんなに圭ちゃんを怖がっていたんだろう。
圭ちゃんは、いつもどおり優しい女の子なのに……。
「神名ちゃん? どうしたの?」
「あっ、ううん! なんでもないよ!」
「そっか! ならいいけど!」
圭ちゃんは不思議そうに首をかしげたあと、再び笑顔になった。
(……気のせい、なのかな)
「まだ分からぬ。じゃが、少し警戒したほうがよいかもしれぬな」
(うん)
私は考えながら、圭ちゃんと一緒に学校へ向かった。
その頃、人形屋敷では――。
「それでは、会議を始めるぞ」
広い部屋に、複数の退魔師たちが集まっていた。
その中には、火野不知火と伏見律の姿もある。
「まずは、最近の妖魔の動向について報告してくれ」
不知火がそう告げると、一人の退魔師が立ち上がった。
「はい。現在のところ、各地で確認されている妖魔に大きな変化はありません。ただ、一部の地域では、正体不明の妖魔が目撃されています」
「正体不明、か……」
律が眼鏡の位置を直しながらつぶやく。
「ええ。今のところ、人間に直接危害を加えたという報告はありません。しかし、引き続き調査が必要かと」
「分かった。引き続き警戒を頼む」
不知火がうなずいた。
報告が終わり、次の議題へと移る。
「続いて、先日、保護対象として接触した少女についてだ」
その言葉に、不知火が反応した。
「神名のことだな?」
「はい。周防神名。強大な力を持つ神を連れている少女です」
「四季、だったか」
律が確認するように口を開く。
「ああ。本人は山の神だと言っていたな。かなり強い力を持っているようだった」
不知火は腕を組んだ。
「神名自身は、まだ妖魔と戦う力を持っていない。だが、あの年頃で四季と行動を共にしているんだ。これから何が起きるか分からない」
「確かに。妖魔や操魔師に目をつけられる可能性もありますね」
律も真剣な表情でうなずいた。
「本人は、四季に頼りきりになるのを避けたいと考えているようでした。先日は私が護身術を教えましたが、本人も自分にできることを増やしたいと考えているようです」
不知火の報告に、周囲の退魔師たちは顔を見合わせた。
「つまり、本人にも学ぶ意思があるということか」
「そういうことだな」
不知火はうなずいた。
「神名は、これからも妖魔と関わることになるかもしれない。なら、最低限、自分の身を守れるようにしておくべきだろう」
「しかし、彼女は一般人です。退魔師として育てるとなれば、危険な任務に関わる可能性もあります」
別の退魔師が慎重な意見を述べる。
「もちろん、無理に戦わせるつもりはないさ」
不知火は首を横に振った。
「大切なのは、本人が自分の身を守る方法を知ることだ。戦うだけが退魔師の仕事じゃない。危険を察知して逃げることも、誰かを守るための立派な判断だ」
「……なるほど」
律は少し考え込んだあと、口を開いた。
「彼女が望むのであれば、基礎から学ばせるのも一つの手でしょう。妖魔に関する知識や、霊力の扱い方を覚えるだけでも、今後の助けになるはずです」
「アタシもそう思う」
不知火は力強くうなずいた。
「神名を、退魔師として育てようじゃないか。もちろん、本人の意思を尊重したうえでな」
その言葉を聞き、会議室にいた退魔師たちは、それぞれ考え込んだ。
やがて、一人が静かにうなずく。
「……分かりました。まずは本人の意思を確認し、適性を見極めるところから始めましょう」
「ああ。それでいい」
不知火は満足そうに笑った。
こうして、神名を退魔師として育てる方針が決まった。
しかし、神名本人はまだ、そのことを知らない。
彼女の日常は、少しずつ新たな世界へとつながり始めていた。




