淫魔と自衛隊
有紗先輩の言葉によって、場の緊張感が一気に高まった。
自衛隊員の多くが、本当に今すぐにでも俺達を撃ち殺せるように銃のトリガーに指をかけ、身体を硬くさせているのが俺の目にも分かった。俺は横にいる有紗先輩をふと見た。有紗先輩は、笑っていた。これから始まるであろう衝撃を予感してか、嵐の前の静けさを楽しんでいるかのようだった。
そして、それはたった一回の瞬きよりも刹那的なスピードで起こった。
「撃ち方用意。……撃てっ!」
大量の自衛隊員の奥からそんな声が聞こえると、次の瞬間、俺達に向かって大量の鉛玉の雨が降り注いできた。
それを避けられるはずなどなかった。俺は身体を大量の鉛玉によって貫かれた。俺の身体に当たった鉛玉は、俺の肉体を裂いて喰って破裂させた。自分の身体が実際には破裂などしていないことは分かっていたが、そうとしか思えないほどに俺は耐え難い痛みに襲われた。
俺の身体は地面に投げ出された。俺は鉛玉に吹き飛ばされて地面へと投げ出されると、そこから一切身体に力が入らなくなった。意識も朦朧としはじめ、心臓の鼓動は最後の輝きと言わんばかりに唸りを挙げる。俺は地面に横たわりながらふと、有紗先輩を見上げた。いや、頭少し動かすこともできない俺の視線の真ん中には、有紗先輩の姿がちょうど捉えられていた。
そんな俺の目に飛び込んできた有紗先輩の姿に、俺は一瞬意識がハッとし明瞭になった。
俺の視線の真ん中にいる有紗先輩は――大勢の自衛隊員に立ち向かっている有紗先輩は――背中に羽が生え、この世のものとは思えないような姿に変わっていた。
俺は、意識が朦朧としている中でも、その有紗先輩の姿が淫魔の姿であることが分かった。それが、有紗先輩の真の姿であると。淫魔へと変身した有紗先輩の姿は、とても美しかった。人間の姿よりもより妖艶さが増し、妖精のようにも魔法使いのようにも思えるその姿に、俺は心底見惚れてしまった。
駄目だ、意識が掠れていく……。
俺は口から血を吐いた。口以外からの出血も酷いことが感覚で分かる。
だが俺は視線だけは有紗先輩を捉え続けた。淫魔へと変身した有紗先輩は、未だ降り注いでいる鉛玉の雨を避けることなどせず、全て浴びていた。だが有紗先輩の身体に傷のようなものは見受けられなく、実際に痛くも痒くもなさそうな表情をしていた。
鉛玉の雨が止んだ。
鉛玉の雨が止むと、有紗先輩は腹を抱えて笑いはじめた。
「ハハっ、ハハハハハハハハ! え? もうそれで終わり?」
有紗先輩にはそれが凄く面白いようだった。有紗先輩は腹を抱えながら同時に頭も抱えて、豪快に馬鹿笑いしていた。
「じゃあ、反撃ね」
有紗先輩がそう呟くと、大勢の自衛隊員達はたじろいでその場から逃げ始めようとする者もいたが、それじゃもう遅いことを俺は思い知らされた。
「破壊――」
次の瞬間、その場にいる全ての自衛隊員が地面に膝をつき、頭を抱えはじめた。
『破壊』というのが技名だということに俺は気がついた。有紗先輩も技名とか言うんだなぁ、とかしょうもないことを無意識的に思った俺は、ホントにホントに意識が失われかけていた。
俺はこのとき、有紗先輩のその技が〝相手に耐え難いほどの快楽を与える技〟であると何故だか思った。それはただの憶測だったが、実際にそのような姿を全ての自衛隊員は見せていた。あの顔、あの姿勢、俺も男だから分かる。急に頭をぶち抜かれたようなあの射精の感覚……。有紗先輩はやっぱり、耐え難い快楽を相手に与えたんだな。
俺は朦朧とする意識の中でどこか冷静にそう結論を出すと、自然と瞼が下りてきた。
全ての自衛隊員を倒したのか、有紗先輩が俺の元に足速に近づいてくる音が聞こえる。視界はもう既に全て失われており、肉体感覚も半分以上は失われている。いや、本当に身体が欠損してもいるんだ。
「大翔君……大丈夫? 起きて!」
俺は有紗先輩に身体を揺り動かされる感覚を最後に、意識を失った。これが死ぬということなのだろう。睡眠とはまた違う根源的な意識の落下だった。




