第18話「退魔師の仕事」
帰宅後、母に挨拶をして、出発の準備をした。
「神名、準備はできたかの?」
「うん、できたよ」
私は四季ちゃんにそう答え、玄関を出た。
家の近くには、昨日と同じ黒い車が止まっていた。
「お待ちしておりました」
運転席から降りてきた男性が、私たちに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
私はそう言って、車に乗り込んだ。
「今日はどんなことをするんじゃろうな?」
四季ちゃんが隣で浮かびながら、楽しそうに言った。
「うーん、訓練とか見せてもらえるのかな?」
「ふむ。それは楽しみじゃな」
そんな話をしているうちに、車は人形屋敷へと到着した。
「着きました」
「ありがとうございます」
私は車から降り、目の前にある大きな門を見上げた。
「さて、今日はどんなものが見られるのかのう!」
四季ちゃんはそう言って、私の隣をふわふわと進んでいった。
「来たか!」
人形屋敷の奥の部屋に入ると、不知火さんが第一声にそう言った。
「まあ、見学すると言ったので……」
私は不知火さんの隣を見た。
「ところで、その人は誰ですか?」
不知火さんの隣には、不思議な衣装の少女がちょこんと座っていた。
「ん? ああ、こいつか。ここの主である術者に仕えている付喪神だ」
「あ、律さんが言ってた……」
「強大な付喪神か。確かに、オーラは隠してはいるが、多少漏れているオーラから推定するに、何千年も生きているな」
少女が四季ちゃんを見た。
「そんなに警戒すんな。敵じゃない。ほら、自己紹介だ」
不知火さんが少女に言う。
「……ワタシは、【面霊気】と言う妖魔、だ……。名を……スズナ、と言う」
少女は無表情で自己紹介をした。
「悪いな。主人以外にはこうなんだ」
「主人は大昔の人物じゃというのに、今でも忠誠心が変わらんとは。それだけで心の強さがわかるのじゃ」
「じゃあ、早速見学するか。ついてこい!」
不知火さんはそう言って立ち上がると、手招きをした。
私たちは不知火さんについて行った。なぜかスズナちゃんもついてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、何でも聞いてくれ」
不知火さんはそう言ってくれる。頼もしい。
「オーラって何ですか?」
「ああ、見えないんだったな。聞いている。オーラとは、まあ、その者の力みたいなものだ」
「力……」
「ああ、力が強ければ強いほど、オーラは大きい!」
「四季ちゃんが言っていたのを聞く限り、オーラは隠せるんですよね?」
不知火さんは頷いた。
「ああ! その通り。使い手ほど、オーラを隠す。そして、賢い妖魔ほど、人の形に化ける」
「じゃあ、スズナちゃんも?」
私は後ろにいるスズナちゃんを見た。
「ああ、面霊気とは本来、お面の付喪神だ。ほら、そこの部屋の奴らを見ればわかるだろう」
不知火さんはそう言って、とある部屋を指さした。
そこには付喪神がたくさんいて、その中には空飛ぶお面がいくつかあった。
「生まれて間もない面霊気や、まだ力をうまく使えない面霊気は、見た目は面と変わらねぇ。ただのお面が浮いているように見えるんだ」
「なるほど」
確かに、今まで見た付喪神は手足が生えているだけだった。
「私もオーラを見てみたいな」
「はははっ、修行が必要だが、神名、お前は時間の問題だな」
「そうなんですか?」
「あぁ、さっきも言ったじゃろ。慣れておらんだけじゃと」
「その通りだ。神名の身体は、すでに霊的な力に適応している。だから、きっかけさえあればすぐにでも見えるようになるさ」
不知火さんはそう言って、私の頭を撫でた。
「子供じゃないんですが」
「おっと、そうだったな! すまんすまん」
「……」
悪い人ではなさそう。だけど、少し面倒くさい人かも。
やがて、広い場所に出た。
「ここは?」
その場所にはいくつもの杭のようなものがあり、その上に付喪神が乗っていた。退魔師がその付喪神に向かって何かを唱えている。退魔師の目の前には、人形や人型の紙などが浮いていた。
「退魔師が妖魔を式神として使役するための修行場だ」
「あの人形とか紙は?」
「依代じゃ。あれに妖魔を憑依させ、契約するのじゃ」
「なるほど」
「妖魔を式神化させるには、服従させるか、友好的な関係を築くほかない」
「……ここの付喪神たち……を……陰陽……退魔師の人たちに貸してる……の……」
スズナちゃんが突然答えた。
「貸してる?」
「ああ、退魔師に妖魔を式神化させ、従える術を教えてるんだ。その式神の修行に使う妖魔として、ここの付喪神を使ってるんだ」
「なるほど」
あの杭の上にいる付喪神たちを見ても、嫌そうではなく、むしろ喜んでいるように見える。
「それにしても、よく貸すのう。失敗すれば、双方ともに大怪我じゃ。それに、付喪神は脆い。すぐ壊れてしまうのじゃ」
「ああ、だからこの術を教えるのは、他の修行を完璧にこなした後だ」
(そうなんだ)
「あの、私も修行してみたい、なんて」
「どうしたのじゃ? 急に」
四季ちゃんが不思議そうな顔をする。
不知火さんも同じような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「言ってみろ」
「まだ、数回くらいしか妖魔と会ってないですが、四季ちゃんが戦ってる姿を見て、私も、ただ立ってるだけじゃダメだなって……」
「……なら、アナタも……修行……してみるといい……」
「スズナちゃん……」
「ああ、その通りではある。だが、それを決めるのはお前自身だ。よく考えろ」
「はい」
「そういえば、他の術はここでは教えとらんのか?」
「ああ、ここは式神修行だけだ」
「他の場所ではどんなことを?」
「そうだな、体力修行や精神を鍛える滝行なんてのがあるな」
「なんか、運動部みたい」
「確かにな! 面白いことを言うな、お前は」
不知火さんが笑った。
「シラヌイ……」
「ん? なんだ?」
「カノジョに……護身術を……教えてはどう、だ?」
スズナちゃんがそう提案した。
「ふむ、お前はどうする?」
「……知りたいです!」
「よし、いいだろう。場所を変えよう。裏庭に行くぞ」
私は不知火さんについて行った。
どんなことをするんだろう。少しだけワクワクする気持ちと、緊張とドキドキがあった。




