第16話「人形屋敷」
人形屋敷と呼ばれた屋敷の門が開き、中に入る。門を入ってすぐの庭は池になっていた。そのまま、池に架かる橋を渡る。
「池なんですね」
私は池を覗きながら言う。
「はい、なんでも、ここの持ち主だった術者の趣味とか」
「なるほど」
(あ、鯉が跳ねた)
「なかなか綺麗じゃが、少し不便な気もするのじゃ」
四季ちゃんがそう言った。そうかもしれない。でも、それと同時に美しくもあった。
やがて橋を渡りきり、庭を進んで、屋敷に近づいてきた。
「この辺りまで来たら、人も見えてきた」
私は辺りを見渡す。律さんと似たようなスーツ姿の人がたくさんいた。そばにいる妖魔は……仲間、かな。
「式神か」
「はい」
「式神って?」
「式神とは、依代と呼ばれる器となる物に妖魔を入れたものじゃ。それを使って妖魔を使役する」
「はい、その通りです」
伏見 律はそう言う。
「そして、これが人形屋敷とやらか」
「はい」
人形屋敷。見た目も屋敷っぽい。少し古そうだが、傷んでいるようには見えないほど綺麗になっている。
「あ」
物が動いてる?
「あれが付喪神じゃ」
(茶碗に手足が生えてる………少し可愛い)
「中にはあのような付喪神がたくさんいるので、足元に気をつけてください」
「はい」
そう返事をして、靴を脱ぎ、中に入る。
屋敷の中は、外から見た印象よりも広く感じた。
廊下には木の床が続き、壁には古そうな掛け軸が飾られている。歩いていると、箒を持った付喪神が目の前を横切った。
(あ、今度は箒……)
小さな箒がひとりでに動き、廊下の隅を掃除している。そのすぐそばでは、手足の生えた茶碗がちょこちょこと歩いていた。
「本当にたくさんいるんですね」
「ええ。ここの付喪神たちは、基本的に人に危害を加えません。安心してください」
「それならよかったです」
私は足元に気をつけながら、律さんの後ろを歩いていく。
廊下を進むにつれて、すれ違う退魔師の人たちも増えてきた。中には四季ちゃんを見て驚く人もいたが、律さんが先導しているからか、特に声をかけられることはなかった。
「ここです」
律さんが廊下の奥で立ち止まる。目の前には、ほかの部屋よりも立派な襖があった。
「この部屋で、上の者がお待ちしています」
「上の者?」
「はい。今回、あなた方を呼ぶように指示した方です」
(私を呼んだ人……)
私は少し緊張しながら、四季ちゃんを見た。
「心配するでない。何かあれば、わらわがついておる」
四季ちゃんは自信満々にそう言った。
「うん、ありがとう」
私は小さくうなずく。
「では、失礼します」
律さんが襖に手をかけ、ゆっくりと開いた。
私は四季ちゃんと一緒に、その奥の部屋へと足を踏み入れた。
部屋の奥には、赤髪の女性が座っていた。
「待っていたぞ。アタシは【七妖師】の一人、【火曜師】の『火野 不知火』だ! よろしくな!」
不知火と名乗ったその女性は、そう言って手を差し出した。
「あ、よろしく」
(元気な人だな〜)
そう思った。
でも、一筋縄では行きそうにない、そんな感じがした。




