第22話「友達と山」
私と圭ちゃんは山を登っていた。
「わぁ〜、ここが神名ちゃんの山? すごい綺麗だね!」
「はしゃぎすぎて転ばないでね?」
「は〜い」
圭ちゃんは楽しそうに辺りを見渡しながら歩いている。
「それにしても、自然がいっぱいだね〜」
「うん。私もここを歩くのは好きだよ」
「へぇ〜! あ、あそこにお花が咲いてる!」
「あ、本当だ」
圭ちゃんは花を見つけるたびに嬉しそうに声を上げる。
そんな圭ちゃんを見て、私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ、圭ちゃんって本当に楽しそうだね」
「だって、楽しいんだもん!」
そう言って、圭ちゃんは笑顔を見せた。
しばらく歩いていると、少しずつ木々の間が開けてきた。
「あ、もうすぐ頂上だよ」
「本当!? どんなところなんだろう!」
圭ちゃんは期待に胸を膨らませている。
そして、私たちは最後の坂を登りきった。
「わぁ……!」
圭ちゃんが目を輝かせる。
そこには、大きな木と小さな祠があった。
「ここが山の頂上だよ」
私は笑顔で圭ちゃんにそう告げた。
「わ〜! おっきな大木だね〜!」
圭ちゃんは頂上の中央にある大樹を眺めながら言う。
「うん、ご神木みたいじゃない?」
「あ、たしかに!」
圭ちゃんが大樹の根元の辺りを見る。
「もしかして、アレが祠?」
圭ちゃんは祠を指さした。
「うん、そうだよ」
「へぇ〜」
圭ちゃんが祠のほうへ行く。
(そういえば、四季ちゃんは?)
四季ちゃんの姿が見えない。私は辺りを見渡した。
「なんじゃ? キョロキョロして」
(あ、いた)
私の真上に四季ちゃんが浮いていた。
(先に行くって言ってたけど、どうしたの?)
「いや、二人きりにしたほうが、楽しく過ごせると思ったのじゃ。ただの気遣いじゃから、気にするな」
四季ちゃんはそう言って、圭ちゃんを見る。
「元気な娘じゃな」
(うん、とってもいい子)
私も祠に近づく。
「あ! ねぇ、神さまとか祀ってあるの?」
「う〜ん、どうなんだろ」
「わらわがおるじゃろ」
(どうやって説明すればいいの?)
「そ、それもそうか……。山の神を祀ってるとでも言っておけばよい」
四季ちゃんの提案に乗る。
(分かった)
「山の神でも祀ってるんじゃないかな?」
「なるほど〜、山だしね」
「うまくいったようじゃな」
(うん……)
「あ! そうだった! お手伝いするんだった!」
「あ、そうだったね」
「ほれ」
四季ちゃんが私の後ろに回り、何かを渡してきた。
(箒……)
「急に出したらびっくりされるじゃろ」
(まあ、うん)
「そこに置いてあった箒で、この辺りの落ち葉を掃除しようか」
「うん!」
圭ちゃんが箒を受け取り、一緒に掃除することにした。
「よ〜し、頑張るぞ〜!」
圭ちゃんは元気よく箒を動かし始めた。
「ふふっ、そんなに張り切らなくても大丈夫だよ」
「だって、神名ちゃんがいつもお掃除してる場所なんでしょ? だったら、私も頑張らないと!」
「ありがとう、圭ちゃん」
私は嬉しくなって、自然と笑顔になった。
二人で落ち葉を集めていると、風が吹いて、木々の葉がさらさらと音を立てた。
「わぁ、風が気持ちいいね!」
「うん。ここにいると、なんだか落ち着くんだ」
「分かる気がする! 静かだし、空気も綺麗だし……。学校にいるときとは全然違うね」
圭ちゃんは箒を動かしながら、辺りを見渡した。
「神名ちゃんは、いつもここでお掃除してるの?」
「うん。おじいちゃんから受け継いだ山だから、ちゃんと大切にしたいんだ」
「そっか……。神名ちゃんのおじいちゃんも、きっと喜んでると思うよ」
「えっ?」
「だって、こんなに綺麗にしてくれてるんだもん!」
圭ちゃんはにっこりと笑った。
「……うん。そうだといいな」
私は大樹を見上げた。
おじいちゃんがこの山を大切にしていたように、私もこの場所を守っていきたい。
そう改めて思った。
「よし、こっちも終わったよ!」
圭ちゃんの声で、私は我に返った。
「あ、本当だ! ありがとう!」
「えへへ、どういたしまして!」
二人で集めた落ち葉をまとめ、周囲を確認する。
「うん、綺麗になったね!」
「やった〜!」
圭ちゃんは嬉しそうに両手を上げた。
そのとき、ふと空を見上げると、日が傾き始めていた。
「あっ、もうこんな時間!」
「えっ? あ、本当だ!」
圭ちゃんも空を見上げる。
「そろそろ帰らないと」
「そうだね。今日は来てくれてありがとう、圭ちゃん」
「ううん! 私も楽しかったよ! また来てもいい?」
「もちろん!」
私は笑顔で答えた。
「やった! じゃあ、また一緒にお掃除しようね!」
「うん!」
私たちは箒を元の場所に戻し、祠に軽く頭を下げてから、山を下りることにした。
「またね、神名ちゃん!」
「うん、また明日!」
山の入口まで来ると、圭ちゃんは手を振りながら帰っていった。
私はその背中を見送り、小さく手を振り返した。
「よい友達ができたのう」
隣に浮かんでいた四季ちゃんが、優しい声で言った。
「うん!」
私は元気よく返事をした。
今日、圭ちゃんと一緒に掃除をした山は、いつもより少しだけ綺麗に見えた。
ササッと草むらが揺れた。
「ん?」
草むらを見ると、妖狐の栞と妖狸のマメが出てきた。
「アレ、怖い……」
「オイラ、怖かったぞ」
「あれ? 栞? マメ? どうしたの?」
「かの圭という少女のことか?」
「アレは人間、違う……」
栞が怯えながら言う。
「どういうこと?」
「こ奴らは獣じゃ。獣の勘で何かを感じ取ったのか?」
「とてつもないオーラを感じたぞ」
「出てきたら殺されると思った」
二匹は怯えた様子だった。
「?」
私と四季ちゃんは顔を見合わせた。
どういうことだろうか……。
その頃、暗闇の中では、蜘蛛の巣のような糸が張り巡らされていた。
「今日は楽しかった〜。でも、決意したよ。あの子は私が守らないと……ふふっ、アハハハハハッ!」
その笑い声が、暗闇の中にどこまでも響いた。




