第15話「退魔師と拠点」
四季ちゃんと私は、『伏見 律』という退魔師に会い、退魔師の基地のような場所に案内されている。
今は黒塗りの車に揺られながら、目的地へと向かっていた。
「さて、君たちは退魔師について、どこまで知っているのかな?」
「悪い妖魔を退治する存在としか」
「はい、合っています」
律は落ち着いた様子で答えた。
「私たちは、なんのために呼ばれたの?」
「………確かめるため、でしょうか……。詳しくは私でもわかりません」
「そうか、じゃが、この車はどこに向かっておる? お主たちの基地なのじゃろう?」
「はい、ここから近い我々の拠点、『人形屋敷』です」
「人形屋敷?」
聞き慣れない名前に、私は思わず聞き返した。
「複数あるのか」
「はい、もしもの時のため、らしいです」
退魔師の拠点は一つだけではないらしい。もしもの時のためということは、それだけ妖魔との戦いに備えているのだろうか。
「あの、退魔師のこと、もっと教えてもらえますか? 歴史というか……」
「なるほど、わかりました」
そう言い、律はメガネを整えると、話し始めた。
「我々、退魔師は昔、陰陽師と呼ばれ、昔の妖魔の呼び名である妖怪と戦っておりました」
陰陽師、妖怪。聞いたことはある。
けれど、退魔師が陰陽師と呼ばれていたなんて知らなかった。
「しかし、その戦いはいつまでも終わらず、両者ともに疲弊するばかり。そこで我々は標的を悪意ある妖怪に絞り、名称も変え、今に至ります」
「なるほどの。しかし、それでよく今の時代になったものじゃ」
四季ちゃんは納得したようにうなずいたあと、疑問を口にした。
「と、いいますと?」
「妖怪側も陰陽師側も、大切なもんを殺されとるじゃろ? 納得する者も少なかったのではないか?」
律はしばらく沈黙し、考えるような間を置いてから口を開いた。
「……はい、反対する者もいたと伝わります。そういった集団は今でもいるのです……。その集団を『操魔師』といいます」
聞いたことのない名前だった。
「操魔師って?」
「はい、妖魔を操り、人々に害をもたらし、その妖魔を退治することで人々に救世主だと思わせ、洗脳する。簡単に言えば、自作自演する輩です」
「なるほど」
(本当に簡単……)
説明があまりにも簡潔で、私は心の中でそう思った。
「たしかに、それは厄介じゃな」
四季ちゃんも納得したようだった。
「恐らく、上はあなたたちが操魔師ではないかを確かめたかったのではないかと、自分で納得しました」
律は自分の考えを口にした。
「ふむ、それで、招いたのはその操魔師とやらと組まんように、そちら側に引き込むためか」
「おそらくは」
「まぁよい、わらわとしては、神名に危害がなければ好きにすれば良い」
四季ちゃんはそう言うと、それ以上は気にする様子もなかった。
私はふと、窓の外を見た。
「あ、屋敷が見えた」
遠くに屋敷らしき壁が見えた。車は、あそこへ向かっているらしい。
「あぁ、あれです。拠点の一つ、『人形屋敷』。先に言っておきます。あの屋敷には付喪神が大量にいますが、敵意はないので大丈夫です」
付喪神が大量にいる屋敷。
その言葉に少し驚いたけれど、四季ちゃんは別のことに気づいたようだった。
「なるほど、じゃからオーラがあんなに漏れ出ておるのか」
(オーラ……ちょくちょく聞くけど、私には見えない)
四季ちゃんには見えているらしい。でも、私にはまだ分からない。
「まだお主が慣れておらんだけじゃ。じきに見える」
「そうなんだ」
いつか私にも見えるようになるのだろうか。
「あなたはオーラが見えないのですか?」
律がこちらを見て尋ねた。
「はい、四季ちゃんに妖魔とかが見えるようにしてもらったのですが、まだ見えないみたいです」
「なるほど」
律は短く答え、それ以上は追及しなかった。
しばらくして、車がゆっくりと速度を落とした。
「あ」
車が止まった。
「着きました」
「そうじゃ、一ついいか?」
四季ちゃんは降りる前に質問があるようだ。
「なんでしょう?」
「そんなに付喪神がおって、統率は取れるのか?」
「そこは問題ありません。大昔、この屋敷の主人である術者の式神として、とても強大な付喪神が一人いるのですが、その付喪神は他の付喪神の長のようになっていて、統率は取れています」
「なるほど、………降りるぞ」
「あ、うん」
黒塗りの車のドアが開き、私たちは車から降りた。
目の前には、巨大な門がそびえ立っていた。
「ここが、人形屋敷………」
これほど大きな門の向こうに、たくさんの付喪神がいるのだろうか。
私は門を見上げながら、これから何が待っているのか考えていた。
「では、ご案内します」
律はそう言うと、門の向こうへと歩き始めた。
何が起こるのか、少し緊張もするが、行かなくてはいけない気がした。




